野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

サトイモのホモゲンチジン酸

2008-03-23 16:00:38 | Weblog
 3月16日にサトイモはエグイので生で食べないのだと書いたところですが、保健所の方からサトイモへの苦情に関する相談をいただきました。その中で、「サトイモのえぐ味はホモゲンチジン酸で・・・」と聞き、目がテンで冷や汗ものでした。「ホモゲンチジン酸」、確かにえぐ味成分としては知られていますが、サトイモのえぐ味に関係するとは聞いたことがありませんでした。
 早速グーグルなどであたると、「サトイモのえぐ味はホモゲンチジン酸による」というのがネット社会の常識のようですね。それでは、サトイモにどの程度ホモゲンチジン酸が含まれるのか、科学文献を検索しても、ひとつも出てきません。
 ホモゲンチジン酸の前駆物質はチロシンとされます。ホモゲンチジン酸がえぐ味に関係するといわれるタケノコでは、100g中690mg(アミノ酸の中で最大量)ものチロシンが含まれます(日本食品成分表)。一方サトイモには110mgであり、それほど多い値とはいえません。原料の量だけで判断するのも根拠は乏しいですが、本当にサトイモにはえぐ味を感じさせるほどのホモゲンチジン酸が蓄積しているのか、怪しいと思います。
 サトイモにホモゲンチジン酸が含まれるのか否か、分析値を持っている方があれば、ぜひお知らせください。

ビタミンCは熱に弱いの迷信

2008-03-23 13:21:41 | Weblog
 表題は「活性酸素と野菜の力」前田浩著の章題をそのまま借用しました。この本の表紙があまりにかわいらしいので、いわゆるトンデモ本ではないかと購入したのですが、予想に反して、極めて科学的な良書です。ある野菜を食べるとガンにならないなど、売れている本にしばしば書かれてるような読者の心をつかむ表現は一切書かれておらず、(表題から期待された一般読者の期待は裏切りますが、)最前線で研究された方が本を書けばこういった調子になるのでしょう。
 ネットでも栄養学の本でも、「野菜は加熱するとビタミンCが分解するから生でたべましょう」としばしば書かれています。これに対して、著者は「加熱することではじめて細胞が破壊され、内容物が溶け出し利用しやくすくなる」とし、生体利用能(バイオアベイラビリティー)の重要性を述べています。確かに、食品成分表には、栄養素の量は書かれていますが、それがどの程度利用されやすい形なのかは書かれていません。植物に含まれる鉄よりも、肉中のヘム鉄の方が利用されやすいとはいわれますが、成分表には鉄の分析値が並んでいるだけです。生体利用能を考えた食べ方を唱える点では著者の述べられる通りだと思います。
 ビタミンCについては水溶性の高い成分ですので、加熱して細胞を破壊することで生体利用能が劇的に上がることはないように考えますが、フラボノイドやカロテノイドなど水溶性が低いものについては、加熱による細胞破壊により利用能が向上する可能性は高いのではないかと推測します。(あいにく文献等は持ち合わせておりません。)
 ビタミンCについては、添加食品があふれていると著者も述べておられます。確かにコップ一杯飲めば、一日の所要量とれてしまう飲料も市販されていますし、その他様々な加工食品に添加されています。例えば、お茶など500mlのペットボトル1本で、1日の所要量は摂れます。
 このように考えれば、ビタミンC云々というのは過去の話であって、調理に際してビタミンCの損失だけで判断せず、味や食感が最適になるように調理し、おいしく食べることが、ビタミンC以外の有用成分の摂取を促進し健康維持につながるのではないかと考えます。
 今回のタイトルと離れましたので、話題を元にもどしますが、例えばお茶は熱い湯でいれます。にもかかわらず、お茶の液の中のビタミンCは比較的安定に存在します。その要因について茶業研究報告56号(1982年)には、ポリフェノールなどが関与することが調べられています。著者の述べるように、ビタミンCは単独では熱に安定ではないのですが、食品中にはビタミンCを安定化するような成分も含まれているようです。  

サトイモは何故生で食べないか?

