大阪公立大、阪大超えの野望 「大学世界200位に」
大学 関西 大阪 社会・くらし2020/7/11 11:30日本経済新聞 電子版
統合して「大阪公立大学」となる大阪府立大学(写真上)と大阪市立大学(8日)
2022年4月に大阪府立大と大阪市立大が統合して誕生する新大学の名称が「大阪公立大学」に決まった。
学部の入学定員数は全国の国公立大で3位の規模。
関係者には「いずれは研究水準で大阪大をしのぐ存在に」との思いもある。手厚い学費支援も武器に、関西圏の有力大の受験生争奪戦に大きな変化をもたらす可能性がある。(大元裕行)
「大阪公立大の誕生は、関西の国公立大にとって『劇薬』となるに違いない」。教育情報会社、大学通信(東京)の安田賢治常務は推測する。
新大学の学部入学定員数は約2850人。京都大(約2800人)や神戸大(2530人)を超え、国公立で全国3位となる。教員数も約1370人と神戸大(約1580人)に近づき、関西でトップクラスとなる。
府大は工学系など理系に強みを持つ。
市大は一橋大、神戸大とともに「旧三商大」と呼ばれ、文系に定評があるほか医学部を有する。
府大の4学域、市大の8学部を1学域11学部に再編。医学部と獣医学部を有する関西圏で唯一の大学となる。
松井一郎大阪市長は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、新大学に感染症の研究拠点を整備する考えを示している。
複数の府大・市大関係者は「神戸大を超えるのが使命。阪大に追いつくのが目標」と意気込む。
19年4月に発足した大阪公立大の運営法人や府・市が20年1月にまとめた基本構想には、国際的に権威がある英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングで「200位をめざす」と明記した。
「いずれ大阪大(251~300位)を超えたいという決意を暗に示している」(市大関係者)
現在は市大が「801~1000位」、府大が「1001位~」で200位のハードルは高い。
ランキングで大きな配点を占めるのが世界の研究者による評判(33%)と論文引用回数(30%)。
運営法人幹部は「海外の学会で論文が注目を集めれば、研究者間の評価が上がり引用回数も増えるはず。
海外大や企業との連携を増やして質の良い論文を多く発表していきたい」ともくろむ。
さらに大学関係者によると、国内外の著名な研究者のヘッドハンティングを担当する幹部を置く案が浮上している。
世界中の大学や研究機関を回ってスカウトし、引き抜いた研究者については待遇や研究費の優遇、講義免除などを検討している。
ここ10年でランキングが上昇しているアジアの大学が同様の手法を導入しているという。
一方、学生集めの武器となりそうなのが手厚い学費支援だ。
国による入学料・授業料の全額免除(私大の一部を除く)は、住民非課税世帯(世帯年収270万円未満)が対象。
府大・市大は590万円未満が対象で、590万円以上910万円未満の世帯も子どもの数によって免除・軽減する。学生本人と保護者が入学の3年前から府内に住んでいることが条件だ。
20年春の阪大入学者(一般入試)のうち、大阪府民は24.8%。神戸大も府民が24.6%で兵庫県民(23.1%)を上回る。
両大学に毎年50人前後が合格する府立天王寺高校(大阪市阿倍野区)の高江洲良昌教頭は「学費は大学選びの大きな要素。
新型コロナで家計が苦しくなった生徒もおり、阪大や神戸大の志望者が大阪公立大に傾く可能性は十分ある」と話す。
財源確保が課題
研究水準の向上、施設の充実などには財源の確保が欠かせない。
国公立大の収入で最も割合が大きいのは、国や自治体から受け取る運営費交付金だ。
2018年度の交付金は大阪府立大が約99億円、大阪市立大が約111億円で計約210億円。神戸大(約215億円)とはほぼ同水準だが、国が重点支援する京都大(約530億円)や大阪大(約510億円)とは大きな差がある。
独創的・先駆的な学術研究を支援する「科学研究費補助事業」(科研費)の19年度の配分額も、京都大約128億円、大阪大約108億円、神戸大約32億円に対し、府大・市大は計約23億円だ。
両大学は府・市の支援に期待する。リクルート進学総研の小林浩所長は「統合をゴールとすることなく、産学連携などで外部資金の獲得額を増やし、教育や研究を高度化する必要がある」と指摘する。
