野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

野菜のイノシトール含量

2010-04-29 10:32:01 | Weblog
 生産者の方(?)から、野菜にどの程度イノシトールが含まれるか知りたいとの問い合わせがありました。自分で生産しているホオズキと含量を比較したいとのことでした。
 まず、ホオズキという果実を食べることを知りませんでした。私にとってのホオズキは鳴らして遊ぶものかと(海ホオズキというそうです)誤解してました。
 話を戻すと、イノシトールは肝臓によいと聞くので、とのこと。国立健康・栄養研究所のHPによると、(俗に「脂肪肝や動脈硬化を予防する」、「脳細胞に栄養を与える」などといわれている。)と記載されているだけで、裏付けとなる科学的な知見はないようですよとお答えさせていただきました。ホオズキを1回に何キロも食べられないので、仮にホオズキのイノシトール含量が普通の野菜よりも多く、またイノシトールに健康効果があったとしても、それがセールスにつながるとは思えないのですが・・・。
 食品中のミオイノシトールの含量については、American J. Clinical Nutrition, 1980, 33, 1954-1967で比較されています。結構柑橘に多いようで、ネット上に記載されているように、スイカやトマトにも含まれるようです。
 昨夜の「ためしてガッテン」において、「健康のため魚や野菜などを勧める健康情報」が最近増加している高齢者の低栄養の一因であると反省しておりました。過去の健康番組が、健康をむしばむ要素を含むだけでなく、さらには、食糧生産の現場にも妙な期待と誤解をもたらしているようです。
 

野菜は何故甘くなったか?

2010-04-24 10:26:20 | Weblog
 地方新聞の方から「甘味控えめの時代なのに、どうして野菜は甘くなったのか?」という鋭い質問をいただきました。私自身、現在の仕事を始めるまでは、甘みを追求する必要はないと思ってました。即答できるほど頭が切れないので、その場は訳のわからん回答をしましたが、ここで整理してみます。
 まず、野菜の味は氏と育ちで決まります。氏というのは品種で、育ちは栽培や流通と考えてよいでしょう。品種については、国内外に多くの野菜の育種家がいます。商売でやっている以上、多くの生産者に買ってもらえるような品種を開発せねばなりません。当然生産者に優しいこと、すなわち作りやすく、病気になりにくく、多く採れることが求められます。生産者も消費者に好まれる品種でないと売れないので、消費者の好むような品質の(日持ちがよいとかおいしい)品種を求めます。国民が飢えることがほとんどなくなった今日において、消費者のもとめる品質の品種をつくることは、育種家にとって重要です。
 病気になりにくい品種をつくるのなら、いろいろな系統(品種の前段階)を植えて、その中で病気がでにくい株から種をとるようにすればよいはずです。多く採れる品種の場合も、同じ条件で植えて、収穫量の多い系統を選べばよい。ところが、おいしい品種を作るとなると、採れた野菜を端から食べて、味を比べればよいということに理論上はなります。ところが、2つ、3つなら比較できても、何百とあればとても味わうことはできません。そこで、おいしさの代わりに、何らかの物理化学的な指標で代用するわけです。その際によく用いられるのが糖度計です。メロンやスイカ、トマトなどでは、糖度の高いものが甘くておいしい傾向があります。そこで、品質面を重視する場合には、従来品よりも糖度の高いものを、まず選抜することになるでしょう。こうした糖度の高くなったもののなかから、実際に食べてみて味の変でないものが品種として生産者に渡されます。こうして、以前の品種よりも糖度が高い品種が市場に出る可能性が高くなります。糖度が高いものは、一般に糖含量も多いので、食べたら甘いわけです。
 生産者の方でも、差別化をはかるために、おいしいものを狙います。このときも、おいししさというのは紙に書きとめにくいので、糖度が指標になります。水を減らしたり、塩水を加えたりすると、トマトの糖度が上がることがわかりました。こうして糖度の高いトマトがフルーツトマトなどの名前で生産・流通されています。こうしたトマトはショ糖(お砂糖)の量が増えるので、当然甘いわけです。
 新聞社の方が言われるように、甘みが強くなるのは時代に逆行しているのかもしれません。私は次のように考えます。糖度4のトマトでは、そのまま食べたら物足りないので、例えばドレッシングをかけます。100gのトマトにマヨネーズを5g加えると、マヨネーズから35kcalとることになります。糖度6のトマトなら、そのまま食べても味があっておいしいので、マヨネーズは必要ありません。100gのトマトでショ糖が2g増えたとして8kcalの増加ですみます。トマトの糖度を上げることによって、摂取カロリーは減らしても満足度を上げることができます。
 トマトや、メロン、スイカなどはある程度糖度が高い方が、おいしく感じる人が多いものと思います。ただし、糖度が高すぎると、2口、3口と食べられないので、それぞれの野菜に適正な糖度はあるはずですが。それ以外の加熱調理する野菜については、糖度がどの程度重要か、難しいところです。野菜の甘みへの警鐘については、野菜と文化のフォーラムの「野菜のおいしさ検討部会」報告書でも述べられているところです。
 
  

トマトは体を冷やすか?

