野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

アスコルビナーゼの抗ガン作用

2009-10-19 06:22:14 | Weblog
 5年前に出版された本に、「きゅうりに含まれるビタミンC分解酵素といわれているアスコルビナーゼにも抗がん効果がある」と書かれています。アスコルビナーゼが酵素であることを知ったうえで、どういうメカニズムで抗ガン効果が期待できると書かれたのか全く理解できません。1.ビタミンCを分解するのと、ガン細胞にダメージを与えるのと同じ酵素が担うことができるのか。2.酵素であれば、主成分はタンパク質です。どのように吸収されて、ターゲットとなるガン部位まで体内移動するのか?
 たぶん著者の頭には「キュウリのククルアスコルビン酸が含まれ、抗ガン作用を示す」という間違った思い込みがあったのかと思います。本を書く段になって、「ククルアスコルビン酸」という架空の物質名を取り違えて、「アスコルビナーゼ」と書いてしまったのではないかと勘ぐる次第です。実際にククルアスコルビン酸という物質も世の中で認められていないですし、当然のことながら抗ガン作用などと結びつきません。
 こうした2重、3重の間違いをやっていただくと、読者としては、トンデモ本として分類しやすいので助かります。

再考、ニンニクのアリシンはビタミンB1の吸収を促進するか?

2009-10-17 15:08:39 | Weblog
 野菜の栄養について書かれた本のニンニクのページには、必ず「アリシンがビタミンB1と結合してアリチアミンに変化し、吸収がよくなり、疲労回復効果がある」と書かれています。確実な実験データもない(と筆書は理解しています)のに、ニンニクのページだけでなく、ニラ、タマネギ、ネギなどのページにも同じようなことが書かれています。ニラ、タマネギ、ネギについては、アリシンの生成量はニンニクに比べて著しく少ないと思われます。それでは、多くに本に書いているように、アリシンを多く生成するニンニクを、ビタミンB1を含む食材とともに食べれば、ビタミンB1の吸収がよくなるのでしょうか?
 私にはそのように思えません。アリチアミンの発見者は自分の尿を調べることにより、ニンニクの成分とビタミンB1(チアミン)が反応して、吸収されやすい物質に変化したことに気づきました。ただし、これは試験管内で反応(合成)したものを、研究者自身が飲んでみた結果です。もし、ニンニクと他の食材を組み合わせて摂った時にビタミンB1の吸収がよくなるのであれば、動物なり人なりを使って実験で示すことはそれほど難しくないはずです。にもかかわらず、こういった研究結果の報告がみつかりません。たぶん、実際の食材や料理では、試験管内の実験のようにはいかないものと推測します。
 アリチアミンの合成は、アルカリ条件でニンニクの汁とチアミンを混合して反応させます。実際の料理の場面では、ニンニクに由来するアリシンは不安定な物質ですので、多成分が混合した食品の中では、試験管内のようにチアミンとうまく反応するとは限りません。さらに、反応を進めるにはアルカリ条件が必要ですが、アルカリ性のニンニク料理というのは、少ないのではなしでしょうか。あるいは生のニンニクを食べた場合、口の中で咀嚼している間に、酵素が働いてアリシンが多少は生成するかもしれません。ただし、他の食材由来のチアミンと反応させようにも、胃の中は強酸性です。アリシンの元となるアリインが無事に胃を通過してアルカリ性の小腸に達したとしても、すでに酵素アリイナーゼは分解されており、アリシンはほとんど発生しないはずです。なかなか、アリチアミンが生成される場がみつかりません。
 しいていえば、唾液はほぼ中性なので、酸性のドレッシングやジュース、ビールなどを口に入れないようにしながら、生ニンニクとチアミン豊富な食材を、同時に咀嚼すれば、少しはアリチアミンが生成されるかもしれませんが。そんな苦労するよりも、アリナミン(医薬品)を口にする方が楽で確実だとは思います。
 
