野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

アスパラガスは酸性食品

2007-11-28 07:45:35 | Weblog
 農業試験場の先生が書かれた本(2006年出版)からです。「ナスにはコリンが含まれ、若い嫁に食べさせると興奮する。秋の夜長には・・・なので秋なすは嫁に食わすなといわれる」など珍説も掲載されていますが、全体的には落ち着いた野菜の入門書です。
 その中で、野菜紹介のトップバッターであるアスパラガスについて、「弱点は酸性食品である」と説明されています。今時、食品に酸性、アルカリ性などと言うこと自体が時代遅れです。この一文から、著者は食品としての野菜の研究者ではなく、野菜の栽培を研究されていた方であると判断し、効能の部分については注意して読み、そのまま受け売りしない注意深さ必要かと思います。
 本の内容の一部はネット上でも読めるようです。
 

ナスのプロテアーゼインヒビター

2007-11-27 07:09:07 | Weblog
 ナスに抗炎症作用のあるプロテアーゼインヒビターが含まれるという記事がネット上で見られます。調べてみたところ、30年ほど前ナスのプロテアーゼインヒビターについて研究されていたようです。ところが最近は研究例がありません。
 ナスのプロテアーゼで検索すると、「ウリナスタチン」という酵素阻害作用をする医薬品がひっかかりますが、これはウリやナスとは全く関係なく尿(urine)由来です。
 ナスのプロテアーゼインヒビターの作用で炎症が抑えられたという科学的なデータはみたことがありません。

タマネギの硫化アリル

2007-11-26 07:34:26 | Weblog
 ある著名な大学教授の本によると、「1.タマネギの催涙成分は硫化アリルである。2.硫化アリルとビタミンB1が組み合わさると効果が大きい。3.硫化アリルは熱を加えるとプロピルメルカプタンという甘味成分に変わる。」と書かれています。
 まず、タマネギの催涙成分はプロパンチアールSオキシドとされます。Wikipediaには「アリル化合物(-かごうぶつ、allyl compound)とは、2-プロペニル (2-propenyl) 構造 -CH2CH=CH2 を持つ化合物の総称である。」と書かれているように、プロパン基と2-プロペニル基とは構造が異なるので、プロパンチアールSオキシドは硫化アリルとは呼べません。
 2でいう硫化アリルとは、ニンニクから生成するアリシンについていえることです。タマネギを切ったときにアリシンは多くは発生しないでしょうから、この表現は誤解を招きます。
 3のプロピルメルカプタンが甘いことについては、日本家政学会誌、44巻(1993年)において完全に否定されています。
 ネット上では、ニンニクもネギもタマネギも臭い物にはフタをするように何でも硫化アリルとひとくくりにして誤った説明もなされています。それぞれでニオイが違うのは、ニオイ前駆物質の組成が、アリル基だけでなく、メチル基やプロピル基、2-プロペニル基など、品目によって異なることも要因になっていると考えられます。
 蛇足ですが、涙の出ないタマネギの開発も進んでいます。

快眠を誘う食べ物(あるある大事典より)

2007-11-22 06:39:55 | Weblog
 あるある大事典の「快眠」の項目に、快眠を誘う食べ物としてレタスが紹介されています。10月21日にも紹介しました「想像上の物質、ラクッコピコリン」に鎮静・催眠効果があるとのことです。マスコミ等で問題になったレタスの汁でマウスが眠ったという誤った実験を紹介し、「ラクッコピコリン」がレタス100gに約20グラム含まれると続きます。1日にレタス1/4個食べると鎮静・催眠効果を発揮するとも書かれています。
 問題は1.ラクッコピコリンなどという物質は存在しない。2.マウスの実験は放送通りでなかったことが明らかにされている。3.レタスには90%以上水分が含まれるので、20%もラクッコピコリンを含むなどありあえない。4.レタスを1/4食べると鎮静・催眠効果があるという科学的な検証はない。
 特に3は致命的です。20ミリグラムと書くべきところを、20グラムと書いたのではないかと推測しますが、それにしても1000倍の差は大きいです。医者から風邪薬を1日1錠飲めといわれたのを、1000錠と誤解して実践すると間違いなくあの世にいけるでしょう。
 当然まじめに取材して、生活に役立つ情報が多く含まれている本だと期待します。たまに、ニセものの宝物も埋蔵しておいて、本物の宝を「発掘」してくださいという意味で「発掘あるある大事典」と題されたのでしょうか。
 

ネギ(あるある大事典より)

