相手からの熱心なアプローチは果たして凶と出るのか、吉と出るのか――。

5月10日から韓国大統領に正式に就任する尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が派遣した代表団が、4月24日から日本を訪問した。

文在寅政権下で史上最悪ともまで言われるほどに悪化した日韓関係により、政府間の交流は途絶えて久しかった。

今回、5年ぶりに保守系政権となることで日韓関係がどのような変化を見えるのかに関心が高まっているが、尹氏は日本へ米国に対して関係の重要性を強調し、積極的な外交を展開していくことを明言している。

これからの日韓関係は再びどのように変化していくのであろうか。

© 尹錫悦氏 

満を持した代表団の日本派遣

尹氏が派遣した代表団の顔ぶれには、知日派と言われる議員や外交の専門家がそろい、また派遣は米国に続いて2ヵ国目であること、そして、5日間という日程からも尹氏が日本との関係を重視して力を入れようとしていることが感じられる。

また、文在寅政権とは明確に異なり、「日本を重視する」ということをアピールする狙いもあったものと思われる。

滞在期間中に、代表団は連日、政府関係者や与野党の主要議員との会談を勢力的に行なったほか、4月26日には岸田首相との会談を実現させるに至った。

代表団は今回の訪日で、日韓関係悪化の要因にもなった元徴用工問題をはじめ、ウクライナ情勢や北朝鮮問題を視野に入れた「日米韓」の連携の確認、さらには、コロナ禍から日常生活への転換を見据え、2年以上休止している羽田‐ソウル(金浦)便の運行の再開、韓国に対する隔離免除の適用、さらにビザなしによる渡航の復活なども話し合ったという。

© 日韓関係はどう変化するか 

日韓での報道の仕方を比較すると、日本側は歓迎ムードは極力抑え、韓国の出方を慎重に見極めたいという印象である。

対する韓国側は尹氏の就任を前に日本訪問による一定の成果を示したいという思惑が見え隠れし、両国間で温度差があったことは否めない。

いずれにしても、日本も韓国も今回の代表団の訪問について関心と注目が集まったのも確かである。そうした中で、これに水を差すような発言をしたのが文在寅氏だ。

「最後まで日本に責任転嫁」の文在寅

文在寅氏は退任を控えた4月26日に中央日報系列のケーブルテレビ局・JTBCで5年間の政権運営を総括し、振り返るインタビューに応じた。

これまでにも新型コロナや経済政策など国民からの批判は知らぬ存ぜずで見向きもせず自画自賛を繰り返してきた文在寅氏であるが、今回のインタビューにおいても自らの成果を強調する中で、日韓関係について言及する部分があった。

それは、文氏は「日韓関係が悪化したと言われるのは、韓国政府の立場が変わったからではない。

日本が右傾化したことにより変わったものである」と述べたことであり、一連の日韓関係の悪化は日本側に責任があることを最後まで崩さなかったと言える。

いまや日本製品が大人気

これには、怒りを通り越してもはや呆れるしかないというのが率直な感想である。

いまにして振り返っても、文在寅氏の外交政策は日韓問題にのみならず私情に流される傾向があったと指摘されることが多い。

そして、北朝鮮を重視した従北政策は結果的に若い世代への反感を広め、さらにその嫌悪感は中国に対する反中感情にも飛び火することとなった。

© 反日ムーブメントは収まった 

反面、日本をターゲットにした「NO JAPAN」こと「日本製品不買運動」は当初でこそ政府やマスコミの煽動により国民感情が刺激された部分もあったものの、現在では過去のことであり、バッシングの対象とされていたユニクロは相変わらず根強い人気を維持し、日本産ビールも普通にスーパーやコンビニ、飲食店で目にするようになっている。

さらに、最近では「ポケモンパン」が爆発的な人気で入手困難となるなど、「NO JAPAN」があったことすら今や信じ難いほどである。

結局は文在寅氏がほとんど何ら成果を遂げることができなかったこと、大統領選挙で与党候補が敗北したこと、そして、尹氏が今までの文氏の外交姿勢を否定するかのような動きを見せていることへの悔しさと負け惜しみが今回の発言にもつながったのではないかと言われる始末なのだ。

しかも、あれほど敵対心をむき出しにしていた安倍氏と代表団があっさりと面会を果たしたことについても、文在寅氏の心中は相当荒れていることだろう。

ちなみに文氏最後のこのインタビューについて朝鮮日報など大手紙は「詭弁だ」、「理解し難い」などといった否定的な評価を下している。

不安もあるが、政治家でないからこそ現実を見る尹氏

今回、代表団が岸田首相が代表団と面会をしたことについて自民党関係者やマスコミからは「時期尚早だ」、「会うべきではなかった」と否定的な声も多かったのは事実である。

日本側としてみれば、韓国から一方的に裏切り行為をされたことに対する不信感はまだまだ根強く、安易に相手を受け入れられないのは当然であろう。

文在寅氏ほどではなかったにせよ、李明博(イ・ミョンバク)政権、朴槿恵(パク・クネ)政権では、保守でありながらも期待されたほどの関係構築がされることはなかった。

しかし、韓国での、尹氏の当選後の動きを見ているとこの5年間に文氏によって大きく後退させられた外交や経済などの難題に挑もうとする前向きな姿勢を感じるのである。

尹氏は政治家としての経験がないこと、また、就任後は少数与党という厳しく茨の道になるであろうことは容易に想像できる。

過度な期待を寄せるのは禁物であろう。それでも、尹氏に対して僅かながらも期待を託したいのは、政治家でないからこその視点である。

「文在寅以上に最悪」にはならない

政治家としての色に染まっていないからこそ偏った視点ではなく、韓国が抱えている問題を冷静に見ているのではないか。

© 尹錫悦氏 

文在寅氏の最後まで自身の失策を顧みることなく、国民に苦痛を与え続けてきたことを考えれば、仮に尹氏に多少不出来なところがあったにせよ、「文氏以上に最悪になることはないだろう」と思えてしまうのである。

賛否両論があながらも今回、代表団を日本に派遣したこと、岸田氏との対談が行われたことは大きな意味があり、評価をしたいと思うところである。