野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

キュウリはサラダにしてはダメ?

2007-10-28 14:06:47 | Weblog
 インターネットの世界では、「キュウリはサラダにすると、アスコルビナーゼが働いてビタミンCがなくなってしまう。」という迷信があるようです。
 個人的には、某メーカーの飲料を飲めば安価に多量のビタミンCを摂取できるので、ビタミンCがどうなろうと、その人がおいしいと思う食べ方をすれば気にするほどの問題ではないと考えます。
 日本施設園芸協会編「野菜と健康の科学」57ページをご覧ください。ここではキュウリではなくニンジンの「アスコルビナーゼ」について書かれていますが、ニンジンをキュウリに置き換えても、基本的には変わらないでしょう。
 ダイコンおろしだけでは30分程度放置してもビタミンCはあまり減りません。ところが、ニンジンも加えたもみじおろしでは、ビタミンCが急激に失われています(図2-13)。ニンジン由来のアスコルビン酸酸化酵素が、ダイコンエキス中のビタミンCに作用して、ビタミンCを分解したものといえます。ところが、千切りのダイコンとニンジンでは、ビタミンCは減らないと書かれています。
 アスコルビナーゼ(正確にはアスコルビン酸酸化酵素)は、ビタミンC(正確にはアスコルビン酸)に接触して初めて作用します。またこのとき酸素も必要です。
 おろしたダイコンからは汁が出ます。おろしたニンジンからも汁が出ます。ダイコンの汁(アスコルビン酸)とニンジンの汁(アスコルビン酸酸化酵素)が混じり合って初めて、アスコルビン酸が酸化(分解)されるわけです。したがって、千切りにしたダイコンと千切りにしたニンジンを混ぜ合わせても、お互いの汁があまり混ざらないので、アスコルビン酸は酸化されずにすみます。
 キュウリの場合も同様です。キュウリとダイコンなどをともにジュースにして、空気が入るようによく振ってやれば、アスコルビン酸は酸化されます。ダイコンを切ったサラダの上に、キュウリを切ったものをのせても、両方の汁が混じらないので、アスコルビン酸の酸化はほとんど起こらないと考えてよさそうです。
 結論は、「サラダにキュウリを加えてもビタミンCの損失はない」といえます。
 細かいことにこだわるよりも、キュウリはその歯切れ感を楽しむ野菜です。冷やし中華のあのふにゃっとした麺の上にパリパリとしたキュウリがのって、それぞれの食材の食感をハーモナイズするのがキュウリの役目ではないでしょうか。
  

ラクッコピコリン Wikipediaに感謝!

2007-10-21 14:32:59 | Weblog

 ラクッコピコリンは、想像上の物質。  

 フリー百科事典ウィキペディアにうまくまとめていただいています。「想像上の物質」、いいフレーズです。ネッシーやツチノコを想わせます。 

 レタスにラクッコピコリンが含まれ、催眠・鎮静効果があると多くのサイトや本で紹介されています。ここに記載されているように、lactucopicrin(ラクチュコピクリン)を誰かが、ラクッコピコリンと読んでしまい、これが最終的にはラコックピコリンにまで変異して、ネット上で活躍しています。ネッシーやツチノコ、ゴジラなら、読み手も半分疑いながら読むので問題ないのですが、医者やフードなんとかという肩書きの人が「レタスで眠れる」などと活字で紹介すると、読者は信じてしまいます。 

 道路沿いのファミレスのサラダバーで腹一杯レタスを食べて運転しても交通違反にならないことからも、レタスで眠れるということのウソっぽさは判断できそうなものです。

 ウィキペディアの記事についてですが、「あるあるⅡ」より以前の番組「あるある大事典」で紹介されたのではないかと思います。また、イヌやウサギの試験例があったかどうか、私は知りません。 

 こういった誤った知見が広がる背景には、学術用語の読み違えが根本にあるようです。学術用語であれば、文献検索によって、細胞レベルで分かったことなのか、動物実験の結果はどうか、ヒトに有効なのかと調べることもできます。ところがラコックピコリンまで変身されてしまうと、元の物質の綴りが思いつきませんので、調べようがありません。ネットで日本語検索して、結構多くのサイトに登場するので、正しいのだろうとニセの情報を信じてしまうことになります。

