野菜に関する怪情報を探る

テレビや書籍、ホームページなどから、野菜に関する記載について疑問に感じたことを綴るつもりです。

サヤエンドウのグルタミン酸はトマトの6倍!?

2009-03-28 15:10:49 | Weblog
 最近書かれたHPに「サヤエンドウのグルタミン酸はトマトの6倍」と書かれているのを見て驚きました。グルタミン酸を豊富に含むサヤエンドウはうま味が強いと解説されています。
 サヤエンドウというと結構マイナーな野菜でもあり、アミノ酸分析のデータはみたことがありません。(どなたか分析値を持っておられればぜひ教えてください。)この解説記事には必須アミノ酸のリジンを含むことも書かれています。確かにサヤエンドウを紹介したホームページの多くには、サヤエンドウの「豆」にリジンが含まれるとされます。野菜園芸技術97年4月号には、日本食品アミノ酸成分表のデータをもとに、リジンについて他の野菜よりも1桁多く含むと言及されています。ただし、食品アミノ酸組成表に出ているのは、エンドウ(全粒)となっており、サヤではなく、マメの分析値です。分析表では水分が13%となっており、90%以上水分を含む普通の野菜と比べれば、マメにおいて各成分が1桁くらい多くて当然です。それではエンドウ豆のリジンが他の豆と比べて多いかといえば、5訂食品成分表によれば、大豆より少なく、インゲン豆やソラ豆なみといったところで、豆類としては際だって多いとはいえません。
 5訂食品成分表によれば、エンドウ豆のグルタミン酸の含量は3400mg(大豆は6600mg)です。同じ表のトマトでは260mgとなっており、単純比較すればトマトの13倍になります。(アレッ、6倍にならない!)ただし、成分表に書かれているデータは、タンパク質を分解して得られるアミノ酸も含まれます。グルタミン酸は「うま味」成分ではありますが、タンパク質を構成しておれば、口の中で溶け出すことはなく、うま味は感じません。従って、食品成分表の値を比較しても、「うま味が強い」という記述はできません。うま味が強いというためには、タンパク質を構成しない遊離のグルタミン酸について、データを得る必要があります。
 グルタミン酸は6倍というデータは、サヤエンドウで実際に測定した遊離グルタミン酸の含量は、トマトの遊離グルタミン酸の含量の6倍であったという意味だと解釈されます。上記食品成分表のエンドウ豆のグルタミン酸3400mgを、トマトのグルタミン酸260mgで割って、13倍を出し、サヤエンドウには豆だけでなくサヤもあるので、それをエイヤーと2で割って「6」倍という計算ではないものと信じます。

フルーツ酸?

2009-03-28 14:05:20 | Weblog
 ある勉強会で「フルーツ酸」について意見を求められました。お恥ずかしい話、初めて聞く言葉でしたので、まともな返答はできませんでした。
 ネットで調べてみると、医者が肌のケミカルピーリングに使っている薬剤がグリコール酸などのアルファヒドロキシ酸であり、これらの酸がフルーツ酸とも呼ばれるようです。ケミカルピーリングでお肌がきれいになるので、いわゆるフルーツ酸入りの美顔剤や石鹸が販売されているようです。グリコール酸がケミカルピーリングに用いられるのは、文献等もあり間違いないようですが、他のピーリング剤として、トリクロロ酢酸などもあるようです。トリクロロ酢酸というと、結構強い酸であり、酵素作用を止めるのにも使われます。素人考えですが、ケミカルピーリングというのは、酸の作用で、皮膚の古い組織を分解するのではないかと思います。強い酸である硫酸や塩酸を使うと、効き過ぎて火傷のようになりますし、酢酸なら汗臭くていやがられるので、比較的弱くて使いやすいグリコール酸が使われるのではないでしょうか。
 そうなると、グリコール酸であれ、フルーツに含まれるクエン酸やリンゴ酸であれ、使い方を間違える(濃すぎたり、長時間つけすぎる)と肌へのダメーシは大きいのではないかと懸念します。
 また、フルーツ酸にピーリング効果があったとしても、「酸性」に保つことが鍵と思われます。そうなると、スキンケア用品に「フルーツ酸」を加えたとしても、「フルーツ」は体によい、あるいは「フルーツ酸」は美顔治療にも使われているといったイメージしか付け加えることはできないのではないでしょうか。
 この分野では素人の考えです。コメントがあればお願いします。

