野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

ペットボトルの茶と家庭でいれる茶は別物!

2008-04-29 09:42:41 | Weblog
 中国駐在員の糖尿病と同じ本からです。「ペットボトルの茶と急須でいれる茶は別物」、まさにその通りです。2Lのペットボトルを200円で売ろうと思えば、どれだけ原料である茶葉のコストを下げないといけないか考えると、家庭で購入するような良質の茶葉は使えないという意味では、正解だと思います。静岡県茶業会議所のホームページでは、お茶の入れ方を紹介しています。1人当たり3gとされます。2Lを20人分と考え、100gあたり千円の茶葉を使えば、ペットボトル1本分で茶葉代だけで600円になります。飲料メーカー各社とも、原料費を安くするために苦労されていると思います。
 ところで、この本の著者が家庭でいれる茶とは異なるとしてペットボトルの茶を否定する根拠は、ビタミンCが添加されている点です。茶葉にもビタミンCは含まれますが、製品を安定化するため確かにペットボトルの茶にはビタミンCが添加されています。著者の書かれている通り、その量は500ml飲めば、1日の所要量(100mg)に匹敵します。著者はビタミンCの過剰摂取につながるとして否定的です。例えばビタミンAについては過剰摂取による健康被害が懸念されるので、最大摂取許容量が定められていますが、ビタミンCについては、100mgくらい多くとっても悪い影響は出にくいものと考えられています。
 カット野菜の項目では、栄養分(特にビタミンCなど水溶性成分)のロスを気にしながら、なぜ、ペットボトルの茶のビタミンCを問題にするのか、私には分かりません。



中国駐在員に糖尿病が多い?

2008-04-29 08:50:46 | Weblog
 センセーショナルなタイトルの食品関連本の1項目のタイトルです。
 中国駐在の商社マンが現地で糖尿病に罹患する場合が多い。その原因は、硝酸塩濃度の高い中国産野菜を食べるからだと著者は述べています。
 硝酸塩濃度の高い飲料水を摂取すると、糖尿病を発病する危険性が上がる可能性については著者の指摘する通りかもしれません。(関連する文献もあるようです。)糖尿病になった方の勤務先の水道水の硝酸塩濃度を測ったら異常に高いので、水は飲まないほうがよいですよというのなら話は通ります。
 ところが、中国に行った商社マンは水道水は飲まないので、原因は野菜の硝酸だとするのは飛躍しすぎではないでしょうか?著者は中国産のチンゲンサイから5100ppmの硝酸塩が検出されたことを根拠にしています。これが国産品に比べて異常に高い値であれば、中国野菜への警鐘になるかもしれません。日本食品科学工学会誌、52巻、12号(2005)に国産野菜中の硝酸塩濃度の測定値が公表されています。たとえば、ホウレンソウの測定値で最大値は9220ppmとされます。中国産の野菜の硝酸塩濃度が高いので、中国の駐在員は野菜を食べて糖尿病になったのだというには、余りにも根拠不足です。
 海外駐在というストレスも多く、生活習慣も変わる環境にあって、何が生活習慣病に影響したか要因を探すのは容易ではありません。中国食品バッシングの流れに安易に便乗するのはいただけないものと感じます。

タマネギを切ると涙が出る理由

2008-04-27 06:32:49 | Weblog
 「キャベツだって花が咲く」稲垣栄洋著が出版されました。ホームセンターに行けばキャベツのタネは購入できるので、花が咲くのは当たり前だろうと思うのですが、内容はお薦めです。人が植物をいじって改良させたのか、植物の進化を手伝わされたのか、野菜とひとくくりにされるもののその多様性をうまくまとめられています。
 ただ一点、良い本だけに他の著述家からそのまま引用される可能性が高いので指摘させていただきます。タマネギを切ると涙が出ることへの説明として、細胞の中にあった刺激性のないアリインが、揮発性の催涙物質アリシンに変化するためとされています。
 以下、「バイオサイエンスとバイオインダストリー」63巻2号を参照しています。1.催涙成分のもとはアリイン(2-propenyl-cysteine sulfoxide)ではなく、PRENCSO(1-propenyl-cysteine sulfoxide)です。2.従ってアリシンは生成しません。3.アリシンは催涙性成分ではありません。著者らは、PRENCSOにAlliinaseが作用し、さらにその生成物に別の酵素(LSF)が作用して、催涙成分が生成するのだとしています。ニンニクにもAlliinaseはあるのですが、LSFがないため、催涙成分が生成せず、ニンニクでは涙が出ないそうです。
 ネギもニラもタマネギも、アリイン、アリシンで片付けられがちです。これらの野菜はAlliinaseという酵素の作用で、独特の硫黄を含む刺激臭物質が生成されるところはニンニクと共通です。しかしながら、ニオイの元になる物質は、アリインだけでなく、野菜の種類によって異なること、また、LSFのような酵素も持つ野菜と持たない野菜が有ることなどにより、香りや催涙性も異なるはずです。