 ちなみに、レタスのlactucopicrinについては、最近信州大学から学会発表されています。バケツ何杯分のレタスを食べたら有効と考えられる量摂取できるのか、計算するのもおもしろいかもしれません。  


ナスのコリン

2007-10-20 15:35:45 | Weblog
 ナスの効能をネット検索すると、必ずコリンが血圧を下げるとか、肝臓によいなどと書かれています。もし、これが真実であるとすれば、園芸研究者というのは結構小回りが利くので、どうやって増やすかなど研究するはずですが、いままで、こういう栽培をすればコリンが増えたなどという発表は聞いたことがありません。それ以前に、ナスにコリンが含まれるというデータもみたことがありません。
 どこまで信頼できるデータベースか知りませんが、eggplant * choline で検索すると、ナスのコリン含量は空欄です。
http://www.whfoods.com/genpage.php?tname=nutrientprofile&dbid=105
また、medline等の文献のデータベースを調べても、ナスのコリンが体によいような報告は出ておりません。
 一方で健康食品として「卵黄コリン」なるものは売られており、タマゴにコリンは含まれるようです。さきほどのデータベースも、卵黄にはダイズとともにコリンが多く含まれると記載されています。
 ナスは英語でeggplantなので、タマゴと同じでコリンが含まれるのではないかと誰かが勝手に想像したのではないかと推測します。まさに現代版の言霊信仰か都市伝説です。

ククルアスコルビン酸こそがガン細胞である!

2007-10-20 14:28:30 | Weblog
 「キュウリに発ガン物質であるククルアスコルビン酸が含まれる」という意味ではありません。誤解しないでください。
 2004年の3月に、キュウリにククルアスコルビン酸が含まれるというネット上に記述があるが誤りだという主旨でネット上の記載しました。
http://2nd.geocities.jp/hidekihorietsu/QA/QA1.htm
その結果、「キュウリには抗ガン成分であるククルアスコルビン酸は含まれる」などという記載は消えたかと安心していました。ところが、現在のネット情報によると、「キュウリの香り成分であるククルアスコルビン酸に抗ガン作用がある」となっています。キュウリの香りをかげば、ガンが治るのならよいのですが・・・。
 まず、ククルアスコルビン酸という香り成分は存在しません。一方、ネット上で公開されているある大学の模擬試験問題に「キュウリのククルビタミンは苦味成分である」という設問がありました。国立情報学研究所のデータベースにおいても、「ククルビタミン」と誤記されておりますので、無理なからぬことですが、ククルビタミンなどという化学物質はありません。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001124572/en/
実際はククルビタシンCという成分がキュウリに含まれ、これが苦味成分でもあります。
Cucurbitacin C—Bitter Principle in Cucumber Plants
 2004年にも述べたように、「くくるびたしん」が「くくるびたみん」と誤記されて広がり、さらに「ビタミンC」は「アスコルビン酸」だと誰かが勝手に解釈して、「ククルアスコルビン酸」などというネット上にしか存在しない物質が誕生したのでしょう。
 一度消えても、復活して増殖していた「ククルアスコルビン酸」、さらに、「抗ガン効果のある香り成分」にまでパワーアップして進化している。切除したつもりでも、転移して広がる姿はまさにガン細胞です。

スイカのシスペイン?

2007-10-18 06:53:39 | Weblog
 ある研修会の資料作りの際に気づいたことですが、「スイカにシスペインという成分が含まれ、ビタミンCの酸化を防ぐ」とインターネットの健康食品の宣伝文句によく書かれています。「シスペイン」なる食品成分は聞いたこともありませんし、日本語の文献検索サイトJDreamで検索しても1件も出てきません。
 効能から察するに「システイン」と書くべきところを「シスペイン」と書き誤ったものが広まったのではないかと推測されます。それではスイカに「システイン」が多いかが問題になります。スイカの「シスチン」は100g中8mgと食品成分表には記載されています。ナシよりも多いがミカンよりも少ない程度で、特段多いわけではありません。ただしこのデータは蛋白質を分解して得られたアミノ酸の組成を示すもの(それゆえ「システイン」ではなく「シスチン」とされている)ですので、この値が低いから、実際に効能のあるとされる遊離の「システイン」が少ないことを意味するわけではありません。スイカにどの程度システインが含まれるか手元にデータはありません。スイカを食べるくらいでは、摂れる量は微量だと考えますが、スイカ糖などにするとそれなりに意味あるかもしれませんので、どこかで文献をみつけたら、記載します。
 

