野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

野菜の食べ合わせ

2009-07-26 13:43:51 | Weblog
 時間つぶしのため、近所のスーパーマーケットの本屋をぶらぶらしてました。主婦の読みそうな本があふれる中、野菜関連本の多いことに気づきました。なるほど最近の奥様方は野菜に関心があるのかとタイトルを見ていると、「バナナダイエット」と同じ出版社から「トマト」や「キャベツ」でダイエット本が出ているようです。あれだけ話題になったバナナが効かないのか、それとも出版社に節操がないのか。キャベツは安いのでよいとしても、トマトを毎日食べるとすれば、結構食費がかかりそうですが・・・・。本を買って、トマトも買って、お財布の中身がダイエットされ、焼き肉など高カロリーのものを食べる機会が減れば、体脂肪のダイエットにつながるのかもしれません。
 そうした中にあって、ベストセラーの続刊という本が平積みされていました。結構写真がきれいです。野菜の本を買うときは「キュウリ」のページを読んで判断することにしていますが、ざっと見たところ、「イソクエルシトリン」も「ククルアスコルビン酸」も文中にありません。トンデモ本ではないものと判断し購入しました。購入後よく見れば、キュウリの「ブルーム」の写真が間違っていますが・・・(ご愛敬)。「ブルームレス」と紹介されているのは、最近出てきたイボなしキュウリのようです。ブルームとは、ブドウでも見られるような白い粉です。ぼつぼつしたイボとは異なります。
 情報てんこ盛りで、価格以上の情報量だと考えたいのですが・・・。この本の売りは「食べ合わせ」のようです。なるほで、先のテレビ番組でも食べ合わせを取り上げてましたが、本のなかでも「キュウリとトマトの相殺効果」がうたわれており、なるほどあの先生の種本はこれだったのかと気づきました。
 食べ合わせの例として、カリフラワーと牛乳があげられています。カリフラワーのビタミンCに牛乳成分が加わるのがよいとのこと。なぜ、ビタミンC源としてカリフラワーでなければならないのか、同等にビタミンCを含むニガウリではだめなのか疑問です。あるいはオクラでは?また、カリフラワーと牛乳をどう調理していっしょに摂れというのでしょうか?ここから先は料理研究家の仕事なんでしょうか?
 バイオリンをなんとかひけるAさんと尺八がなんとか吹けるBさんがいたとして、AさんとBさんの特技は違い相互に補えあえるから、コラボさせればよい、というような一面的で単純な発想ではないかと感じました。あるいは、Cさんは野球部でDさんは茶道部に所属している。趣味が異なるので相性はよくないと断定してよいのでしょうか。(二人とも映画が好きかもしれません。)
 確かに、食べ合わせで、ある栄養素の吸収がよくなったり、悪くなったりする場合はあると思われます。ただし、1種類の野菜ですら、その成分や吸収性はほとんど解明されていません。そういった状況のもとで、複数のものを「食べ合わせ」として評価するには、科学的なエビデンスがまだまだ乏しいのではないかと考えます。
 ホウレンソウのカルシウムの吸収を大豆のフィチン酸が抑える(相殺効果)と書かれていますが、元々ホウレンソウにはシュウ酸が含まれ、カルシウム源としてはあまり期待できません。カルシウム面での相性を気にするよりは、大豆で作った味噌汁にホウレンソウを浮かべて、風味の調和を楽しむ方が健康的かと考えます。

ナスと相性のよいキクラゲ?

2009-07-12 14:21:38 | Weblog
 先に紹介したテレビ番組のHPのなかで、ナスと相性のよい食べ物として「ナスとキクラゲの炒め物」が提示されています。キクラゲの鉄分が血液をサラサラにするとのことですが、鉄は血液中の赤血球のヘモグロビンに必要な金属であることは間違いないのですが、血液サラサラとの関係については根拠が不明です。血液サラサラ食品図鑑という(何でもありの)本にも、ミネラルについては触れられておりません。
 それでは視点を変えて、ナスはキクラゲ中の鉄吸収を促進するのか?ナスは切り口がすぐに褐変します。クロロゲン酸というポリフェノールが含まれ、これが酸化するためといわれます。ポリフェノールは鉄の吸収を阻害するともいわれます。せっかくキクラゲに鉄が含まれたとしても、ナスといっしょに食べたのでは、肝心の鉄が吸収されないのではと気になります。不思議なことに、同じHPには枝豆のフィチン酸がチーズのカルシウムの吸収を妨げると書かれています。
 これらの吸収効率についての知見は試験管内の実験や、制限した食物を与えた動物での実験結果に基づくものと思われます。人は、キクラゲとナスだけ、枝豆とチーズだけを食べるのではなく、ビールやお茶も飲むし、お米も食べる、調味料も使います。こういった複雑な食事の中で、ある栄養素の吸収について、単純な実験系の結果から類推するのは非常に難しいのではないかと思います。毎日、キクラゲとナス、枝豆とチーズばかり食べるわけではないので、その場でおいしいと思う組み合わせ、あるいは冷蔵庫の食材を無駄にしない組み合わせで食べて、それぞれの食材の味を楽しめればよいのではないかと考えますが、いかがでしょうか?

