『超世間賛』(出世間賛)ナーガールジュナ(龍樹)大師
(マリア・リンチェン氏訳)
サンスクリット語で『ローカーティータ・スタヴァ』
チベット語で『ジクテン・レ・デーパル・トゥパ』
若き文殊菩薩に礼拝いたします
1
〔二つの障りを〕離れた〔空の〕智慧に精通し
世間を超越されたあなた(釈尊)に礼拝いたします
あなたは有情を利益するために
慈悲の心で長く苦しんでこられた
2
「単なる〔五〕蘊と別個に存在する有情はいない」
とあなたは言われるが
有情を救済する行ないにも完全に従事して
偉大な成就者であるあなたはとどまっておられる
3
賢者であるあなたは
五蘊もまた、幻、蜃気楼、乾闥婆(食香)の都
そして夢のようなものであると
知性ある者たちに正しく説き示された
4
因から生じたものはみな
それ(因)がなければ存在しないので
映像と同じようなものだと
何故明らかに主張しないのか
5
〔四大〕要素は目で認識できないのだから
その実体をどうやって目で認識できると言うのか
物質的な存在〔の実体〕をとらえることを完全に否定して
あなたは物質的な存在をこのように説かれた
6
感じる対象がなければ感覚はないのだから
感覚自体には実体がない
故に、感覚もまた
自性によって存在しているのではない、とあなたは言われている
7
名前とその意味するものが別のものでないならば
火〔という名前だけ〕で口が焼けてしまうことになる
〔火とその名前が〕別のものならば、〔火を〕認識できなくなってしまう
真実を語るあなたは、このように説かれた
8
行為者は独立した存在であり、行為もまた〔独立した存在〕であるというのは世俗のレベルにおいてあなたが説かれたことである
〔行為者と行為は〕互いに依存して成立しているだけだと
あなたは説き示されている
9
行為者は存在せず、主体者も存在しない
功徳も存在せず、これらは縁起によって生じている
「他に依存して生じるが、〔それ自体の力で〕生じたのではない」と
言葉の主であるあなたは言われた
10
意識〔によって認識されること〕がなければ、認識対象ではない
それ(認識対象)がなければ意識もない
故に、意識と認識対象に
固有の実体はない、とあなたは言われた
11
定義と定義対象が別個のものならば
定義対象は、定義を持たないことになる
別個のものでなくても、〔どちらも実体を持って〕存在しているのではないとあなたは明らかに示された
12
定義も定義対象もなく
言葉による表現もないと
あなたは智慧の目によって
有情たちに寂静をもたらされた
13
存在している事物が生じることはない
存在していない〔事物が生じること〕もないし、両方〔が生じること〕もない
それ自体から〔生じるの〕でもなく、他から〔生じるの〕でもない
その両者から〔生じるの〕でもないのだから、どうやって生じると言うのか
14
〔自性によって〕存在しているものがとどまり続けるのは論理にかなっており消滅していくことはない
存在していないものがとどまり続けることはないのも論理にかなっており
消滅していくことはない
15
まず、消滅した因から結果が生じるというのは
論理にかなっていない
また、消滅しない〔因〕から〔結果が生じること〕もないので
生成は夢に似ている、とあなたは説かれた
16
消滅した因や消滅していない因から
結果が生じることは
幻が生じるようなものである
すべてはこのようなものだとあなたは言われた
17
故に、あなたは
これら〔の認識対象〕は完全に概念作用から生じたものなので
すべての認識対象が生じても
生成も消滅もないと言われた
18
永遠なるものに輪廻は存在しない
無常なるものにも輪廻は存在しない
これを知った最勝なるあなたは
輪廻は夢の如きものだと言われた
19
苦しみは、自分が作ったもの
他者が作ったもの、両者が作ったもの
あるいは〔苦しみに〕因はない、と弁論者たちは主張するが
あなたは縁起によって生じたと言われた
20
他に依存して生じたもの
それは空である、とあなたは説かれた
事物には独立した実体はないと
比類なきあなたは獅子の声で〔言われた〕
21
すべての概念作用を滅するために
あなたは甘露のような空を示された
しかし、これ(空)に執われる者を
あなたは強く非難された
22
自力で機能できず、他に依存し、空であり
幻のようで、条件〔に依存して〕生じるものなので
すべての現象には実体がないということを
守護者であるあなたは〔世に〕知らしめられた
23
あなたは何も生み出されていないし
否定されたことも何もない
以前から真如を理解されており
これからも同じである
24
聖者たちが示されたような
瞑想に入ることなく
意識を無相の状態に
することなどできようか
25
無相〔の修行〕に入らなければ
解脱はないと〔あなたは〕言われた
故に、あなたは大乗〔経典〕のすべてに
それ(無相)を示されたのである
26
賞賛すべき器であるあなたを讃えることにより
私が積んだすべての功徳によって
すべての有情たちを
相の束縛から解放することができますように
『超世間賛』(世間を超越された〔仏陀への〕賞賛)という聖なる師ナーガールジュナによる著作はここに完結した
インドの僧院長クリシュナ・パンディッタと翻訳官ツルティム・ギャルワが翻訳・校正し、完成させた
Japanese translation completed by Maria Rinchen, Dec. 2011
参照ブログ チベットNOW@ルンタ
http://blog.livedoor.jp/rftibet/
ダラムサラ通信 by中原一博(www.lung-ta.org)
「前行法話最終日/ナーガールジュナ『超世間賛』全文」内より 2012年01月06日
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51723274.html