2007-11-21 07:03:46 | Weblog
 白ネギには、アリインが含まれ、これが体によいというストーリーです。よく調べられています。ニラの項でも書いたように、ネギやタマネギ、ニンニクにはCSOというグループの成分が含まれ、たまたまニンニクのCSOの多くがアリインだったというのが事実です。たしかにニンニクのCSO、アリインについてはよく研究されています。本文に書かれていることも、ネギをニンニクにさしかえれば、ウソはないかもしれません。ただし、ネギのCSOがアリインであるということについては、科学的な報告はなされていないように思います。ネギとニンニクとではすりつぶした時のニオイは異なりますので、多分ネギのCSOも、アリインとは異なるものが多いと推測されます。そうなると、アリインおよびこれに酵素が作用して発生するアリシンを中心にまとめたネギの項目自体が意味をなさなくなります。

ナスのヘタがしもやけに効く?

2007-11-20 06:54:36 | Weblog
 テレビ局から久しぶりに懐かしい質問が来ました。「ナスのヘタを煎じて飲めば、しもやけによいという民間伝承があるが、これはヘタにルチンが含まれるためか?」とのことです。「あるある騒動」で沈静化しつつあったゆがんだフードファディズム再燃といったところでしょうか。
 問題点
 1.問いあわせ先を間違っています。食は農水省ですが、病気を治すために煎じて飲む場合は、厚生労働省の管轄です。内容は生薬学の範囲ですのでお答えできません。
 2.そもそも食べもしないナスのヘタにルチンが含まれるなどという研究報告をみたことがありません。
 3.しもやけにルチンがよいという根拠も知りませんが、本当に有効ならば、製薬会社がルチン配合の薬を売っているはずです。抽出や合成の採算が合わないために市販していないのなら、無理にナスのヘタを食べなくとも、ルチン豊富なソバをおいしく食べた方がよほど体によさそうです。
 4.ナスのヘタについての食経験は豊富ではありません。ナス科植物にはジャガイモのソラニンに代表される有毒成分アルカロイド類が含まれます。仮にナスのヘタにルチンが豊富に含まれたとしても、多量に摂取することによって、アルカロイドや他の成分のために中毒を起こす懸念もあります。かつてこうした不用意な放送によって、被害者が出て、番組がいくつか消滅したことをお忘れなのでしょうか。
 野菜は食品であって薬ではありません。おいしく楽しんでこそ、健康維持の効果があるものと考えています。


揮発性の酵素ジアスターゼ?

2007-11-18 13:31:28 | Weblog
 今日は、テレビでよく拝見する著名な先生の本の記載を元にします。この本は野菜をどうやって食べれば栄養成分がより多く摂取できるか、マスコミが喜びそうなネタで埋め尽くされています。
 「ダイコン」のページでは「ダイコンには消化酵素ジアスターゼが含まれ、これは揮発性の酵素」だと書かれています。酵素はタンパク質を主成分とする分子量1万以上の高分子です。そう簡単に揮発しないから、島津製作所の田中さんの方法にノーベル賞の価値があったのではないでしょうか。もし、揮発性の酵素というものを見つければ、それこそノーベル賞ものの大発見だと思います。また、著者によると「ダイコンのリグニンには、ガン細胞の発生を抑制する働きがあり、切り口が多いほど増える」と書かれています。著者はリグニンは食物繊維のひとつであると書かれていることから、リグニンが体内にほとんど吸収されないことは認識されているはずです。体内に入らない成分がどうやって効くのでしょうか?リグニンの効果はメチオニンでさらに強まるとも書かれ、有名な先生のお言葉なのでインターネット上でも頻繁に記載されていますが、根拠となる論文等を私は知りません。植物体内でのリグニン合成にメチオニン類縁物質が寄与していることからの創作でしょうか?
 「ダイコンを皮ごとおろすとよい」と書かれておりますが、おろすことによってリグニンが増加するようなデータをみたことがないことも補足しておきます。
 ゴボウのページでもリグニンを扱っておられますが、こちらでは、「消化吸収されないので、発ガン成分を吸着して排出する」と書かれています。こちらの説明の方がもっともらしい感じがします。
 ついでに「ナットウ」のページをみると、「ナットウキナーゼはかきまぜるほど、うまみ栄養価が増します」と書かれています。ナットウキナーゼは血栓を溶かす酵素だと説明しておいて、こういったフォローはありえないと思います。ナットウキナーゼは酵素なのか、ナットウの旨味成分なのか、ゴーストライターが書いたとしてももう少しつじつまがあわないものでしょうか。
 非常に著名な先生の本なので、ネット上には多くの引用・コピーがなされているものと推測します。また、メディアを通じても誤認情報が広まったのではないかと心配です。
 