超能力番組を10倍楽しむ本

2008-04-26 11:16:46 | Weblog
 山本弘著の表題の本の紹介です。前回が宇宙人で今回が「超能力」、タイトルがオカルトっぽくなってきましたが、ちょっと寄り道程度です。
 参議院議員までやられた方が司会するテレビ番組でユリーゲラーの超能力に釘付けになった者には、まさに目から鱗のおもしろい本です。さんざん超能力番組のヤラセやトリックについて紹介した後のエピローグで、「バラエティー番組はウソだらけ!」と斬り捨てています。なるほど、「バラエティー番組はウソでも楽しめればよい」という発想なら、超能力番組に科学者を登場させたと同じような理屈で、健康番組に科学者を登場させて、針の先のような研究成果を宇宙の大きさにまで膨らませてもよかったのかもしれません。ところが、一般の人は超能力者とはおつきあいがないので、「夢」でよかったのですが、健康や食品は日常の関心事です。楽しめればの発想から、データの捏造やナレーションの吹き替え、さらには白インゲンのような健康被害が起こったのでしょう。
 いっぽうで、昨年明かになった一連の食と健康をめぐる放送事件に関しても、超能力を扱ったテレビ番組をみて批判力を養っておけば、ああいった社会問題にはならなかったのかと思われます。
 関西テレビが民放連に復帰するそうですが、番組をまじめにつくればおもしろみがなくなるし、かといって以前のようなイケイケドンドンの雰囲気では放送倫理にひっかかるしで、制作現場では苦労されているものと推察します。

宇宙人に茶を輸出できるか?

2008-04-20 09:12:24 | Weblog
 日経サイエンスの3月号に「イヌにとってチョコレートは毒なの?」という興味深い記事が掲載されています。チョコレートに含まれるテオブロミンがイヌに吐き気やけいれんを生じさせ、ビーグル犬では30gのミルクチョコレートで具合が悪くなるそうです。
 テオブロミンはメチルキサンチンの仲間で、カフェインもメチルキサンチンです。コーヒーやお茶にもカフェインは含まれますので、イヌによっては「毒」だといえます。カフェインは、お茶やコーヒーだけでなく、医薬品や栄養ドリンクにも添加されています。
 食品添加物や農薬の安全性を考えるときに、ADI(一日摂取許容量)が重要です。詳しくは、Wikipediaなどに記載されていますが、目的の物質を実験動物に与えて全く影響が出ない量を推定するわけです。
 かつて、日本にお茶がもたらされた時には、当時の超先進国中国で使われている薬として、安全性の評価なく導入されたはずです。また、明治時代に輸出された茶についても、日本人も中国人も飲んでいるものだからという理由で、安全面のチェックなく、欧米に受け入れられたものと思われます。食経験を根拠にして、世界に茶は広まったといえます。
 ところが、仮に地球人と同じタイプの宇宙人に茶を輸出しようとすると・・・。宇宙人は宇宙犬を用いて安全性の試験を試み、カフェインを与えたらイヌがけいれんしたとすれば・・・。カフェインを含む食品は危険だとして、茶やコーヒーは輸出できない事態になるかもしれないと、考える日曜の朝でした。

 

キュウリのイソクエルシトリン再び

2008-04-12 16:14:24 | Weblog
 昨年10月に、キュウリのイソクエルシトリンについて記載しました。イソクエルシトリンというのはポリフェノールの1種ですが、半年たった今に至っても、分析したデータはみつかりません。
 キュウリについてのネット情報を観察すると、利尿作用など「尿」と関連する言葉がイソクエルシトリンに関連づけられています。「尿」から想像するのは「尿素」、そういえば「尿素サイクル」にはシトルリンというアミノ酸が参加してました。シトルリンはキュウリなどウリ科野菜に含まれるアミノ酸です。シトルリンとイソクエルシトリンを、どこかの偉い先生が間違ってしまったとすれば、あちこちに書かれている効能について結構つじつまがあいます。
 Rimandoら(2005)によれば、スイカ 1kg中に、1gのシトルリンを含み、赤肉のものより黄色いものに多いそうです。スイカの食べ過ぎによるものと疑われる子供の発育障害もあるようなので、効能ばかりを信じて「シトルリン」を摂りすぎるのも危険かもしれません。
 キュウリにシトルリンが含まれることは間違いないのですが、どの程度含まれるのか、分析値は今持っておりません。
 

