野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

キュウリのアスコルビナーゼ

2008-05-23 19:12:00 | Weblog
 キュウリが旬で質問が多いと書いたところですが、あるマスメディアからキュウリのアスコルビナーゼについて質問がありました。回答は2007年10月28日に記した通りです。
 キュウリは身近にある野菜ですので、テレビ番組を作ればおもしろそうです。しかしながら、一般向けの本にあるキュウリに関する記載は、「アスコルビナーゼがあるのでビタミンCが破壊される」ということばかりです。確かに番組制作担当者も困るでしょう。また、「アスコルビナーゼ」について家庭の調理の場面では気にすることないと回答されれば、いよいよ困りますよね。
 例えば、こんな切り口はどうでしょうか?キュウリにはアスコルビン酸酸化酵素(アスコルビナーゼ)が含まれています。この酵素は酸素を消費して、アスコルビン酸(ビタミンC)を酸化します。この原理を応用して、酸素電極の先端にキュウリの薄切り切片をはりつけます。これをビタミンCの溶液につけると、ビタミンCが酸化され、酸素が消費されます。酸素濃度の低下を調べれば、溶液中のビタミンCが定量できるわけです。これはバイオセンサーのひとつです。スーパーマーケットで売っているようなものを使ってセンサーを作るのでスーパーマーケットバイオセンサーとも呼ばれます。
 著者自身、あまり役に立たない論文を書いています。オレンジの皮を使ったペクチンの分析法(Analytica Chimica Acta, 306, 123 (1995))、ゴボウを使った茶のカテキンの分析法(日本食品工学会誌,41,433(1994))、リンゴを使ったリンゴ酸の分析法(J. Flow Injection Analysis, 12, 91(1995))。興味のある方は別刷請求してください。


 
 

キュウリのヤニ

2008-05-21 06:29:03 | Weblog
 旬が訪れたためか最近キュウリに関する質問をよく受けます。先日は、「キュウリのヤニの成分は何か?」との質問がありました。キュウリの果実を切ると、ネトッとした液が出てきます。この液のことをヤニと表現されたようです。
 回答:わかりません。
 武田健著「絵で見るおいしい野菜の見分け方・育て方」にはポキッとおってみて、再度くっつけるとつながるようなキュウリがおいしいと書かれています。確かに、元気のよい樹からとれた新鮮なキュウリは、著者のいうような現象が強く出る感じはします。この接着剤の役割を果たすのが、「ヤニ」だと考えます。
 結構多くの人が身近に感じているヤニですが、成分まで調べた人がいるかというと、いないんじゃないかなと思います。切り口に少量しかでませんし、すぐに樹脂のように固まってしまいます。集めるのは容易ではありませんし、外気に触れると化学変化を起こすようでは、どうやって調べればよいのか???
 野菜など身近にあるので、ほとんどの現象や成分が解明されていると思われがちですが、素朴な疑問に対する回答さえも用意されていないのが実状です。
 夏休みの自由研究など、専門家もびっくりのおもしろい研究ができる題材は野菜にもたくさん残されています。

ダイコンの血栓防止効果???

2008-05-18 16:35:29 | Weblog
 黒ダイコンについて記載するついでに本を見ていたら、「ダイコンの辛味成分に血栓防止効果がある」と書かれています。ネット検索すると、1.ダイコンにはアリルイソチオシアネートが含まれ、2.アリルイソチオシアネートには血栓防止効果があると考えられているようです。
 まず2については、陸ワサビの血小板凝集抑制作用については研究され、その活性成分として、アリルイソチオシアネートなどのイソチオシアネート類が考えられています。ただし、1については、黒ダイコンでも書きましたように、ダイコンの辛味成分(イソチオシアネート)は4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートを主成分とし、このイソチオシアネートについては血小板凝集抑制効果の実験はなされていないものと思います。
 また、日本ヘモレオロジー学会誌、8巻、7ページの表4(2006年)において、各種野菜の抗血栓点数が比較されています。ホウレンソウは500点(非常に高い活性)に対して、アリルイソチオシアネートを含むキャベツは2点(最低ランク)に位置づけられています。ダイコンはというと、レタスやキュウリと同じく真ん中のランク(50点)です。 実験条件により、抗血栓点の値は変わってしまうかもしれませんが、この表から判断すれば、ダイコンはそれほど血栓予防効果が高いとはいえません。さらに、アリルイソチオシアネートを含むキャベツであっても、低い点しかとれないことから、単に含まれるかどうかではなく、含まれる量も重要でしょう。
 これらのことから、1.ダイコンの辛味成分について、血栓防止効果についての研究例はない、2.ダイコンの血栓防止効果が他の野菜に比べて著しく高いという結果は得られていない、というのが現状ではないでしょうか。
 このような研究は、試験管内のものがほとんどです。ダイコンが血栓防止するというには、実際にダイコンを食べて、血液がサラサラになったという研究報告が待たれるところです。