 

サトイモのピリピリ感

2007-11-17 12:46:39 | Weblog
 先日、レストランの方から「サトイモを食べたらピリピリした」とクレームがあったと相談いただきました。クレームされた方は、わざわざシュウ酸を分析してその値まで示されたそうです。
 この件について丁度、岡山大学農学部学術報告96号、25-28ページ(2007)が参考になると思われますので、関連部分をまとめてみます。著者(村上)らによると、サトイモのえぐ味は組織中のシュウ酸カルシウムの針状の結晶が舌や食道粘膜を刺激するためとされており、タンパク質分解酵素の関与についても触れています。そこで、著者らはシュウ酸カルシウムの結晶密度の品種間差を調査しています。その結果、シュウ酸カルシウム結晶を含む細胞の密度とえぐ味の間には関係があるが、不溶性のシュウ酸濃度とは関係しないと結論しています。
 このことを先のクレームに当てはめますと、クレーマー氏には申し訳ないのですが、せっかく測られたシュウ酸の分析値は、ピリピリ感あるいはえぐ味を評価する上でほとんど意味をなさないということになります。
 サトイモのシュウ酸量についてですが、「茶のサイエンス」筑波書房192ページに0.2%弱と記載されています。また最近ニュージーランドのグループが分析していますが、100gあたり70~180mg程度の範囲です。この値は、ホウレンソウの1/5程度です。シュウ酸が腎結石の原因物質となる可能性も指摘されますが、それほど危険なレベルで含まれるわけではなさそうです。また、ボイルすると、水溶性のシュウ酸が著しく低下するようです。

ニラ(あるある大事典より)

2007-11-10 14:13:27 | Weblog
 今年初めのナットウから始まった「あるある騒動」のために、一部の図書館から関連書籍が消えるという自体にまで発展したようにきききます。焚書坑儒でもあるまいし、また、すべての項目がウソばかりではないし、生活の役に立つ情報も含まれるかもしれないので、過剰反応は禁物だと思います。また仮に本の一部に誤った記述がみつかったとしても、結構売れた本でしょうから、何故これほどネット社会に誤報が増殖しているかを考察する上での貴重な資料になります。幸い地元の公立図書館ではちゃんと貸し出しできましたので、野菜関連部分を読んでみました。久しぶりのブログですので、第6巻の「ニラ」から取り上げてみます。
 本では、ネギ属野菜には硫黄化合物が含まれており、ニラにもともと含まれているのがCSOと述べています。フルネームは書かれておりませんが「システインスルホキシド」のことと思われます。ここには「CSOは少しでも酸素にふれると酵素の作用でまったく別の成分に変化する」と書かれています。最初の「酸素(サンソ)」を「酵素(コウソ)」の誤植だとすると正しい文になります。たとえば、ニンニクのCSO、アリルシステインスルホキシドは、試薬として販売されておりますが、特に脱酸素条件になっているわけではありません。アリイナーゼ(あるいはC-Sリアーゼ)という酵素に触れてはじめて別の成分に変化します。この本に記載されているように、電子レンジで酵素を失活させてやると、CSOは比較的安定です。
 一方、50ページ以降は誤解だらけです。「CSOが空気に触れることで変化した成分をアリシンといいます」、これがそもそもの誤解の始まりです。先に述べたようにニンニクには、アリルシステインスルホキシド(別名アリイン)が多く含まれ、「空気に触れる」のではなく、「組織が破壊されてアリイナーゼと接触する」とアリシンが生成します。アリインという化学成分がアリシンという成分に変化するわけです。ニラにCSOが含まれるのは確かですが、そのCSOがアリインであるという研究報告は、探してもなかなかみつかりません。実は、ニラの主要なCSOはメチルシステインスルホキシドであって、アリイン(アリルシステインスルホキシド)ではありません。
 ニンニクのアリイン、アリシンについては確かに研究が進んでいますが、ニラのCSOの健康効果や、C-Sリアーゼが反応した後にどのように成分変化するかについて、研究例があるのかどうか知りません。本には、いろいろ書かれていますが、これはアリインを含むニンニクの場合にいえる(かもしれない)ことであって、アリインを(少量しか)含まないニラにまで適用するのは無理があります。
 多くの本やホームページにおいて、ネギやニラには健康成分アリシンが含まれるような書き方がされていますが、間違いです。一方で、ニラのニオイの発生には酵素の作用が必要だという正しい知見を広めるのには、「あるある」も大きな貢献をしてきたものと考えます。