 

スイカのシスペイン、システイン

2009-10-12 16:37:03 | Weblog
 「スイカに「シスペイン」なる成分が含まれ、これが肌によい」などとネット上に書かれていますが、「シスペイン」は「システイン」と書くべきところを誰かが誤ったのがそのまま広がったのだろうと以前書き込みました。
 その後調べてみると、スイカのシステインに関する記載もネット上に多くあります。それでは、スイカにシステインが多量に含まれているのか?英語でwatermelon, cysteineで引いても、健康効果に関する記載はなさそうです。Wikipediaのcysteineをみても、システインの多い食品リストにスイカは含まれておりません。ということは、スイカのシステインに着目しているのは「日本だけ」のようです。おもしろいサイトを発見しました。以下部分引用

2001年7月20日に「おもいっきりテレビ」で紹介されたスイカの情報(略)
シミ・シワ・ソバカスを予防
スイカの特殊成分 「システイン」

なるほどネットのスイカに関する書き込みに共通する内容が書かれています。しかもいろいろ問題になった番組で放送されたとのこと。システインはごく普通にタンパク質に含まれる成分です。決して特殊成分ではありません。本当は、スイカに特に多く含まれるアミノ酸「シトルリン」を紹介すべきだったはずです。「シトルリン」とすべきところを「システイン」としてしまったばかりに、その健康効果までシステインで期待されるものにすり替わっているようです。そして番組を見た方々が、ネット上で広げたために、スイカは「システイン」に富む果物として認識された。これをみた権威有る方が、さらに「システイン」を「シスペイン」と間違えてHPに書き込んだために、スイカには「シスペイン」という特殊な成分を含むという誤解が広まったと考えられます。(このような恥ずかしい情報をさらに本などで広めないよう著述家の方にはお願いします。)
 (遊離の)システイン自体はイオウのような変な味のするアミノ酸です。スイカにシステインが多く含まれるとはとても思えません。

ナスのルチン(再)

2009-10-10 08:54:08 | Weblog
 ナスにルチンが含まれているような記述が本やネット上にみられます。ところが、ナス中のルチンを測ったような文献はみつかりません。その原因について、ナスの紫色の色素はデルフィニジン 3-ルチノシドですが、英語で「rutinoside」と綴ったときに「rutin」の文字が入っているので、ナスにルチンが含まれると、誰かが言い出したのではないかと2008年4月6日に書きました。
 ナス*ルチンでネット検索すると、「グルコナスルチン」なる野菜成分名に出会うことがあります。これについても、学術用語としては見たことがない言葉ですが、いかにもナスに含まれる特殊なルチンをイメージさせてくれます。グルコナスルチンについても誰かの読み違えによるものと思われます。本来は「gluconasturtiin」(グルコナスツルチン)と書くべきかと思います。アブラナ科野菜の辛みはイソチオシアネートという成分によるものですが、その元となるグルコシノレートのひとつです。クレソンの学名が Nasturtium microphyllum なので、「ナスツル」は Nasturtium に由来し、茄子(ナス)とは全く関係ないはずです。「グルコナスツルチン」なら、文献はみつかります。ただしgoogleなどのでヒットが「グルコナスルチン」より少ないのが問題だと思います。用語は正しく使わないと元の文献、科学的根拠に行き当たらず、ネット用語が科学の冠をかぶって、根拠のない付加価値を蓄えながら一人歩きしてしまいます。
 脱線しましたが、「ルチノシド」、「ナスツルチン」にルチンの文字が含まれているとしても、ナスを食べたらルチンが摂れるということにはなりません。
 