(マリア・リンチェン氏訳)
サンスクリット語で『ローカーティータ・スタヴァ』
チベット語で『ジクテン・レ・デーパル・トゥパ』
若き文殊菩薩に礼拝いたします
1
〔二つの障りを〕離れた〔空の〕智慧に精通し
世間を超越されたあなた(釈尊)に礼拝いたします
あなたは有情を利益するために
慈悲の心で長く苦しんでこられた
2
「単なる〔五〕蘊と別個に存在する有情はいない」
とあなたは言われるが
有情を救済する行ないにも完全に従事して
偉大な成就者であるあなたはとどまっておられる
3
賢者であるあなたは
五蘊もまた、幻、蜃気楼、乾闥婆(食香)の都
そして夢のようなものであると
知性ある者たちに正しく説き示された
4
因から生じたものはみな
それ(因)がなければ存在しないので
映像と同じようなものだと
何故明らかに主張しないのか
5
〔四大〕要素は目で認識できないのだから
その実体をどうやって目で認識できると言うのか
物質的な存在〔の実体〕をとらえることを完全に否定して
あなたは物質的な存在をこのように説かれた
6
感じる対象がなければ感覚はないのだから
感覚自体には実体がない
故に、感覚もまた
自性によって存在しているのではない、とあなたは言われている
7
名前とその意味するものが別のものでないならば
火〔という名前だけ〕で口が焼けてしまうことになる
〔火とその名前が〕別のものならば、〔火を〕認識できなくなってしまう
真実を語るあなたは、このように説かれた
8
行為者は独立した存在であり、行為もまた〔独立した存在〕であるというのは世俗のレベルにおいてあなたが説かれたことである
〔行為者と行為は〕互いに依存して成立しているだけだと
あなたは説き示されている
9
行為者は存在せず、主体者も存在しない
功徳も存在せず、これらは縁起によって生じている
「他に依存して生じるが、〔それ自体の力で〕生じたのではない」と
言葉の主であるあなたは言われた
10
意識〔によって認識されること〕がなければ、認識対象ではない
それ(認識対象)がなければ意識もない
故に、意識と認識対象に
固有の実体はない、とあなたは言われた
11
定義と定義対象が別個のものならば
定義対象は、定義を持たないことになる
別個のものでなくても、〔どちらも実体を持って〕存在しているのではないとあなたは明らかに示された
12
定義も定義対象もなく
言葉による表現もないと
あなたは智慧の目によって
有情たちに寂静をもたらされた
13
存在している事物が生じることはない
存在していない〔事物が生じること〕もないし、両方〔が生じること〕もない
それ自体から〔生じるの〕でもなく、他から〔生じるの〕でもない
その両者から〔生じるの〕でもないのだから、どうやって生じると言うのか
14
〔自性によって〕存在しているものがとどまり続けるのは論理にかなっており消滅していくことはない
存在していないものがとどまり続けることはないのも論理にかなっており
消滅していくことはない
15
まず、消滅した因から結果が生じるというのは
論理にかなっていない
また、消滅しない〔因〕から〔結果が生じること〕もないので
生成は夢に似ている、とあなたは説かれた
16
消滅した因や消滅していない因から
結果が生じることは
幻が生じるようなものである
すべてはこのようなものだとあなたは言われた
17
故に、あなたは
これら〔の認識対象〕は完全に概念作用から生じたものなので
すべての認識対象が生じても
生成も消滅もないと言われた
18
永遠なるものに輪廻は存在しない
無常なるものにも輪廻は存在しない
これを知った最勝なるあなたは
輪廻は夢の如きものだと言われた
19
苦しみは、自分が作ったもの
他者が作ったもの、両者が作ったもの
あるいは〔苦しみに〕因はない、と弁論者たちは主張するが
あなたは縁起によって生じたと言われた
20
他に依存して生じたもの
それは空である、とあなたは説かれた
事物には独立した実体はないと
比類なきあなたは獅子の声で〔言われた〕
21
すべての概念作用を滅するために
あなたは甘露のような空を示された
しかし、これ(空)に執われる者を
あなたは強く非難された
22
自力で機能できず、他に依存し、空であり
幻のようで、条件〔に依存して〕生じるものなので
すべての現象には実体がないということを
守護者であるあなたは〔世に〕知らしめられた
23
あなたは何も生み出されていないし
否定されたことも何もない
以前から真如を理解されており
これからも同じである
24
聖者たちが示されたような
瞑想に入ることなく
意識を無相の状態に
することなどできようか
25
無相〔の修行〕に入らなければ
解脱はないと〔あなたは〕言われた
故に、あなたは大乗〔経典〕のすべてに
それ(無相)を示されたのである
26
賞賛すべき器であるあなたを讃えることにより
私が積んだすべての功徳によって
すべての有情たちを
相の束縛から解放することができますように
『超世間賛』(世間を超越された〔仏陀への〕賞賛)という聖なる師ナーガールジュナによる著作はここに完結した
インドの僧院長クリシュナ・パンディッタと翻訳官ツルティム・ギャルワが翻訳・校正し、完成させた
Japanese translation completed by Maria Rinchen, Dec. 2011
参照ブログ チベットNOW@ルンタ
http://blog.livedoor.jp/rftibet/
ダラムサラ通信 by中原一博(www.lung-ta.org)
「前行法話最終日/ナーガールジュナ『超世間賛』全文」内より 2012年01月06日
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51723274.html