野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

栄養学の本より-トマト

2008-01-27 13:24:56 | Weblog
 ある「栄養学」の本のトマトのページで気づいた点です。
1.ベータカロテン、ビタミンC、ビタミンEと3大抗酸化ビタミンを含む。
 実はベータカロテンはホウレンソウ、ニンジンの1/10、
 ビタミンCはイチゴの1/4、ミカンの1/2、ダイコンなみ、
 ビタミンEはカボチャ、赤ピーマンの1/5、ラッカセイの1/10、
 3種類のビタミンを含まないとはいえませんが、期待するほど多くはないようです。文部科学省の食品成分データベースのランキングを調べると、これら3成分とも野菜のベスト100に入っておりません。
2.トマトのビタミンCはタンパク質と結びついて・・・血栓予防になる。
 ビタミンCは化学的にはアスコルビン酸です。トマトから摂ろうが、イチゴから摂ろうが、ペットボトルの茶から摂ろうが、働きは変わらないはずです。トマトに含まれるビタミンCだけが特別の働きをするように誤解を招きます。
3.赤い色素リコペンにはビタミンEの100倍の抗酸化作用があるとされます。
 それほどすばらしい成分を含むのであれば、どの程度含まれるのか数値を記載してほしいものです。
4.トマトに含まれるクエン酸は肉料理のうま味を引き出します。
 うま味を引き出すのであれば、肉のイノシン酸と相乗作用を示す「グルタミン酸」と書くべきところだと考えます。
5.トマト1個で1日に必要なビタミンCの約半分がとれます。
 トマト中(200g)1個のビタミンCは29mgとされます。一方成人の栄養所要量は100mgですので、ビタミンCの所要量の半分摂取するには普通の大きさのトマトが2個必要です。
 食に関心のある多くの方が参考にする本だけに、誤解のない表現を期待します。

ホウレンソウの白い粒

2008-01-26 14:03:28 | Weblog
 野菜の研究のために最初に作ったのがホウレンソウです。やっと芽がでて大きくなってきたかと思えば、葉にも茎(正しくは葉柄です)にもびっしりと白くて丸い粒がついていました。虫の卵ではないかと大あわてし、一部を実験室に持ち帰りふ化してみようと、観察しておりました。ところがいっこうにムシが出てきませんでした。
 ネットで調べると、シュウ酸カリウムの結晶だろうと言われているようでしたが、シュウ酸カリウムなら水に溶けるはずです。また丸い結晶って聞いたことがありません。
 その正体は、ゴム風船に水を詰めたヨーヨーのようなものだという論文がやっと印刷されました。「ホウレンソウ葉表面に付着する白色顆粒」園芸学研究7巻135-138(2008)です。詳しくは園芸学会のホームページにアクセスしてみてください。
 ミクロな真珠のようで実にきれいな粒ですが、残念ながらスーパーの店頭で見つけるのは難しいかもしれません。収穫後、調製作業の間に落ちてしまうためでしょう。ただし、これから「寒締め」「ちぢみ」といったホウレンソウが販売されます。葉っぱの縮れた溝のところを虫眼鏡でよく観察すると、きれいな球状の粒が観察できます。意識してその部分だけ食べると、やや砂っぽい感じがしますが、普通に食べる分には気づくことはないでしょう。

ピーマンで血液サラサラ

2008-01-26 13:36:29 | Weblog
 ピーマンを食べると血液がサラサラになり血栓予防作用があるなどとよく言われます。先のブログにも書きましたように、人にピーマンを食べさせて、血液を調べたような研究結果はみつかりませんでした。例の「あるある大事典」の本を読んでいたら、ありました!(ピーマンのページです。)
 「番組で」3人の人にピーマンを食べさせる実験をしたら、2人の血液の流れがよくなったと記載されています。どのような実験方法を行ったのか、本からだけでは分かりませんが、3人のうちの2人で改善されたからといって、番組の視聴者すべてに当てはまるものではないはずです。しかもわざわざ「番組で」と記載されているところからすれば、「専門家による実験結果がないので仕方なく素人の番組スタッフが実験を計画した」とも読めます。
 番組関係者の方が、1.ピラジン類に血小板凝集抑制作用があること、2.ピーマンの香気成分としてピラジン類が含まれることの2点からの発想で、ピーマンを食べれば血液がサラサラになるだろうと考えられたのではないかと想像します。問題点は、番組で紹介するにあたって、ピーマン1個にどの程度のピラジン類が含まれるかというデータがあったのか否か。多くの本やホームページなどで、ピーマンにはピラジンが含まれ血栓予防効果があるとは書かれていますが、どの程度含まれるのか量的なことまで記載されているものにはお目にかかったことはありません。(極微量しか含まないはずです。)とすれば、番組においてピーマンで「画期的な」実験をされ、血液がサラサラになったとしても、それをピラジンによるものと言い切る根拠はないはずです。
 本ではピラジンについて、ピーマン特有の「青臭み」として紹介しています。青臭い野菜の代表としてキュウリを連想し、キュウリのピラジンが血液をサラサラにするなどと言われるようになったのかもしれません。前に書きましたように、キュウリ特有のニオイは炭素数9つのアルコール、アルデヒドとされ、ピラジン類とは化学構造が全く異なります。キュウリを食べれば、ピラジンが含まれるためでなく、水分補給されることにより、血液の流動性は改善されるかもしれません。







