野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

ナスの味はミネラルウオーターと同じ!

2009-09-28 07:02:14 | Weblog
 朝のテレビ番組でナスが扱われていました。ビタミン類について他の野菜に比べて多くはないと紹介した後で、味覚センサーの測定値を出して、「味についてはミネラルウオーターと同じ(薄い)」と表現されていたと記憶します。(録画したわけではないので間違いであればご容赦ください)
 宿泊先のホテルで朝食をとっていると、近くに座った老夫婦が、さっそく「ナスはミネラルウオーターと同じだって」と残念そうに会話しておりました。インパクトのある測定値だと思われますので、コメントさせていただきます。ナスは、アミノ酸や糖含量も他の野菜に比べて高いとはいえず、味が薄い方であるのは間違いないでしょう。ただ、比較対象がミネラルウオーターというのはいかがなものかと思います。こういったセンサー値を比較するのであれば、他の野菜のデータも並べないと、データを読み違える可能性があります。例えばトマトならどうだったのか、比較が欲しいものです。リムジンと軽自動車は近くで見るとずいぶん大きさが違いますが、山の上から、麓のホテルの駐車場の車を見るとどれも同じくらいの大きさに感じます。同様に、センサー値を示すのであれば、その軸のスケールが適切でないと、トマトでもナスでも、コーヒーでもビールでも、あるいはチョコレートでも水と同じように見せることはできるはずです。
 ナスの汁を飲んでいただくと、ミネラルウオーターとは異なり、甘味や渋味を感じるはずです。ナスの味はミネラルウオーターと同じという測定値を得たとすれば、測定方法に問題があると考えざるをえません。

タマネギのグルコキニンで血糖低下?

2009-09-22 12:33:12 | Weblog
 ショッピングセンターの本屋には、野菜の栄養(効能)+料理に関する本が多く実に楽しませてくれます。いつものごとくキュウリのページを開くと、キュウリには「アスコルバーゼ」があり・・・と記載されています。またまた新奇物質かと、前後を読むと、多くの本にはアスコルビナーゼ(asukorubina-ze)と書かれているものについて、ワープロの入力ミスから「in」を落とし、asukoruba-zeと書かれたものでしょう。一般の方が買われて、ネットにアスコルバーゼを広めることのないよう祈るのみです。きちんと校正すれば見落とさないはずですが。
 ところで、医者の書いたタマネギと健康に関する本に、「タマネギのグルコキニンが血糖を下げる」と書かれていました。グルコキニンというのは耳慣れない言葉であり、何かの入力ミスかと思いました。ネットで調べると、ちゃんとグルコキニンの文字がタマネギとカップルで出てきますので、お医者さんのワープロの入力ミスではなさそうです。水溶性で熱に強いと書かれていますが、どんな物質なのかと、科学文献のデータベースで「グルコキニン」「glucoquinine」など引いてみますが、出てきません。googleの英語で「glucoquinine」を引くと、一部ビルベリーの成分のようにも書かれています。あまりタマネギとは関係しないようですが・・・?
 学術文献の中に登場しないので、「グルコキニン」も架空の物質と考えてよいと思います。実際に病気に苦しんでいる方は、医者の書いている本だからと内容を信頼するはずです。他にも「アリシンが催涙物質である」とか、「硫化アリルを加熱すると甘みに変化する」とか、きちんとタマネギについて文献をあたったとは思えないことが記載されています。多くの間違いのある本だと知っておれば、内容を眉唾ものと読み流せますが、特に病を持っている方には難しく、バイブルのように信じて症状を悪化させかねません。
 本屋の棚には、きれいな野菜の写真や料理の写真の入った本が並んでいますが、健康効果についての内容は、ネットからの(誤った)カットアンドペーストしただけのものが多いように感じます。
 野菜に関心を持っていただくにはよいのですが、病気を治そうなどと考えるととんでもないことになると懸念します。

(訂正)グルコキニンの綴りを誤っていたようです。正しくは「glucokinin」。1920年代の論文には血糖値との関係で書かれているようですが、その後この用語は使われていないようです。カタカナの物質名(?)が入るともっともらしくみえますが、どこまで現代に通じるものか不明です。

眠れないときに使う野菜

2009-09-20 11:44:34 | Weblog
 某TV番組では、「眠れない時にみじん切りにしたタマネギを枕元に置くとよい」と紹介されていました。今まで読んだ本の中に、こういった眠りに関する記載は見あたらなかったので、新鮮に感じました。この番組の趣旨としては、このような伝承があったとして、それを科学的にどう解説するかが重要と思われます。「タマネギの硫化アリルに鎮静効果がある」というのが、タマネギの催眠効果の根拠のようです。
 味と匂学会においても、香りが作業パフォーマンスや心理状態に与える影響についていくつか発表がなされており、タマネギのニオイがヒトの生理機能に影響することは大いにありえるとは期待します。しかしながら、おばあちゃんの知恵(伝承)ではなく、科学とするには、科学的な検証が必要と考えます。調べた限りでは、タマネギの鎮静作用についての論文はみつかりませんでした。また、「硫化アリル」については、このブログでしつこく書いていますが、一見化学的な言葉に見えても、全く化学(科学)的にどのような成分を指すのか定義されていません。(例えばマイナスイオンやオーラ、生体エネルギー、気などと同じようなものだと思います。)タマネギの場合は、みじん切りによって発生する「揮発性の成分全体」をとらえて、「硫化アリル」ととらえられているように理解します。
 タマネギで眠れるという伝承があって、これに対して、「タマネギから発生した硫化アリルが鎮静効果を示す」と説明したとしても単に「硫化アリル」や「鎮静効果」という科学的に聞こえる言葉に置き換えただけにすぎません。鎮静効果を示す硫化アリルとはどのような構造の物質なのか、あるいは、タマネギから発生した揮発性成分で鎮静効果や催眠効果を示したという実験例がないと、「おばえちゃんの知恵」なのか単なる迷信なのか判断できません。できれば、なぜニンニクではなく、タマネギなのかも知りたいところです。ニンニクのニオイの元はアリル***で、一方タマネギの場合はイソアリル***です。硫化アリルと呼ぶなら御本家はニンニクです。さらにニンニクなら吸血鬼を気にすることなく眠れるでしょうし。
 臭い以外の実害はないでしょうし、催眠にはプラセボ効果も期待できるので、一般の方がやってみることを否定するものではありません。ただ、タマネギよりもこのブログを読む方が眠りを誘うのではないかとも期待しています。
*タマネギの安眠効果については、石原結實著「玉ねぎ健康法」日東書院(2008)にも書かれているのに、今気づきました。
 