大学 関西 大阪 社会・くらし2020/7/11 11:30日本経済新聞 電子版
統合して「大阪公立大学」となる大阪府立大学(写真上)と大阪市立大学(8日)
2022年4月に大阪府立大と大阪市立大が統合して誕生する新大学の名称が「大阪公立大学」に決まった。
学部の入学定員数は全国の国公立大で3位の規模。
関係者には「いずれは研究水準で大阪大をしのぐ存在に」との思いもある。手厚い学費支援も武器に、関西圏の有力大の受験生争奪戦に大きな変化をもたらす可能性がある。(大元裕行)
「大阪公立大の誕生は、関西の国公立大にとって『劇薬』となるに違いない」。教育情報会社、大学通信(東京)の安田賢治常務は推測する。
新大学の学部入学定員数は約2850人。京都大(約2800人)や神戸大(2530人)を超え、国公立で全国3位となる。教員数も約1370人と神戸大(約1580人)に近づき、関西でトップクラスとなる。
府大は工学系など理系に強みを持つ。
市大は一橋大、神戸大とともに「旧三商大」と呼ばれ、文系に定評があるほか医学部を有する。
府大の4学域、市大の8学部を1学域11学部に再編。医学部と獣医学部を有する関西圏で唯一の大学となる。
松井一郎大阪市長は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、新大学に感染症の研究拠点を整備する考えを示している。
複数の府大・市大関係者は「神戸大を超えるのが使命。阪大に追いつくのが目標」と意気込む。
19年4月に発足した大阪公立大の運営法人や府・市が20年1月にまとめた基本構想には、国際的に権威がある英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングで「200位をめざす」と明記した。
「いずれ大阪大(251~300位)を超えたいという決意を暗に示している」(市大関係者)
現在は市大が「801~1000位」、府大が「1001位~」で200位のハードルは高い。
ランキングで大きな配点を占めるのが世界の研究者による評判(33%)と論文引用回数(30%)。
運営法人幹部は「海外の学会で論文が注目を集めれば、研究者間の評価が上がり引用回数も増えるはず。
海外大や企業との連携を増やして質の良い論文を多く発表していきたい」ともくろむ。
さらに大学関係者によると、国内外の著名な研究者のヘッドハンティングを担当する幹部を置く案が浮上している。
世界中の大学や研究機関を回ってスカウトし、引き抜いた研究者については待遇や研究費の優遇、講義免除などを検討している。
ここ10年でランキングが上昇しているアジアの大学が同様の手法を導入しているという。
一方、学生集めの武器となりそうなのが手厚い学費支援だ。
国による入学料・授業料の全額免除(私大の一部を除く)は、住民非課税世帯(世帯年収270万円未満)が対象。
府大・市大は590万円未満が対象で、590万円以上910万円未満の世帯も子どもの数によって免除・軽減する。学生本人と保護者が入学の3年前から府内に住んでいることが条件だ。
20年春の阪大入学者(一般入試)のうち、大阪府民は24.8%。神戸大も府民が24.6%で兵庫県民(23.1%)を上回る。
両大学に毎年50人前後が合格する府立天王寺高校(大阪市阿倍野区)の高江洲良昌教頭は「学費は大学選びの大きな要素。
新型コロナで家計が苦しくなった生徒もおり、阪大や神戸大の志望者が大阪公立大に傾く可能性は十分ある」と話す。
財源確保が課題
研究水準の向上、施設の充実などには財源の確保が欠かせない。
国公立大の収入で最も割合が大きいのは、国や自治体から受け取る運営費交付金だ。
2018年度の交付金は大阪府立大が約99億円、大阪市立大が約111億円で計約210億円。神戸大(約215億円)とはほぼ同水準だが、国が重点支援する京都大(約530億円)や大阪大(約510億円)とは大きな差がある。
独創的・先駆的な学術研究を支援する「科学研究費補助事業」(科研費)の19年度の配分額も、京都大約128億円、大阪大約108億円、神戸大約32億円に対し、府大・市大は計約23億円だ。
両大学は府・市の支援に期待する。リクルート進学総研の小林浩所長は「統合をゴールとすることなく、産学連携などで外部資金の獲得額を増やし、教育や研究を高度化する必要がある」と指摘する。