お茶で血液サラサラ

2008-01-20 16:11:06 | Weblog
 ピラジンが含まれるのは、ピーマンだけではありません。お茶にも含まれます。特にほうじ茶などには焙煎香気として重要です。(ピラジンがどこで野菜の青臭さに化けてしまったのか不思議です。)
 それなら、お茶にも血液サラサラ効果があるのか?先述の並木は「茶の科学」朝倉書店(1991年)の175ページから183ページで、茶の血小板凝固抑制作用について解説しています。その結果、血小板凝集抑制物質としてピラジン類が登場するかと思えば、カテキン類に活性を見出しています(試験管レベルの実験)。この研究は富田によって継続され、EGCGというカテキンの活性はアスピリンの4倍あったと「茶の機能」学会出版センター(2002年)130ページに記載されています。
 アスピリンの4倍という数字だけを単純に見れば、EGCGはお茶の葉に5%以上も含まれる成分なので、お茶を飲めば血液サラサラになるといいたくなります。ところが著者は、試験管内の実験で得た50%抑制濃度(70μM)が血液中に存在するカテキン量と比較して高すぎるので効くかどうか分からないと慎重な立場です。実際にお茶を飲んだときの血液中のカテキン濃度は0.5μM程度と同書の56ページに記載されており、血液中のカテキンの濃度は血液をサラサラにするには低すぎるように私も考えます。試験管レベルの結果を人に当てはめることの難しさを示すよい例かもしれません。(茶を飲めば水分補給できるため、血栓予防には効果があるとは思いますが。)

ピラジンで血液サラサラ

2008-01-20 14:07:53 | Weblog
 野菜のピラジンについて何回か記載したものの、どうも腑に落ちないところがあり、気になっておりました。この分野の第1人者である並木和子先生の総説(日本ヘモレオロジー学会誌、8巻、3-8(2006))を入手しましたので、野菜を食べたら血液サラサラになるかの点から考察してみます。
1.ピラジンが血液サラサラに関係するかもしれないという研究のきっかけは漢方薬にあった。
2.化学合成されたピラジン類は試験管内に試験で血小板凝集抑制作用を示した。
3.焙煎ゴマ油の香気を「大量に」捕集して調べると、血小板凝集抑制効果があり、このゴマ油香気成分の中には、「2-エチルピラジン」「2,3,5-トリメチルピラジン」が含まれていた。
 という研究が、ピラジンで血液サラサラの根拠になっているようです。いっぽうで野菜の抗血栓力についても評価されているが、その方法は各野菜の生のジュースについて試験管内の試験で比較した結果に基づくものです。ものの本には「ピーマンはピラジンを含み血液サラサラ」と書かれますが、紹介されている抗血栓力ランクではホウレンソウ、トマト、ネギ、アスパラガスさらにはマスクメロンにさえ負けています。(キュウリはさらに遙か下のランクです。)
 焙煎香気成分でもあり、また血小板凝集阻害作用を有するピラジンが焙煎ゴマ油に含まれているというのは正しいと思われます。ただこのゴマ油をどれくらい飲んだら血液がサラサラになるのかは述べられておりません。(むしろ油の摂りすぎで、ドロドロになるように思えますが。)ピーマンのピラジンについてこの総説では言及されておりませんが、生のピーマンの主要香気成分のひとつとして、2-isobutyl-3-methoxypyrazineが存在することが、食べ物香り百科事典に記載されています。ただし、このピラジンが血小板凝集阻害作用を示すか否かは明らかではありませんし、普通に食べて十分摂取できる量含まれているかも不明です。
 人の試験(わずか4名)ではホウレンソウを200g以上数回摂取すると、抑制効果が認められたとのこと(毎日ホウレンソウを200gも食べて結石は大丈夫ですか?)ですが、ピーマンについては言及されておりません。
 野菜の中に血小板凝固を阻害する成分が含まれている可能性は否定しませんが、それは必ずしもピラジンに限ったものではないというのが、この文献から得た私の結論です。

ピーマン(ビタミンPほか)

