Memorandums

知覚・認知心理学の研究と教育をめぐる凡庸な日々の覚書

「○○療法」の科学性と求められるもの

2005-06-10 | Psychology
 心理学の周辺では(もちろんその内部でも)○○療法と称される研究がしばしばみられる。例えば、音楽療法などはしばしば学生も興味を持つものの一つであり、また通俗的にもマスコミに取り上げられやすい。
 さて、「科学的」にそのような○○療法の有効性を実証しようとする場合、実験的にその療法の効果を検討することが行われるが、その方法の基礎は以下のようなものになろう。ひとつは統制群法であり、当該の療法を実施した群と実施しない統制群を設けて、両群をその療法の処遇以外は等質になるように工夫するものである。その上で、両群の結果を何らかの測度(○○検査得点など)において比較し、統計的に有意な差をもってその療法の効果を認めるものである、
 あるいは、一群の被験者群に当該療法を実施する前後で測定を行い、両者を比較する事前事後計画が用いられることもある。さらには統制群法と事前事後法を併用することによって、より明確に療法の実施と測定結果の間の因果関係を検証することが行われる。
 このような方法は、心理学教育の二年次などで解説されることであるから、特に目新しいことではあるまい。重要なことは、これらの方法で仮に統計的に有意な差が見出されたとしても、それだけでは「何ら科学的説明の有効性を保証するものではない」ということである。つまり、その療法の「何が」有効であったのかは別に仮説として明言されている必要がある。たとえば、音楽のうちの何が(周波数、テンポ、等々)影響を与えたのか。「Mozartの音楽」のような記述では、その何が測定結果との間に因果関係をもっていたのかわからない。Mozartの音楽ならば、Clara Haskilの演奏でも隣の子どものお稽古でも同じとはだれも言わないだろう。
 このようなcriticalな要因についての仮説なしには、実は統制群を設定することもできないはずである。なぜなら、その要因以外をすべて等質にすることが統制群法の要点であるからだ。そこに音楽療法の効果を検証することの困難さがあることは、すでに40年も前に指摘されていることである(梅本,1966)。
 有効な仮説を欠いた統制群法の適用は、しばしば教授法の研究や入試方法の検討でもみられるものである。安易に入試方法別に入学後の成績を比較して、入試方法の妥当性を論じようとするだけでは、少なくとも上と同じ点で科学的説明にはならない。各群においてどのような要因(変数)がいかに関係して、結果としての成績が得られたのか、その仮説ないしモデルなしには検証は成立しない。
 それでは、○○療法についての「科学的」検証に現在もとめられることは何であろうか。少なくとも現時点では、当該療法を実施する過程でどのような要因がいかに関係しているか、について綿密な観察を行うことであり、そこから有効と思われる仮説を提案することであると思う。それには当該療法の習熟した「専門家」が、療法を実施した際のメカニズムについての仮説を常に意識しながら科学的観察を行い、再現と検証が可能な記述を継続する必要があろう。

References
梅本堯夫 1966 音楽心理学 誠信書房

 
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