キュウリのヘタと実をこすりあわせるのは何故か

2009-03-09 06:24:25 | Weblog
 論文の紹介をさせていただきます。(日本調理科学会誌,41,378-382 (2008))
 子供の頃、母親がキュウリのヘタの部分を切り落とし、残った実の部分と切り口を合わせてこすっている姿を見ました。何のまじないかと聞けば、苦味をとるとのことでした。何故苦味がとれるのか、ずっと疑問に思っておりました。
 一方、自分でキュウリを栽培しても、最近の品種ではなかなか苦いものは作れません。加賀太キュウリのような伝統的な野菜でのみ、へたの部分が苦くなる場合があります。こういった品種の変遷を受けてか、料理の本をみても、ヘタと実をこすりあわせるなどと書かれたものは少なく、またあったとしても無意味であると記載されています。確かに、キュウリの苦味はククルビタシンCによるものですが、ヘタと実をこすれば分解するような類の物質ではありません。
 実験のため何本もキュウリを食べていると、唇がボロボロになりますし、たまに渋いものに遭遇します。ただ、渋いものは、特定の品種というわけでもなく、なかなか解析が難しいものです。いたずらで切り口をなめてみると、どれもこれも、キュウリとは思えぬくらい渋く(粘膜が荒れる感じ)感じられます。そこで、切り口に出ている液から渋味成分を同定しようと考えました。
 切り口から液がサラサラでてくれればやりやすいのですが、人間も傷口がふさがれるように、切り口も乾燥から守るため、液はすぐに固まってしまいます。幸運な間違い等紆余曲折があって、切り口に出る「ギ酸」が渋味に関係するだろうと推定しました。ギ酸は切り口からは検出できるのですが、キュウリの果実全体から分析しようとしても検出できません。ギ酸は切り口にしみ出す液にのみ含まれると考えられます。
 ギ酸を減らせば、渋味も減りおいしくなるはずです。それではどのようにして、しみ出す液を減らすか?キュウリのヘタと実をこすりあわせれば・・・。やってみると、確かにしみ出す液量がへりました。食べると確かに渋味は減っています。
 ヘタと実をこすりあわせるのは、実は渋味のあるギ酸を減らす目的と考えられます。
 今、ヘタと実をこすりあわせる人が少ないのは?キュウリの渋味は、暖かい場所に収穫後しばらく放置すると増加します。夏の暑い日に、八百屋さんの店頭でひなたぼっこしたキュウリを買って、そのまま手で二つにおってかじりつくと、渋味を感じるはずです。ところが、キュウリも上品にカットして食べるのが、今は一般的です。カットして10分もたつと、しみ出た液(ギ酸を含む)が固まって、そのためギ酸が溶け出すことがなくなり、渋味が感じられなくなります。また板ずりして、皮に傷つけると、ギ酸はそこから排出されます。
 昔の知恵は迷信ではなく、確かに意味があった。ただし、食べ方、流通・保存の変化が昔の知恵の必要性を低下させているようです。 

 

ゴーヤの苦味

2009-03-07 13:47:18 | Weblog
 沖縄でお話させていただく機会があり、「キュウリの苦味成分ククルビタシンがガンに効くなどといわれるが、そもそも今のキュウリの果実にククルビタシンは入っていない」ということを述べました。「それではゴーヤはどうなの」という質問をいただきました。
 キュウリとは異なり、ゴーヤの機能性研究は現在盛んに行われており、新しい知見が続々と報告されているところでもあり、本欄でまとめるのは難しく感じています。小堀の総説(食品の包装,38(2)平成19年)によると、糖尿病に有効な民間薬として用いられており、マウスやラットの試験では改善効果が認められているものの、臨床での有効性を示すには十分な知見が揃っていないそうです。
 ゴーヤの特徴はその苦味にあり、苦味成分について、ネット上では様々に言われますが、現在の知見では、キュウリの葉に含まれるククルビタシンの仲間(トリテルペノイド)とされています。学名をMomordica charantia といいますので、この苦味成分をモモルディシン、モモルディコシドなどと呼びます。
 5月にも紹介しましたが、鰹節のだしがらにゴーヤの苦味を抑える働きがあるようです(日本食品科学工学会誌55巻4号)。鰹節のだしがらに、ゴーヤの苦味成分が物理的に吸着するため、苦味が弱められると著者は推定しています。ククルビタシンが鰹節に吸着されるのか否か、検証が待たれるところです。
 ゴーヤというと、長寿県沖縄の野菜ということで、健康によいのではないかというイメージが先行しているように思えます。確かにビタミンCは豊富ですが、糖尿病への効果やガン抑制効果などについても、どういった成分がどのようなメカニズムで作用するか、また、日常的に摂取できる範囲でそういった健康維持機能を期待できるのか等、解明すべき課題は多いと考えます。