韓国景気は半導体特需で回復しているのに、若者の不満が爆発寸前の理由
経済は緩やかに回復したものの
改善ペースが鈍い韓国の労働市場
韓国について、最近、国民の不満が高まっているという話をよく耳にする。
2021年、韓国経済は緩やかに回復したものの、国民の重大関心事である労働市場の改善は遅れている。
韓国統計庁によると、21年の「求職断念者数」は、14年以降の過去最高を記録した。
景気回復を実感できず、就職を諦めざるを得ない人が増えているのは、国民にとって大きな不満であることは間違いない。
短期的に見ると、コロナ感染再拡大による経済活動の低下は、労働市場の需給にマイナス影響を与える可能性が高い。
また、産業構造が旧財閥などの大企業に集中する韓国では、今後も半導体など先端分野で大手企業への依存度がさらに高まるだろう。
中小企業などに属する人々への経済的な便益は及びにくい。
革新系の現政権は、労働組合にフレンドリーな政策運営によって、「今」働いている労働者を擁護する方針をとっている。
そのため、学生や求職者など「これから」働く人々には厳しい状況になっている。
わが国へ来ている留学生にヒアリングしても、「韓国に帰っても就職が厳しい」という指摘が多い。
旧財閥系大手企業に依存した経済構造の改革や、持続的な雇用機会の創出が、次期政権の大きな課題だ。
財閥系大手への依存度が高く
若年層のチャンスが少ない状況が深刻化
コロナ禍が発生して以降、韓国の労働市場の改善ペースが鈍い。GDP(国内総生産)は増えているにもかかわらずだ。
半導体輸出などに支えられ、21年通年の実質GDP成長率は、前年比4.0%増だった。
金額ベースで見ると、感染が深刻化する前の19年10~12月期の実質GDPは469兆7795億ウォン(約44.7兆円)だったのに対し、21年10~12月期は483兆701億ウォン(約46兆円)に増加した。
マクロレベルでは韓国経済の回復力は世界的に高いといえる。
理論的に考えると、GDPが増えれば労働市場は改善するはずだ。
しかし、現実の労働市場全体は、期待されたほど改善しているとはいえない。
21年の労働参加率は62.8%で、19年の63.3%を下回った。働く意思を持つ人が減っている。
また、21年の就業者数は前年から36万9000人増えた。ただ、増え方に問題がある。
世代別では、60歳以上の就業者数が33万人増と他の世代よりも多い。
本来なら、景気回復によって人々の労働意欲が向上し、若年層を中心に就業者が増加するのが望ましい。
韓国の労働市場は、若年層のチャンスが少ない状況が深刻化している。
その一因に、財閥系大手企業への経済依存度の高さがある。
韓国経済はサムスン電子など大手メーカーが、日本をはじめとする諸外国から資材を輸入し、韓国内で製品を大量生産して輸出する産業モデルで成長してきた。
財閥系大手に勤めるには、有名大学を卒業して厳しい就職活動に勝ち残る必要がある。
それが難しい場合、満足いく就業先を見つけることは難しいという。そうした状況が深刻化しているとみられる。
また、左派政治家である文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、労働組合に有利な政策を実施した。
「重大災害処罰法」はその一つだ。文氏の経済政策は中小企業の体力をそいだ。若年層の雇用・所得環境はますます厳しくなっている。
コロナ感染再拡大や
中国経済減速などの悪影響
今後、韓国の雇用・所得環境の不安定感はさらに高まる可能性がある。
短期的な要因として、まず、コロナ感染再拡大の悪影響は大きい。
1月中旬に入り韓国のコロナ新規感染者数は再増加に転じた。
英国などの推移を基に考えると、感染者数がピークに達すればその後は再拡大が落ち着く可能性はあるが、先行きは楽観できない。
特に、感染再拡大は人々の恐怖心理を高める。
それは人流・物流の寸断を長引かせ、雇用の受け皿である飲食や宿泊などサービス業の業況は軟化するだろう。
また、韓国の貿易収支の黒字が減少、あるいは赤字転落するリスクも軽視できない。
それは輸出依存度の高い韓国経済の、先行き懸念を高める。
最大の輸出先である中国は、不動産市況の悪化とゼロ・コロナ対策によって経済の減速傾向が鮮明だ。
韓国の対中輸出は減少する恐れがある。
また、輸入物価の上昇リスクも高まっている。
中国のゼロ・コロナ対策などを背景に、世界のサプライチェーン寸断の解消は容易ではない。
脱炭素を背景に、エネルギー資源価格にも上昇圧力がかかっている。
卸売物価を中心に世界の物価上昇圧力は高まるだろう。
それは米金利を上昇させ、ウォン売り圧力がかかりやすい。
ウォン安は輸入物価を上昇させ、交易条件の悪化要因になり得る。
加工貿易による韓国の経済運営は一段と難しくなり、企業の採用意欲は低下する恐れがある。
韓国銀行(中央銀行)が追加利上げを実施する可能性が高まっていることも、労働市場の改善にマイナスだろう。
韓国では家計や中小企業の債務残高が増加している。
利上げによって債務者の元利金返済負担は増える。金利上昇は、レバレッジをかけて株式や仮想通貨に投資(投機)した個人にも打撃を与えるだろう。
それらはいずれも、韓国の内需が減少する要因になる。
内需が減少すれば、国内での設備投資や小売業の売り上げは減少する。それも雇用・所得環境を下押しするだろう。
加速する海外直接投資と
産業空洞化への懸念
中長期的には、大手企業による海外直接投資の増加によって、産業空洞化が懸念される。
わが国以上に韓国の少子化は深刻だ。企業は成長を目指して海外事業を強化している。
その最たる例が、バッテリーメーカーが海外直接投資を急速に増やし始めたことだ。
車載バッテリー世界2位のLGエナジーソリューションが1月27日、韓国取引所に上場した。
市場から調達した資金で海外事業を強化する方針だ。
すでに、米ゼネラルモーターズや現代自動車と合弁で、米国やインドネシアにバッテリー工場を建設すると発表している。
わが国のホンダともバッテリー合弁事業を運営するとの観測がある。
また、サムスンSDIも海外直接投資を増やし、電気自動車シフトなどを背景に急増する車載バッテリー需要をより多く取り込もうとしている。
最重要輸出品目である半導体分野でも、海外直接投資は増えるだろう。米インテルがオハイオ州で最先端の半導体工場を建設する影響は大きい。
かつて、インテルは半導体の回路線幅の微細化技術の向上につまずいた。
同社が最先端の生産活動を行うためには、台湾積体電路製造(TSMC)の製造技術に頼らざるを得ない。
ファウンドリー(半導体の受託製造)事業の成長加速を目指すサムスン電子は、対米直接投資をさらに積み増して対抗しなければならないはずだ。
文政権下の韓国では労使対立が激化した。
国内で企業が事業運営の効率性を高めることは難しい。
人件費の抑制や需要地への期待、専門人材や豊富な資源などを求めて、経営体力のある企業は海外進出を強化せざるを得ない。
その結果、国内には「ゾンビ企業」と呼ばれる不安定な企業が増える。
韓国の産業空洞化への懸念は高まるだろう。
次期政権は産業構造の転換を進め、財閥系大手への依存度を低下させることが必要不可欠のはずだ。
その成否が、韓国経済の中長期的な展開に重要なファクターになるはずだ。