トマトと相性の悪いキュウリ?

2009-07-12 11:58:56 | Weblog
 某人気テレビ番組で野菜が取り上げられたようです。あいにく見逃したのですが、番組HPによると、「キュウリと一緒に食べると栄養素の吸収のわるいものは?」という問題に対して、トマトが正解とされています。サラダで食べるとき、キュウリの酵素アスコルビナーゼが(トマトの)ビタミンCを破壊するためと理由付けされています。
 パリパリしてやや青臭い日本のキュウリと、ソフトで甘みのある日本のトマトの組み合わせは最高においしいパートナーだと個人的には考えています。キュウリ果実にアスコルビン酸を酸化する酵素、アスコルビン酸オキシダーゼが存在するのは誤りではありません。ただし、この酵素があるだけで、ビタミンCが破壊されるわけではありません。たとえばCCレモンのようなビタミンC飲料とキュウリを冷蔵庫にいっしょにいれることは、よくあることだと思います。アスコルビン酸を分解する酵素のあるキュウリの近くに、CCレモンのペットボトルを置いたら、CCレモン中のビタミンCの含量が減るでしょうか?減るわけはありません。アスコルビン酸オキシダーゼという酵素が働くには、ビタミンCと酸素の両方にこの酵素が接触する必要があります。ペット樹脂とキュウリの皮とで、ビタミンCとアスコルビン酸オキシダーゼは完全に隔離されています。従って、キュウリを満タンにつめた冷蔵庫にCCレモンのペットボトルを入れても、中のビタミンCが減ることはありません。ただし、ペットボトルの口をあけて、キュウリジュースを加えれば、キュウリジュース中のアスコルビン酸オキシダーゼとペットボトル内のビタミンCが接触するので、ビタミンCの分解が起きるかもしれません。
 それでは、野菜サラダの場合は?トマトはトマトとして切り、キュウリはキュウリとして切って並べるものと思います。いろどりも大事なので、トマトとキュウリを細かく切り刻み、混ぜ合わせる人は少ないのではないでしょうか。後者の場合は、番組で紹介するようにビタミンCが減るかもしれませんが、普通の人がイメージする野菜サラダでは、「アスコルビナーゼ」なるものについて考慮する必要は全くないものと考えます。
 HPでは、「ドレッシングを加えて酵素の働きを弱める」ようにと書かれていますが、ドレッシングというのは結構油を含んで高カロリーですので、ドレッシング多用による油のとりすぎの方が懸念すべきではないかと考えます。素材のよいキュウリやトマトならドレッシングなしでおいしく食べられます。夏野菜のおいしさを簡単なサラダで味わっていただければと思います。
 さらにナスと相性のよい食べ物として、「ナスとトマトのピザ」が紹介されています。ナスのナスニンとトマトのルチンの相乗効果で血糖値を抑えると説明されています。ナスニンとルチンで本当に血糖値が抑えられるのかどうか知りませんが、写真で見る限り、血糖を抑える効果よりも、カロリーの高いピザを食べて血糖が上昇する効果の方が大きいのではないかと懸念します。トッピングにある野菜がのっておれば、糖類の吸収が抑えられ・・・というものがあればよいのですが、残念ながら、そういったミラクル野菜はテレビ番組やネット情報に限定された都市伝説の範囲と考えています。
 

ニンニクでビタミンB1の吸収が増えるか?