緑茶とレモンでカテキン吸収UP

2009-10-04 16:33:50 | Weblog
 先日、ホテルのテレビで怪しげなテレビ番組をみました。すでにHPに健康増進料理のレシピが示されており、緑茶にレモンの組み合わせが茶カテキンの吸収によいとか。そんなとんでもない組み合わせでは、とてもまともな飲料にはならないだろうと他人のブログを見ていると、結構評判がよいようですね。緑茶の新しい飲み方として、定着していくのかもしれません。(私は試す気もありませんが)
 どうせ誰かの思いつきであり科学的な根拠はないのだろうと思ってましたが、アメリカの研究者が Mol Nutr Food Res という雑誌の発表してました(2007年51号)。要約しか読んでませんが、消化管内のモデル条件にカテキンを置いた場合にどの程度安定かについて、ミルクやジュースを加えた場合で比較したようです。カテキンだけなら不安定だけど(そりゃアルカリ条件では不安定です)、ミルクや柑橘ジュースがあれば安定化するそうです。(さすがにガイジン、頭が柔らかい!)。
 仮に、モデル条件で安定に存在しているからといって、それだけでヒトでの吸収効率が高まるとはいえませんので、まだまだ中途の実験結果ですが、番組の内容も100%でまかせではなさそうです。検証するのなら、ヒトに混ぜものいりのお茶を飲ませて、血液を採取してカテキンを分析する試験をする必要があるはずですが。
 お茶にレモンを入れても毒にはならないでしょうから、おいしいと感じる方は、カテキンが多く吸収されると信じて飲まれればよいと思います。無理にお茶にレモンをいれなくとも、ミカンを食べながらお茶を飲んでも、オレンジジュースを飲んでからお茶を飲んでも効果は変わらないと思います。私は、おいしいお茶(と茶菓子)だけで楽しみますが・・・。
 

GLUCOKININ(再)

2009-10-04 14:55:49 | Weblog
 「タマネギに含まれるグルコキニンが血糖を下げる」と書いた本があると以前書きました。グルコキニン(glucokinin)に関する文献はほとんどなく、架空の物質ではないかと述べましたが、2003年のBrazilian Journal of Plant Physiology, 15巻に総説としてまとめられています。ネット上からのダウンロードできますので興味有る方は原文をお読みください。(1920年代の論文では、タマネギ抽出物をイヌに注射したら血糖が下がったと書かれています。)
 この文献によると、グルコキニンというのは植物中に含まれるインシュリンに似た物質ととらえているようです。インシュリンは分子量が約6000のポリペプチド(アミノ酸が長くつながったもの)です。仮に、タマネギ中にインシュリンに似たものが含まれていたとして、それを食べると、血糖が低下するか?可能性は低いのではないかと思います。糖尿病患者はインシュリンを注射することにより、血糖値をコントロールしています。注射ではなくインシュリン錠剤を口から飲めれば、ものすごく楽だと思いますが、そうなっていないのは、このような分子量の大きいものは、活性を維持いたままで吸収されないためでしょう。仮にタマネギにインシュリンに似た物質(グルコキニン)が含まれていたとしても、これを食べただけでヒトの体内で機能するとはとても思えません。
 それでは、タマネギを食べても血糖降下作用がないのかといえば、血糖値を下げる効果があるとする報告もあるようです。有効成分は「グルコキニン」ではなく、ちまたで「硫化アリル」ともいわれる含硫成分の関与が示唆されるようです。
 「タマネギで血糖値が下がる」可能性があるのだから、本の記載には問題がないという考え方もあるかもしれませんが、過去の亡霊のような「グルコキニン」という物質(?)名を出して説明するのは、あまりにも無責任だと思います。一見説明のつかない現象を「霊のしわざ」、「気によるもの」などとしてしまうと、それ以上の検討、解析の芽をつんでしまいます。血糖降下成分についても、「グルコキニン」という曖昧模糊とした幽霊のせいにしてしまえば、科学的な解析が進まなくなります。
 血糖に悩む方は多いので、「グルコキニン」の幻にとらわれずに科学的な解明が進み、日常の食事から血糖コントロールできるようになることを願います。