WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

エリック・ドルフィーのアウト・トゥ・ランチ

2006年09月09日 | 今日の一枚(E-F)

●今日の一枚 42●

Eric Dolphy     Out To Lunch !

Scan10014_1  1964年の演奏。ドルフィーのスタジオ録音とてしては最後の作品である(ライブとしてはあの『ラスト・デイト』が最後)。ドルフィーはこの録音の3ヶ月後、36歳の若さでベルリンで客死する。

 通常、名盤といわれる作品だ。しかし、例えば寺島靖国さんのように「馬鹿のひとつおぼえみたいに、ドルフィー、ドルフィーと言うが、名前で聴くなといいたい。心のない吹奏。馬のイナナキとは至言。」 (『辛口 ! JAZZ名盤 1001』講談社α文庫)と手厳しく批判する評論家もいる。馬のイナナキといわれてみれば、そう聴こえないこともない。確かに、小難しい音楽なのかもしれない。

 けれども、私はなぜか昔から好きな一枚である。何となく気分がいいのだ。ドルフィーの前衛的な演奏の意味を深く理解できるわけではないし、中山康樹さんのようにこのアルバムにおけるトニー・ウィリアムスのドラムを大きく評価しているわけでもない。まさに何となく好きなのである。うまく説明できないが、総合的なサウンドとして好きなのだ。手前みそな言い方で恐縮だが、この作品は特定の個人のインプロビゼーションではなく、トータルな表現を聴くべきものなのではなかろうか。そもそもこのアルバムでドルフィーはトータルなサウンドとしての音楽表現を目指したのではないかと思うのである。そう考えると、この作品のアンニュイで何となく不安定な雰囲気が本当に気持ちいいという私の昔からの感想は異常なものではないのではと思う。(やはり、自己正当化だろうか。)

 プレーヤー個々の演奏についてしいて言えば、ボビー・ハッチャーソンのヴァイブが絶妙のアクセントをつけていることを高く評価したい。ハッチャーソンのヴァイブがなければ、寺島氏の言うように、まさに「馬のイナナキ」のような聴くに堪えない作品だったかもしれない。

 私は酒を飲みながら、あるいは本を読みながら、ときどきこのCDを再生装置のトレイにのせる。長時間聴いてもまったく聴きあきしない作品であるばかりでなく、気分良くビートに同化できる一枚である。