2008-03-16 15:16:50 | Weblog
 ヤマイモは生で食べるのに、サトイモは生で食べないのは何故かという質問がありました。回答:生で食べると不味いから。
 1982年の家政学研究、29、75-77において、奈良女子大学の中西らは、「サトイモのえぐ味成分としてシュウ酸カルシウムの針状結晶」と書かれています。サトイモのイモや葉の中に、針状の結晶が存在することが、えぐ味に関係しそうです。針のようなものを写真でみるかぎり、チクチク、イガイガしそうに思えます。
 一方、米国のPaullら((1999)Postharvest Biology and Technology, 16, 71-78)*によれば、針状結晶にタンパク質分解酵素らしいタンパク質が付着していることを見出し、これがえぐ味に関係すると述べています。針で口腔内の粘膜を傷つけるだけでなく、タンパク質分解酵素が生化学的にも粘膜のタンパク質を傷つけるとすれば、えぐ味も説明できそうです。サトイモを少しぐらい加熱したぐらいでは、針状結晶が破壊されるとは考えられませんが、タンパク質分解酵素なら活性を失うはずです。こう考えれば、加熱するというのは、タンパク質分解酵素の働きを抑えることにあったと解釈できます。*この文献はハワイのタロイモを対象にしています。日本のサトイモとは異なるかもしれません。 
 サトイモを生で食べるとえぐいのは、針状結晶とタンパク質分解酵素の2段攻撃によるもの。加熱するのは、タンパク質分解酵素を質失活させるためと考えられます。煮れば、結晶化していない水溶性のシュウ酸が流出しますが、焼くとそのまま残ります。場合によれば、こうして残った水溶性のシュウ酸も、えぐ味に寄与するかもしれません。
 では、サトイモを生で食べてもえぐくない調理法ができたとして、それを食べても安全かと問われれば、「食経験がないので・・・」としかお答えできません。白インゲン豆で食中毒事件が起こったように、従来と異なる方法で調理すると、有毒成分が残る(あるいは生じる)危険性があるからです。

 
 

お茶の一煎目は飲んではいけない?

2008-03-13 06:58:27 | Weblog
 ある本で農薬の危険性を強調したあげく、「お茶は一煎目を捨てれば、多少農薬は減らせる」ように記載されていました。その根拠として、「中国茶の一煎目は飲まないでしょう」と述べられています。マスメディアで流される中国において野菜に農薬を散布している映像を重ね合わせると、なるほどと思われるかもしれません。
 ところが、中国の茶でも烏龍茶や緑茶については、一煎目を捨てたりしません。茶葉を洗うのは、プアール茶ではないかと思います。プアール茶のような茶は、熟成の過程で微生物発酵を伴います。丁度納豆のイメージです。その際いやなカビ臭を流して、お茶本来の香りを楽しむために、最初お湯で洗うのだと考えます。作ってすぐに飲む緑茶(中国でも主流は緑茶です)に比べれば、熟成に時間がたっているので、仮に農薬が残っていたとしても減少しているはずです。農薬の残りやすい緑茶は洗わず、残りにくいプアール茶は洗うというのは、「農薬除去」を考えるとおかしい話です。プアール茶では、農薬とは関係なく、その方がおいしいから茶葉を洗っているはずです。
 日本の緑茶についても農薬はきちんと管理されており、農薬の危険はほとんどないものと考えます。それでも、農薬をさらに減らそうと努力される農家の方もいるのですが、そういったご苦労がなかなか販売価格に結びつかないのが現状です。「有機農産物に対してそれなりのお金を払いましょう」ならよいのですが、「お茶は洗ってから飲みましょう」というのは、的を外していると思えます。
 お茶の旨味成分は一煎目に多く溶け出します。また一煎目に多く溶け出すように工夫したのが「煎茶」という日本の技術・文化です。一煎目を捨てるというのは、ハンバーガーショップで、出されたハンバーガーを開けて、化学調味料の入ったと思われるソースを拭き取り、BSEの危険のある牛肉をより分けてから食べるようなものではないかと感じます。

野菜を洗剤で洗う必要があるか?