2008-01-19 14:31:10 | Weblog
 引き続き、栄養の本についてのコメントです。
 なぜかここにだけビタミンPが登場します。後ろの方の解説にもビタミン様作用物質と書かれているだけで、ビタミンの説明項目には見当たりません。ここはフラボノイドとなぜ書かなかったのか疑問です。フラボノイドは体調節作用は期待されてはいますが、必ずしも必須とはされていません。2007年に出版された本に、なぜ体に必須ですよといわんばかりにビタミンP(死語に近い印象がある)の文字を出したのか疑問です。
 また、ピーマンの香り成分のピラジンに血液をサラサラにする効果があるとのことです。ピーマンの香気成分の中にピラジン類が同定せれていることまでは文献をフォローできました(キュウリではみつかりませんでした)が、香り成分で血液がサラサラになったという文献は探しているのですが見当たりません。
 この本に書かれているように、ピーマンを完熟させると赤くなり、赤ピーマンとして売られています。黄色やオレンジのパプリカもピーマンの仲間ですが、緑のピーマンとは品種が異なります。

ダイコンの辛味成分

2008-01-19 14:13:04 | Weblog
 19日に連続して紹介している本のダイコンの項目には、辛味成分としてアリル化合物について述べられています。ワサビの辛味成分は、すりおろした時に生成するアリルイソチオシアネートとされますので、アリル化合物と言ってもよいのかもしれません。ダイコンの辛味はアリルイソチオシアネートではなく、4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートです。ネット上にもアリルイソチオシアネートと書かれたものが多いのですが、ダイコンとワサビの辛味成分の違いについて、こういった売れそうな本でこそきちんと説明してほしいものです。
 要するに、ダイコンの辛味はアリルイソチオシアネートではないので、試験なのでアリル化合物と解答すると×がもらえるはずです。
 ちなみに、ブロッコリースプラウトに関連して宣伝されるスルフォラファンもイソチオシアネートの仲間です。

栄養学の本より(硫化アリル)

2008-01-19 08:05:00 | Weblog
 「フードファディズム」で有名な高橋久仁子氏は、本の中でタマネギのメチインについてよく言及されています。タマネギのメチインをラットに投与すれば血糖値が下がったという報告はあるが、これをそのまま人に適用して、タマネギが糖尿病に効くとはいえないという主旨です。すなわち、ラットに与えたメチインの量は、人に換算するとタマネギ50kg分に相当するので、とても現実的には摂取できないということです。
 メチインは野菜に含まれる含硫化合物なので、この点から栄養学の本をチェックしてみました。
 ニンニクもニラもタマネギもネギもすべてアリシンがビタミンB1の吸収を促進すると書かれています。アリシンは植物体内にはアリインの形で存在し、包丁で切っ切ったり、かじったりすると植物体内の酵素が作用してアリシンが生成するのだと、「あるある大事典」などでも正しく書かれています。確かにニンニクにはアリインが多く含まれますので、アリシンの効果は期待できるかもしれません。冒頭に書いたタマネギのメチインはアリインとは少し構造が異なります(アリル基がメチル基になっている)。野菜の種類によって、アリインを多く含むもの(ニンニク)、メチインを多く含むもの(ニラ)、その他の含硫成分を多く含むものがあります。アリインが多いニンニクからはアリシンが生成すると期待できますが、他の含硫成分を含む野菜から、ビタミンB1の吸収を促進するほどのアリシンが生成するのか、味噌もクソも同じ扱いではだめだと考えます。
 多くの本に、これら野菜の健康成分として「硫化アリル」が紹介されています。アリル基をもつアリインは硫化アリルと呼んでもよいのかもしれませんが、アリル基ではなくメチル基をもつメチインまで硫化アリルの仲間にされるのはおかしいと思います。

新しく栄養学の本を買いました(キュウリのピラジン)

2008-01-19 07:25:45 | Weblog
 先日、大型書店の専門書のコーナーで栄養学の本を見つけました。監修者は、野菜に関してもすぐれた研究論文を出されている先生ですので、内容を期待して購入しました。
 食材別に栄養効果が記載されていますが、さっそくキュウリの項目を読むと「青臭さのもとはピラジンであり、血液サラサラ効果がある」と書かれています。本ブログの10月14日にも記載しましたが、ピラジンというのは食品を加熱したときの香気成分であり、キュウリの青臭さとの関連で書かれた科学文献はみたことがありません。仮に、キュウリの香りに血栓凝固を阻害する作用があるとすれば、カットキュウリの工場で働いている方が、指先をちょっと切ったら、血が止まらずに救急車で運ばれるという事態になりまねません。そういった事例報告は見たことがありません。普通にキュウリを食べたぐらいで香気成分のピラジンが血液サラサラ作用するのか大いに疑問です。
 偉い先生の監修された本にも怪情報が満載されているようで、本ブログで気づく点を考察してみます。