黒ダイコンの栄養性

2008-05-18 13:19:13 | Weblog
 黒ダイコンの栄養特性についての問いあわせがありました。黒ダイコンなど見たことすらないので、お答えのしようがありません。一応科学文献データベースで「黒ダイコン」と入力したところ、意外にも出てきました。Journal of Agriculture and Food Chemistry, 55, 6439-6446 (2007) 要するに、黒ダイコンの水抽出物に解毒酵素を誘導する活性があるとのことです。「ガン予防効果が期待される。」という表現になるかもしれません。ではその活性を有する物質はというと、4-methylthio-3-butenyl isothiocyanate (MIBITC) とのこと。なーんだ、MIBITCなら、黒ダイコンだけでなく、普通日本で食べている青首ダイコンにも含まれています。ということで、青首ダイコンにはなく、黒ダイコン特有の効能は発見されていないようです。
 「***栄養事典」とされるような本にはダイコンの栄養について
1.ジアスターゼを含み消化を助ける。
2.辛味成分としてアリル化合物を含む。
3.辛味成分には解毒作用がある。
などとよく書かれています。
1.今更、ジアスターゼって何ですか?アミラーゼでしょとつっこみたくなります。
2.辛味成分は先に書いたMIBITCとされています。MIBITCのどこにもアリル基はないでの、アリル化合物とはいえないでしょう。
3.「辛味成分MIBTICに解毒作用がある!」上に書いた通り、正解です。ところが権威あるアメリカ化学会の雑誌に掲載されたのが2007年であり、ごく最近明らかになった事実です。論文が公開されるより以前に書かれた本にもこういった記載がみられます。本の執筆者ご自身が実験結果を持っていたとは考えにくいのですが・・・。ということはまさに「瓢箪から駒」ですか。読者は予言本ではなく、科学的知見に基づく参考書として参考にされているはずですので、勝手な予言や予想は入れないで欲しいものです。また先の文献に示されているのは、試験管レベルの話です。ダイコンをどれだけ食べればガンになりにくいか、実際にヒトでの研究結果はありません。
 「黒ダイコンは%%%や&&&を含み、ガンや高血圧の予防効果がある」などとアピールするよりは、サラダにするとカラフルであるとか、スペイン風料理にはよくなじんでおいしいとか、こういった売り込みを期待したいものです。 


 

鰹節で苦味が弱まる!

2008-05-11 16:15:13 | Weblog
 ゴーヤは苦くて食べづらいこともあります。日本食品科学工学会誌2008年、55巻、4号(前橋健二ら)に実におもしろい研究報告が掲載されています。生のゴーヤ、あるいはゴーヤチャンプルに鰹節をまぶすことにより苦味強度が著しく低下すると書かれています。またこの苦味抑制効果は、鰹節エキスではなく、だしがらにあるとのこと。
 鰹節というとうま味成分であるイノシン酸を含むことがよく知られています。イノシン酸のうま味が強いので苦味が隠されるのではないかと思っていましたが、どうやらイノシン酸ではなく、他に苦味を抑制する成分が含まれるようです。
 ゴーヤと鰹節をよく噛んで食べると、その苦味成分であるトリテルペノイド(ククルビタシン類)が、鰹節に含まれる苦味抑制成分に吸着されるため、味覚を刺激せず、苦味を感じないようです。
 12月12日に、ホウレンソウのシュウ酸によるえぐみは鰹節では防げないだろうと書きました。ホウレンソウも比較的苦い野菜です(ククルビタシンは含みませんが)。ホウレンソウに鰹節というのも、苦味緩和効果が寄与しているのかもしれません。