ブロッコリーの茎の栄養

2009-09-17 17:42:39 | Weblog
 今週はめずらしく1週間実験室にこもっていることができ、本業の分析業に没頭していたところ、電話が回って参りました。「ブロッコリーの茎にも栄養があるので食べるよう薦めたいが、茎と花の部分に分けた栄養成分のデータがないか」とのことでした。実験に後ろ髪をひかれつつ、文献検索してみても、求められたようなものはみつかりません。ネット検索でやっと見つけたものが、生活工学研究、2006年です。ビタミンCについて部位と調理別に比較されています。花の部分のビタミンCが 111mg/100g に対して、茎にも 88mg/100g 含まれているそうです。たしかに、茎にも「栄養」はあります。ただし、「もったいないから茎も食え」といわれても、食感も悪いし・・・。
 元々、ブロッコリーは大きな株にちょこんと成るものです。ビタミンCがもったいないから食えというのなら、畑に残された葉っぱも食べるべきではないでしょうか。確かに食品の無駄な廃棄が問題になっています。おいしい食品を冷蔵庫で腐らせてしまうのは問題です。そういったご時世にあって、食に適さない部分まで無理に胃袋に納める必要があるのでしょうか?ブロッコリーの茎にものすごい薬効があるのなら、涙を流しながらでも生薬として摂取することはありえるかもしれませんが、今のところそういった知見はありません。
 ブロッコリーの茎が本当においしいのなら、捨てる人はいないはずです。ビタミンCをこれだけ捨てるのですかと脅すよりも、茎をおいしく食べる方法を示す方が、今の富栄養社会には向いていると思います。
 本当はカロテノイドや葉酸などの栄養素についても、データがあればおもしろいと思います。たぶん花の部分(花蕾部)に多いと推測しますが・・・。
 コメントお待ちしております。
 

バナナは砂糖のかたまり?

2009-09-09 06:57:38 | Weblog
 学生さんに、分析の練習のためにバナナの成分を測ってもらいました。結果をみるとショ糖10%(100gのバナナの果肉に10gの砂糖が含まれる)。まさか、そんなには含まれないだろうと、文献を調べました。調理科学会誌41巻1号(2008)では、バナナの成分を比較されていますが、普通のバナナで100g中、果糖5.7g、ブドウ糖5.6g、ショ糖9.0gと記載されています。ショ糖(お砂糖)は果糖とブドウ糖に分解されますので、これらをすべて足しあわせると100g中20gにもなります。いっぽう、水分はというと75%。バナナ100gを乾燥させると、25g残り、そのうち20g(80%)は砂糖とその仲間(遊離糖)だということになります。
 ヒトも動物もバナナが好きですが、その裏には、糖類の甘さという誘惑があったのかと感心しました。遊離の糖は甘さの割に、油と比べれば低カロリーです。砂糖水ダイエットでは、栄養も偏りますし、噛む楽しみもない。バナナダイエットもそういう面からはよく考えられたものかと思います。

夏休みの自由研究

2009-09-07 06:22:23 | Weblog
 最近アクセス数が増え,あまりエーカゲンなことは書けないなと多少キーボードも重く感じられます.
 先日,市役所で開かれていた小中学生の夏の自由研究の展示を見て参りました.日食観察などは,本年度の特色であったようです.食品関係はというと,ビタミンCか色素の実験が多いようでした.実験用の道具(試薬)が簡単に準備できるので,本などに紹介されている例が多いのかと推察されます.
 ここでふと気づいたのですが,前回,学会の発表内容を紹介しましたが,これもビタミンCと色素に関するものでした.特にビタミンCについては,食品関係の学会で取り上げられる頻度が高いように感じています.日本人のビタミンC摂取がきわめて少ない(多い)ので,ホットな話題なのかというと,そうとも思えません.あえて生野菜や果物を摂らなくとも,飲料などの添加物として十分量を摂取できているものと想像しています.では,なぜビタミンCなのか?要するに測りやすいから,あるいは青果物では多い方がよいイメージが与えられるからではないかと思います.
 小学生の実験なら,「安全で簡単」が重要ですが,専門の大学や研究所での研究では「簡単」は二の次だと思います.本当は,もっと緊急で重要な問題に取り組むべきですが,そのためには高額な機械や施設が必要になります.一部の大学を除き,研究のための基盤整備のためのカネがなく,研究に取り組めないのかもしれません.