2009-07-08 18:34:27 | Weblog
 野菜の栄養の本には、「ニンニクやネギなどにはアリシンが含まれ、ビタミンB1の吸収がよくなる」と書かれています。
 正確には、「ニンニクに含まれるアリインから酵素の働きで、アリシンを生成し、アリシンとビタミンB1からアリチアミンという物質が合成される。アリチアミンは、ビタミンB1よりも、腸からの吸収がよい。」ということであり、ネギやニラ、タマネギなどにはアリインではなく、アリインの類縁物質が含まれるので、こういった類縁物質の場合も、ビタミンB1吸収促進に有効であろうかという疑問をなげかけてきました。
 アリチアミンの発見者である藤原元典の総説をご紹介します。ひとつは、ビタミン73巻、177ページ(1999)です。191ページの表4によれば、「ネギ類の不顕化B1の排泄」と題され、ビタミンB1単独よりも、ニンニクあるいはニラ、ラッキョウと反応させた方が、摂取後、尿中への排泄量が多かったと読めます。(引用文献等詳しい記述がないので筆者の推測です。)私の読み方が正しいとすれば、アリシンにはこだわらず、ニラやラッキョウで生成されるアリシン類縁物質でも、アリチアミン効果のある物質が合成できるようです。
 ニンニクでも、ニラでもネギでも、「ビタミンB1を含む食品といっしょに食べれば、ビタミンB1の吸収がよくなる」という栄養の本に書かれていることに、めでたく根拠がみつかったということになるでしょうか。ここで疑問が起こります。もうひとつの総説、J. Nutri. Sci. Vitaminology, 22S, 57 (1976)には、アリチアミン生成の反応が記載されています。ビタミンB1に水酸化ナトリウムを加えてから、アリシンを作用させています。アリチアミンの合成はアルカリ条件下で起こるようです。いろんなニンニク料理を考えてみても、酸性のものはあっても、アルカリ性の料理というのはおもい浮かびません。しかも、アリシンは酵素作用で生成するので、ニンニクを直に炒めたり、ゆでたりするとだめです。
 英語の総説の図6、7では、動物の小腸内に、ビタミンB1とニンニクを同時に入れたら、ビタミンB1の吸収がよくなったと記載されています。ヒトが生のニンニクを食べたとして、ニンニクの酵素が胃の中を通って腸に達してから働き、アリシンが生成するとは現実的には考えられません。
 さらに、これらの総説に述べられている例では、ニンニクやニラなどは野菜そのものも使われていますが、ビタミンB1の方は、薬品そのものを使って実験されています。鴨が葱を背負うのであれば、鴨肉と葱を混ぜ合わせれば、鴨肉に含まれていたビタミンB1が一部アリチアミンに似た物質に変化したという実験や、鴨肉だけを食べるより、葱としっしょに食べた方が尿中のビタミンB1排出量が増えたという実験がないと、ニンニクやニラ、ネギでビタミンB1の吸収が増えるとはいえないと考えます。アリシンは不安定な物質です。ビタミンB1以外の食品成分と反応したり、飛散したり、分解したりするでしょうから、実際の食用場面でどの程度試験管内の化学反応(アリチアミンの生成)が再現できるのか、疑問に思っております。
 

ニンニクによるビタミンB1吸収促進

2009-07-03 07:05:53 | Weblog
 結局6月は一度も書き込みをせずに終わりました。おもしろい質問もないわけではありませんが、守秘義務にからむと思われ、なかなかネタが欠乏した状態です。
 ニンニクにはアリインが含まれ、アリインから生成したアリシンがビタミンB1の吸収を促進するというが、他のくさい野菜、ニラ、ネギ、タマネギの場合はどうかという質問をいただきました。このブログにも記載していますが、ニラ、ネギ、タマネギにはアリインはほとんど含まれず、これらからアリシンを生成したとしてもごく微量であり、問題外と考えています。それでは、これらの野菜に含まれるアリイン類縁化合物、メチインやイソアリインから生成する成分にビタミンB1吸収促進の効果はあるのか?機能性に関する最近の本をあたっても、野菜のビタミンB1吸収促進効果についてうたったものはみつかりません。
 考えてみれば、ニンニク由来のアリインが、ビタミンB1と安定で吸収されやすいアリチアミンを生成するというのは試験管内の反応です。実際のビタミンB1を含む食品の場合には、ビタミン以外にも多様な成分が含まれますので、そういったなかでニンニクとある食材を混ぜると、アリチアミンが生成するという反応は起こるものなのでしょうか?ニンニク配合食を食わせたら、ビタミンB1の吸収がよくなったという動物実験のデータは?と探していたら、東北農業研究(2005)にガーリックパウダーを地鶏に食わせたら、肉中のビタミンB1が2倍以上になったという報告がありました。ところがよく読むと、このガーリックパウダー自体にビタミンB1やアリチアミンが含まれていたようです。ニンニクを原料とした健康食材を食べると、ビタミンB1の吸収がよくなることはありえそうですが、ニンニクそのものを他の食材ととものに食べるとどうなのか、いまだ文献がみつかっておりません。
 ニンニクと食材を混ぜることによるアリチアミンの生成、あるいはニンニクそのものを食べることによるビタミンB1吸収促進に関する文献をご存じの方はコメントお願いします。