2008-03-11 18:26:20 | Weblog
 行政機関から「野菜を洗剤で洗う必要があるのか」という問いあわせをいただきました。背景には、ギョーザ事件の折にマスコミから流された「中国では残留農薬を洗剤で洗い落としている」という報道があるようです。確かに、インターネットの世界では、残留農薬を落とすための洗剤も販売されているようです。
 では、普通に販売されている野菜にそんなに危険なレベルで農薬が残留しているのでしょうか?例えば農水省が輸入物の冷凍ホウレンソウからの残留農薬検出についてプレスリリースしています(http://www.maff.go.jp/syohi/18tyouka0628.pdf)が、輸入野菜であっても、こうした残留基準値を超えるものは極めてまれです。しかも書かれた内容をよく読むと、残留量は、基準2ppmに対して、3ppmです。このホウレンソウを100g食べたとしても、摂取量は0.3mgです。一方ADIは 0.05mg/kg体重/日 とされます。すなわち、体重50kgの人は、毎日2.5mgぐらいまでなら万が一、毎日摂取しても安全ですよということです。基準値を超えたホウレンソウを100g程度食べたところで、ADIから計算した2.5mgの12%に過ぎず、仮に毎日食べたとしても問題ないレベルだといえます。
 このように日本国内に流通する野菜において、残留農薬は検出されたとしても極めて低いレベルであり、あえて洗剤などを使って洗うことにより、野菜の風味や栄養価を落とすことはないものと考えます。

カブの苦味

2008-03-08 13:25:31 | Weblog
 流通関係の方から、「カブの苦味成分は何か教えてほしい」という電話がありました。常に苦いのではなく、「たまに」苦いものがあるそうです。お茶のように、いつ飲んでも「苦い」場合には、茶葉を多量に集めて抽出し、成分を同定することが可能です。ところが、カブのように、運が良ければ(悪ければ)苦いのにあたるという場合には、こういう常識的な戦略がとれず、苦味成分を研究するのは非常に困難です。
 文献を当たってみました。カブは学名Brassica rapaです。Phytochemistry, 68, 536-545 (2007) の中でスペインの研究者が、Brasssica rapa の苦味についてもふれています。ただし、彼らはカブの根ではなく、野菜として食べる葉について検討しています。113品種について苦味とグルコシノレート含量の比較をした結果、苦味はグルコシノレートだけでは説明できないと結論しています。この議論の前提としては、グルコシノレートの分解物が苦味に関係するという報告があるようです。ちなみに、グルコシノレートに酵素が働き、イソチオシアネートを生成します。イソチオシアネートはワサビやダイコンの辛味成分です。
 苦いカブの根には、グルコシノレートが蓄積しているのか、あるいは、その代謝産物が蓄積しているのか、全く別の物質が苦味に関係するのか、多分結論は出ていないものと考えます。

新タマネギの糖度が「10」

2008-03-03 07:07:03 | Weblog
 テレビをみていたら,新タマネギの「おいしさ=甘さ」,「甘さ=糖度」の相変わらずの説明でした。「糖度10はミカンなみ」とか。ミカンとタマネギとでは水分や他の成分が異なるので,そもそも比べることがナンセンスです。同じ10%の砂糖水でも,酢を添加すると甘さを弱く感じます。ミカンの場合は糖の甘さに対して,クエン酸など酸の酸っぱさがその甘味を抑制しています。タマネギの場合には,あの独特の辛さのために,甘味を感じないわけです。辛さを防ぐには,アリイナーゼ(C-Sリアーゼ)という酵素を失活させればよいわけで,電子レンジで加熱すれば,辛味が出ずに甘味を強く感じるという具合です。
 番組制作者から,各野菜の糖度一覧を示せという電話をよくお受けしますが,品目間の糖度比較が目的であれば,上記の理由でお断りしております。

ニガウリのモモルデシン

2008-03-02 14:10:54 | Weblog
 テレビによく登場される先生の野菜に関する本を読んでおりました。タイトルほどサプライズな内容は記載されておりませんが、**は@@に効くといった類の本ではなく、野菜に興味を持ってもらうには良い本だと思います。
 読んでいて気になったのは、ニガウリの苦味成分について、「モモルデシン」と記載した上で、「数種類のサポニンと二十数種類のアミノ酸からなる」と書かれていた点です。ニガウリには momordicoside と呼ばれるククルビタシンの仲間が含まれます(Tetrahedron Letters,23,77-80,1982年)。構造的にはtriterpenoide に「糖」がくっついたものであって、「アミノ酸」は関係ありません。ネット上では糖尿病に効くように書かれています。眉唾ものと思っておりましたが、Medlineで要約を見る限りは、外国でも「糖尿病」との関係で研究はされているようです。
 もうひとつ「charantin」なる物質もネット上にみられ、これもなんらかのマヤカシかと思っておりましたが、実際に分子量約1万のペプチドだという報告もあるようです。
 ニガウリの研究は今がホットなところかもしれません。新しい知見があれば報告します。