レタスの変色は50度のお湯で防げるか

2008-04-12 13:52:33 | Weblog
 あるテレビ番組で、レタスを50度のお湯につけるとシャキシャキして、しかも褐変しないと放送されていました。ヒートショックが、褐変防止に有効との説明でした。
 確かに、化学と生物(2007年、6号)には、ヒートショックの結果、褐変のもとになるポリフェノールの合成が抑えられるために、褐変しないのだと書かれています。ただし、示された図の横軸は3日後、6日後となっています。元の論文、Biosi. Biotechnol. Biochem., 68, 501-507 をみますと、褐変の程度の調査もやはり3日おきに観察し、確かにヒートショックを与えると、褐変していないという結果が示されています。
 カットレタスなど、切ったレタスを長期保存しなければならない場合には確かに有効な方法かもしれません。ただ、多くの視聴者が期待しているのは、サラダを食卓に出すまで、あるいはお弁当にいれたときに褐変しない方法ではないでしょうか。ヒートショックの理屈でいくと、刻んですぐに起こる変色には対応できないはずです。(褐変に関係する物質の生合成は関係しないため。)
 では、6日程度保存する場合に、50度の湯につけるのが最適かというと、J. Food Science 71, S188 (2006) によれば、確かに変色は防げますが、ビタミンCの低下、微生物の増殖、食感、色の低下なども生じることが報告されています。50度のお湯につける方法も万能ではないということでしょう。
 家庭では、奇策に頼らず、できるだけ新鮮なものを食べるのがおいしく味わう方法だと考えます。
 なお番組HPには「レタスの細胞が死ぬと、食べられなくなる」と書かれていますが、HPで紹介されている加熱料理ではすべて細胞は死んでいるはずです。まさか、食べたら食中毒を起こすようなものを紹介することはないと信じますが・・・。また、切り口から出る白い液がポリフェノールだと紹介されていますが、白く乳濁するようなポリフェノールって???じゃあ、何が白いのかと聞かれても困りますが。

ナスのルチン

2008-04-06 12:10:34 | Weblog
 以前、ナスの蔕のルチンがしもやけに効くか書きました。今回は、「**食べもの事典」の続きです。
 ナスについても紹介されていますが、特にルチンについて言及されていません。ところが、「有効成分」についてまとめたページに、ルチンを多く含む食材のひとつとしてナスが上げられています。
 ナスにルチンが多く含まれるという報告は見たことがありません。2006年に県立新潟女子大の立山らが、ナスのアントシアニンとクロロゲン酸を測定しています(日本食品科学工学会誌、53、218-224)。目的は抗酸化性の評価にあるので、もし、ナスに抗酸化成分であるルチンが含まれるのなら、測定しないまでも、論文の中で言及するはずですが、全く触れられていません。ナスのルチンも都市伝説でしょうか。
 論文を読んでいておもしろいことに気づきました。ナスの紫色はアントシアニン色素によるものですが、その成分名としてdelphinidine 3-O-rutinosideなどが上げられています。デルフィニジンというポリフェノールにルチノースという糖がくっついたものです。一方、ルチン(rutin)はケルセチン(ポリフェノールの一種です。)にルチノースがくっついたもの。delphinidine 3-O-rutinoside にも確かに「rutin」の文字は入っています。ルチノースという名前の糖が含まれるだけで、ケルセチン-3-ルチノシド(ルチン)そのものとはポリフェノール部分が異なるのですが、・・・。なぞなぞの世界ではないので、ナスにrutinが多く含まれるというのは「間違い」のはずです。 

ニガウリの苦味に健康効果???

2008-04-06 09:15:28 | Weblog
 「***食べ物事典」という医者と栄養士が書かれた本の引用です。
1.「にがうりに含まれる特有の苦味成分はククルビタシンといわれるフラボノイド系の成分です。」また、やってくれました。ククルビタシンはフラボノイドあるいはポリフェノールではなく、テルペノイドです。3月2日に記載しましたが、ニガウリの苦味成分(ククルビタシン)はmomordicosideとも呼ばれます。
2.「ククルビタシンには、活性酸素除去効果、動脈硬化予防効果、免疫力を高める効果、ガン発生を抑制する効果、血糖降下作用などがある。」実は私も、あの苦味にはなんらかの健康効果があるのだろうと夢想しておりました。ところが、Journal of Agricultural and Food Chemistry (2007) 55, 5827-5833 によれば、苦味成分momordicosideには全く健康効果が認められていないとした上で、苦味をいかに除去するか研究しています。冷水にさらすのではなく、熱水で3分程度茹でるのが苦味除去に有効と彼らは結論しています。苦味に健康効果があるのか、ないのかは、調理して食べる側にとって重要な情報です。正しく伝えていただきたいものです。
3.「ニガウリがメロンと同種である。」不勉強きわまりないことを露呈しています。確かにニガウリは英語ではbitter melonとも呼ばれます。学名を調べれば、ニガウリは Momordica charantia、メロンは Cucumis melo、明らかに異種です。属も異なります。
 少し化学的・生物学的な知識があれば、いかに信頼性を欠く内容であるかは明らかなのですが、「**事典」として公開されると、熱心な主婦は、「糖尿病予防のために」劇苦料理に仕上げてしまうが、結局その強い苦味から長続きしないのではないかと懸念します。 

農芸化学会は宝の山(だった)?

2008-04-01 07:20:18 | Weblog
 久しぶりに農芸化学会に出て見ました。相変わらず食品機能に関する研究発表が多く並んでいました。ちょっとした発表をネタに、おもしろく脚色してふくらませ、さらに捏造データでごまかすようなかつての手法でテレビ番組を作るとすれば、1年分の放送ネタが300ページ余の要旨集に凝集されています。(さすがに今はこういうテレビ番組はないはずですが。)
 野菜に関する部分は、http://2nd.geocities.jp/hidekihorietsu/research.htm にもまとめました。