野沢菜は野沢温泉の湯でアク抜きする

2007-10-17 06:41:44 | Weblog
 あるテレビ番組から「野沢菜は野沢温泉の湯でアクを抜くが、何故か?」という質問が参りました。
 正直降参です。
①野沢菜のアク成分について全く不明。世界的な野菜であるホウレンソウすらアクについて解明されておりません(参照:日本調理科学会誌、2006年12月号)。野沢菜のようなローカル野菜についてアク成分の同定がなされているとは到底思えません。
②温泉の湯でゆでてアクを抜くとすれば、泉質が重要なのか、湯量が重要なのかという議論になります。鍋でわかした湯に、ホウレンソウなどをいれて茹でるとき、湯の量に対してホウレンソウの量が多すぎると、ホウレンソウをいれたとたんに湯の温度が下がるため、うまく茹でられません。温泉のようにたっぷりの湯があれば、均質に熱が通ってうまく茹でられるものと推測できます。泉質の面からは、野沢温泉の湯はアルカリ性の硫黄泉だそうです。酸性ではクロロフィルが不安定なので、アルカリ側で茹でるとクロロフィルの緑が保持される(細かくいえば、クロロフィリンになる)と予想されます。
 温泉の湯で茹でたときと、水道の水で茹でたときと、アク成分量がこれだけ違いますよというデータをお示ししたいところですが、野沢菜という野菜を生でかじったことのない者には、何をもってアクというのか想像もつかず、全く対処できません。

ダイコンの辛味

2007-10-16 06:59:16 | Weblog
 ある本に「ミロシナーゼというダイコンの辛味成分は含硫化合物で・・・」と書かれています。またすぐあとに、「辛味成分のイソチオシアネートやメチルメルカプタンにはガン予防効果もある。」とされます。
 著者自身これを書いておかしいとは思われなかったか疑問です。ダイコンの辛味成分はミロシナーゼなのかイソチオシアネートなのかと。
 ダイコンにはグルコシノレートという成分が含まれます。この成分は比較的安定に存在するのですが、ダイコンおろしなどにして組織を破壊すると、グルコシノレートにミロシナーゼという酵素が働いて、イソチオシアネートという辛味成分(硫黄を含む)が生成します。このことは野菜や調理の専門書を読むときちんと書いてあります。
 著者は「加熱すると辛味成分が甘味にかわる」などとも書いていますが、もともとダイコンには辛味成分であるイソチオシアネートの形で含まれるわけではありませんので、この表現はおかしいと思います。加熱すると、ミロシナーゼが活性を失うので、辛味成分イソチオシアネートが生成されないため、煮たダイコンは辛くないのです。
 このように本に書かれている情報でも、明らかに著者の誤認もありますので、インターネットなどで紹介される場合にはご注意ください。
 ついでに、「メチルメルカプタン」という成分が何故登場したのか不明です。メチルメルカプタンは口臭関連の悪臭成分でもあります。辛味とは関係ありません。

野菜で重要なのは一次機能だけではない!

2007-10-14 16:36:54 | Weblog
「1本で1日分の野菜」ジュース、35品が落第(朝日新聞) - goo ニュース

 「野菜ジュースは小鉢1皿程度と考える」という結論は支持します。厚生労働省が野菜を350g食べましょうというのは、野菜から栄養成分だけをとりましょうといっているわけではありません。カロテンのみを充足させるのであれば、例えばニンジンジュースを加えれば比較的容易に達成できます。ビタミンCやカルシウムなども、認可されたものを食品添加物として加えれば、1日分の栄養補給ジュースを作るのは、難しいことではないと考えます(消費者を引きつけられるおいしさがあるか否かは別ですが)。
 食品には一次機能(栄養)、二次機能(嗜好性)、三次機能(体調節性)の3つの機能があります。野菜に必要とされる一次機能を充足するだけなら、先に述べた添加物入りニンジンジュースで達成容易です。必要な成分を添加するのであれば、無理に野菜ジュースにしなくとも、タブレットにでもした方が、原料中の成分のバラツキなどによる含有量の変動も少なく、さらに長期保存できます。
 今、野菜で注目され(過ぎ)ているのは、むしろ三次機能です。お茶を飲んでカテキン(フラボノイドの一種)を摂取するのと同様、野菜や果物を食べても、フラボノイドが摂取できます。タマネギやダイコンの辛味(含硫成分)についても、様々な健康機能が期待されています。様々な野菜を食べることは、認知されてはいないかもしれないが、体の維持に役立つかもしれない成分を取り込むことになります。
 今回の発表で残念なのは、食物繊維量が測定されていないことです。自分で野菜ジュースを作れば分かりますが、結構カスが残ります。このカスには、食物繊維が多く残っていると考えられ、野菜ジュースでは期待されるほどの食物繊維は摂取できないと考えられます。
 先に述べたフラボノイドは、用いる野菜を選択することによってジュース中に取り込むことはできるかもしれません。一方で、辛味成分の生成には生きた酵素が必要ですし、辛味成分自体は不安定ですので、野菜ジュースから摂取することは難しいでしょう。
 このように考えると、わざわざ分析するまでもなく「野菜ジュースは小鉢一皿」相当という結論は出ていたのではないかというのが私の感想です。いろいろな野菜や果物を食べて楽しむことが健康維持に重要と考えます。