お茶のもみかた

2008-05-11 11:09:39 | Weblog
 「家で植えている茶の樹の新芽をとったっがどうやって揉めば飲めるのか」という質問をいただきました。今話題の「食育」に関するよい題材と考えますので、回答してみます。
 高級な緑茶の葉は針のようにとがっています。茶の芽自身は松葉とは違いとがっていませんので、揉むことによってあのように仕上げるわけです。茶つみはそれなりにおもしろいですが、せっかく摘んだ茶葉を自分で揉んで飲んでみたいと思っても、針状に仕上げることを思うと敷居が高いと感じられるかもしれません。
 それではお茶を揉むというのはどういうことでしょうか?要するに、摘んだ茶葉を乾かすだけです。こう思えば簡単です。ただ日光にあてて天日干しにするのでは、新茶の香りや色がなくなってしまいます。一番単純な方法は、摘んだ茶葉を釜で炒ること(今でも「釜いり茶」として伝承されています)ですが、結構ノウハウがあって、難しいです。
 こういう方法はどうでしょうか。1.摘んだ茶葉を丼鉢にでもいれ、電子レンジにかける。この時、ラップします。葉の中の水が水蒸気となり蒸す効果があります。湯気がでてきたら取り出します。2.まな板の上にキッチンタオルなどを敷き、取り出した葉を広げて、葉に力を押すように揉んで、葉の中の水を表面に絞り出す操作を行います。3.葉が冷める前に、電子レンジにいれます。この時はラップせず、できるだけ浅く皿にもり水分を飛ばします。レンジにかけすぎると焦げるので、途中で混ぜた方がよいと思います。4.葉をできるだけ均質に乾かし、しかも焦がさないことをこころがけながら、2と3の操作を繰り返して、乾燥してくればできあがりです。なかなか針のようにはなりませんが、それなりに緑の香りは楽しめるものと期待します。
 1の操作のまえに、摘んだ茶葉をザルにでもいれて日陰で半日乾燥放置してから、1-4の操作を行えば、烏龍茶風の香りになります。
 自分で揉んでみると、茶を揉むということがいかにすごい伝統技術であるか実感いただけるかと思います。

シトルリン?

2008-05-07 18:20:03 | Weblog
 最近、シトルリン入り飲料が発売されたかと思っていると、シトルリンに関して質問がありました。
 スイカなどウリ科野菜に含まれるアミノ酸です。人体では尿素サイクルを構成する物質のひとつです。効能等は、シトルリンを販売されているメーカーのホームページをご覧ください。
 それよりも4月12日のブログで「スイカの食べ過ぎによるものと疑われる子供の発育障害もある」と書きました。ところが、元の論文の主旨は、「スイカを食べると血中のシトルリン濃度が上がるので、シトルリン濃度が高いからシトルリン血症であると早合点するな」という内容でした。全くの早合点でした。
 食品と科学 2007年、7号には、スイカ100g中のシトルリン含量は180mgと書かれています。マウスのLD50は5g/kg以上とも書かれています。こうしたデータからみる限り、スイカを食べ過ぎて、シトルリンによる健康被害が発生するとは考え難いと思われます。ただし、日本のスイカのシトルリン量について分析したデータは持ち合わせませておりませんので、100g中180mgがどこまで適用できるものか疑問ではあります。
 A社のシトルリン飲料に270mgのシトルリンが含まれているとすれば、スイカのシトルリンもバカにできない量です。この機会に便乗してスイカの売り上げをのばす人がいるのか興味深いところです。