2010-04-24 09:16:49 | Weblog
 一般の方から「トマトは体を冷やすと言われるが本当か?」と問い合わせいただきました。巷では、夏野菜は体を冷やし、その根拠は漢方にあるとされるようです。
 HOTな野菜、トウガラシは体を温める効果があり、化学的は辛味成分であるカプサイシンとその類縁物質によるものと解明されています。トウガラシは夏に採れる野菜ですので、「夏野菜は体を冷やす」といいきることはできません。
 漢方というと権威あるようですが、トマトを世界の人が食べ出したのはコロンブスの新大陸発見以降、その後もしばらくはトマトは観賞用植物であったそうです。となると、さすがに何でも食べる中国人であっても、トマトを食べた歴史はせいぜい500年と考えられます。漢方薬の祖である神農や、八卦を操った天才諸葛孔明が口に入れて、体を冷やすと判断したわけではありません。(八卦も陰陽の組み合わせです。2の3乗で8、その8の2乗が64で、陰陽の組み合わせで森羅万象を説明しようとするものです。)
 中国では、すべての事象に陰陽五行を当てはめて説明しようとした歴史があります。中国の星占いにしても、手相や人相でもその影響を受けています。食品についても、陰陽五行で分けて料理を説明すれば、その料理人は頭がよさそうに見えますし、医師にしても患者や症状を陰陽五行でタイプ分けし、それに応じた陰陽五行を示す食事や医薬を与えれば、理論化できます。当然、経験に基づいて理論を深めるので、陰陽五行わけされた食品は、いまでいう栄養バランスを確保するために役だったものと推測されます。そういった過程で中国の薬学者か薬膳の料理人が、「トマトは陰性だ」と判断したのか、漢方を勉強したと名乗る日本人が勝手に「トマトは陰性だ」と決めたのかは知りません。少なくとも、近代栄養学に基づき、科学的に「陰性」に分類された事実はありません。(陰性食品は体を冷やすと説明されています。)
 夏の暑い時期に、よく冷やしたスイカは口当たりがよいのでつい食べ過ぎます。食べ過ぎると、お腹を冷やして下痢する可能性が高くなります。そういったわけで、スイカは、たぶん「陰性」とされるでしょう。トマトについても、暑い時期に冷やして食べれば、お腹を冷やしすぎる懸念があると判断したので、中国か日本のお偉い方はスイカ同様「陰性」とお決めになったのでしょう。
 仮にトマトに体を冷やす薬効があれば、解熱剤等の生薬として利用されてしかるべきかと思いますが、そういった民間伝承すら聞いたことがありません。トマトを「陰性」とされたのは、白黒どちらかに分類する都合上、仕方なく「陽」ではなく「陰」とされたものと考えます。
 ガンガンに冷えたトマトを、丼鉢一杯食べるのでなければ、「体を冷やす」ことを心配する必要がないはずです。それでも心配なら、加熱して温かいトマトを食べればよいでしょう。
 おいしいものをおいしい時期に、いろんな食材をとりまぜて食べることが、健康につながるものと理解しています。「体を冷やす食材」などと、根拠もなく恐怖心をあおるような書籍の販売はやめてほしいものです。
 

ニラのアリシンが豚肉のビタミンB1吸収を促進する??

2010-04-17 12:35:07 | Weblog
 先日、テレビ番組制作者の方から「ニラのアリシン含量は、根っこに近い部分と葉先とで違うのか?」という電話をいただきました。1.ニラの根っこに近い部分にアリシンが多く含まれる。2.アリシンはビタミンB1吸収を促進する。3.豚肉にはビタミンB1が含まれるので、ニラの根元の部分と組み合わせて調理すれば、ビタミンB1を有効に摂取できる。というストーリーを描いておられたようです。電話で話していても、よく勉強されているという印象を得ました。
 都市伝説を復唱するのではなく、科学的な知見を伝えねばなりませんので、「ニラにはアリシンはほとんど含まれません。」とお答えさせていただきました。制作会社の方の目をぱちくりさせる様が受話器ごしに見えるようでした。下記のように説明させていただきましたが、すでに八割方作られた番組はいかんともしようがないらしく、制作会社の方の描いたストーリー通り放送され、さらに都市伝説を上書きするような結果になってしまいました。(朝の番組ですので、DVDレコーダーにとって確認しました。)
 このブログでしばしば書いた内容を整理します。1.ニンニクにはアリインという含硫成分が含まれます。ニンニクは組織が傷つけられると、酵素の作用でアリシンなどを生成します。2.アリシンとビタミンB1(チアミン)を試験管内で反応させると、チアミンよりも体内吸収がよいアリチアミンを生成します。3.ニラの主要な含硫成分はアリインではなく、メチインであり、アリインとは化学構造が異なります。したがって、ニラの組織を傷つけても、アリシンはほとんど生成しません。(したがって、ニラのどの部分にアリシンが多いかと聞かれても答えようがありません。)4.ニラとチアミンを試験管内で混合すると、吸収効率のよい化合物が生成されるかについては、ほとんど知見はありません。5.一方で、ニンニクエキスとチアミンを反応させてアリチアミンを合成する場合には、pH8の弱アルカリ条件がよいとされます。豚肉中にあるチアミンとニンニクやニラ由来のアリシン、あるいはアリシン様物質が、アルカリ条件下で反応できるような料理というのは、考えられません。私が調べた範囲では、ニンニクやニラを使った料理を摂ることによって、ビタミンB1の吸収がよくなったという論文は皆無です。
 よく批判している「**事典」の類の本には、ニラだけでなく、ネギもタマネギについても、アリシン(あるいは硫化アリル)によるビタミンB1吸収促進と効能書きに書かれています。これらの本の監修者は、大学の先生や医者の場合が多いので、きちんと調べてから記載してほしいものです。