キュウリのイソクエルシトリン?

2007-10-14 14:51:03 | Weblog
 ネット検索していると、「キュウリにはイソクエルシトリンという成分が含まれ、毛細血管の強化や動脈硬化の防止などに有効」とよく書かれています。イソクエルシトリンという見慣れないカタカナの魔力のために、注目されすぎているのではないかと感じます。
 イソクエルシトリンは isoquercitrin と綴られるフラボノイドの1種です。例えばPubmedなどのデータベースにこの綴りで入力すると、いくつか科学文献が引き出せますので、イソクエルシトリンが全くの架空の物質名ではなさそうです。
 重要なのは、イソクエルシトリンが本当にキュウリの果実に含まれるかです。国立科学博物館の岩科氏は野菜のフラボノイドを表にまとめておられますが、キュウリに関する項目はみられません(食品工業、1994年7月30日号、67-79)。また、神戸大学のSakakibara氏らは、野菜、果物、茶のフラボノイドの含量を測定していますが、やはりキュウリについては欠落しています(Journal of Agriculture and Food Chemistry, 2003, 51, 571-581)。キュウリの葉のフラボノイド組成を調べた文献はあっても、果実中のフラボノイドを分析した報告はほとんどないと考えます。研究者にとって、キュウリ果実中のフラボノイドは「微量しか含まれず」調査するに値しないものととられているようです。
 先のPubmedあるいは他の科学文献の検索サイトで、cucumber + isoquercitrinで検索しても引っかかる文献はありませんし、インターネット上の海外のサイトでキュウリのイソクエルシトリンについて触れているサイトはほとんどありません。
 テレビ番組か何かで誤って報道された情報が、ネット上で科学的事実であるかのように根付いてしまっているのではないかと推測します。

Pubmed http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez

キュウリのピラジン?

2007-10-14 13:46:13 | Weblog
 昨夜に続いて同じ本からの引用です。「キュウリの青臭さのもとはピラジンという成分で、血栓防止に役立つ」と書かれています。
 ピラジンは食品を加熱する際に発生する香気成分のひとつです。ほうじ茶は、200℃程度で加熱した緑茶ですが、ほうじ茶は、より低い温度で加熱された煎茶よりもピラジン類を多く含みます。
 野菜などの青臭い香りは、主に青葉アルコールや青葉アルデヒドと呼ばれる炭素数6個の揮発性成分によるものとされます。キュウリの場合は、それ以外に炭素数9個のアルコールやアルデヒドも関与し、キュウリアルコールや菫葉アルデヒドと名付けられ、キュウリの特徴的な香りに関係しています。ピラジンは窒素を含む複素
環式化合物であり、青臭い香りのアルコール、アルデヒドは環状構造ではありませんし、窒素も含みません。
 ピラジンと青臭さとは全く別ですし、キュウリにピラジン類が多く含まれるという文献を私はみたことがありません。血栓防止との関係でピラジン類の関与について研究された食品は煎ったゴマくらいではないかと私は思います。煎ったゴマを食べるだけで血液がサラサラになるのか、それはピラジンによるものと考えてよいのか、私は情報を持ち合わせておりません。(ご存じの方は文献等ご教示ください。)
 「キュウリのピラジンが血栓防止に役立つ」とホームページなどにもよく書かれていますが、全く根拠のないデマだと考えます。