しつこいようですが「イソクエルシトリン」

2008-05-06 09:42:38 | Weblog
 「キュウリの栄養機能性成分としてイソクエルシトリンがあげられているが、根拠が不明である」と何度か記載してきました。一方で、イソクエルシトリンに利尿効果がある旨Wikipediaにも書かれていますし、連休中に本屋で立ち読みすれば、食品の栄養についてまとめた本のキュウリの項目には、必ずといっていいほど「イソクエルシトリン」と「ククルビタシンA,B,C,D」が掲載されていました。しつこいですが、イソクエルシトリンについて再度整理します。Wikipediaに書き込まれた方が、もし根拠なく書かれたのでしたら、訂正いただけるようお願いします。何度か指摘していますが、一般向けに書かれた「**事典」などという食材のカタログのような本については、根拠にはならないと考えます。
 イソクエルシトリンは、フラボノイドの1種で多くの植物に含まれています。(キュウリには全く含まれないと否定するのも難しいのですが。)CHEMICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN Vol. 53 (2005) , No. 12 1604 には、民間薬にも使われるドクダミでの定量例が示されています。構造的にはルチンなどに近いので、抗酸化作用があってもおかしくはないと思います。ただし、調べた限りでは、イソクエルシトリンが利尿作用を示すという文献は見あたりませんでした。
 キュウリは、フラボノイド含量の低い野菜です。従って、これらの成分についての研究はほとんどありません。また、仮にキュウリにイソクエルシトリンが含まれたとしても、量的には微々たるものであり、栄養・機能成分として特筆するには値しないものと考えます。
 何故、キュウリにイソクエルシトリンが含まれ利尿効果を示すといわれるようになったかですが、先に、シトルリン(これも最近機能性に注目されているようですが)とすべきところを誰かが間違って記載したためと推測しました。あるいは、キュウリには利尿効果がある。利尿効果のあるとされる民間薬ドクダミの成分について調べたら「イソクエルシトリン」が有効成分(利尿成分かどうかは?ですが)となっていたので、キュウリの利尿成分もイソクエルシトリンではないかと考えたのかもしれません。
 流行の世界なら、根拠はなくても多数がよいとすれば「良い」ものと認めることもできます。科学の世界では、「炭酸ガスをいくら出しても地球は温暖化しない、あるいは石油は無尽蔵にある」と大勢の人が願っても、そうはならないはずです。ましてやヒトの健康にも関わる分野で、根拠なき暴論が広まることは、問題だと考えます。
 「ククリビタシンA,B,C,D」についても後日記載します。

グルコシノレート、イソチオシアネート?

2008-05-03 13:37:52 | Weblog
 ホームページなどを見ていると、「グルコシノレート」や「イソチオシアネート(イソチオシアナートと記載される場合もある)」が混同して使われており、理解しづらく思えます。ここで整理してみます。
 アブラナ科野菜にはグルコシノレートと呼ばれる成分が含まれます。たとえば、ワサビやキャベツには「シニグリン」と呼ばれるグルコシノレートが含まれます。シニグリンそのものには辛味はありません。ところがワサビをおろすと、ワサビの組織に含まれていたミロシナーゼという酵素が作用して、「アリルイオチオシアネート」と呼ばれる「イソチオシアネート」を生成します。この「アリルイソチオシアネート」が辛味成分です。
 ブロッコリースプラウトのガン予防効果が有名ですが、「グリコラファニン」と呼ばれる「グルコシノレート」を生のままで噛んでいると、スプラウトに入っていたミロシナーゼが作用して、「スルフォラファン」という「イソチオシアネート」が生成します。スルフォラファンには、ガン予防効果が期待されています。
 野菜それぞれに、特徴的な「グルコシノレート」が含まれ、生のまま咀嚼するか、すりつぶす時に、「イソチオシアネート」が生成し、「イオチオシアネート」には特徴的な辛味や生理活性があります。
 どのようにしてこのような野菜を食べれば、イソチオシアネートを有効に摂取できるかですが、イソチオシアネートを体内に吸収するにはミロシナーゼを働かせる必要があります。生のまま食べる方が、加熱してミロシナーゼの活性を無くした野菜よりもイオチオシアネートの吸収がよいというデータはあるようです。
 「生野菜を食べることによって、生きた植物酵素を摂取しよう」などとよく言われます。酵素はタンパク質ですので、胃腸で消化されるため、そのままの形で体内に入ることはありえません。ただし、アブラナ科野菜を生でよく噛めば、口の中でイソチオシアネートが生成し、イソチオシアネートの吸収効率はよくなるものと考えられます。