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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

原子力潜水艦・ディーゼル動力潜水艦・AIP潜水艦

2008-06-22 14:23:41 | 先端軍事テクノロジー

■原子力潜水艦の価格

 先日、原潜ってどのくらい高いの?という素朴な疑問を受けた。単純な質問ほど難しいというのは事実で、価格だけを応えるのではあまりに安直、さりとて比較も難しく、中々答えに窮してしまった。

Img_1267  原子力潜水艦の利点は、原子炉から供給される無制限の動力によりかなりの速力で機動できる点にある。通常動力潜水艦の場合、浮上してシュノーケルを水上に出し、ディーゼル機関を作動させ、バッテリーに充電しなければならない。荒天時に波がシュノーケルに被ると艦内の空気圧が急変し、乗員は苦痛に悩まされる。苦労して充電してもドイツの209型で100%充電状態で20ノット最大速力を発揮した場合1.5時間、30マイル移動しただけでバッテリーが上ってしまう。4.5ノットに速力を抑えた場合89時間の航行が可能であるが、これでは20ノット以上で航行する水上艦を攻撃するには待ち伏せ以外の方法が無い。

Img_1034  シュノーケルを水上に出して高速航行するという方法もあるが、シュノーケルというのは案外、レーダーに映りやすいものだ。原子力潜水艦の場合、こういった制約は無いが、原子炉を常時稼動させていることで、動力伝達系のギアが常時動き続けている為、水中騒音では原子力潜水艦の方が大きい、加えて水中を高速航行する場合、自艦からのノイズで艦首のソーナーの探知が限定され、更に水中騒音も大きい。

Img_9283  一長一短であるが、大洋で行動する場合は原子力潜水艦に利点が大きい。原潜も減速すればソーナーは当然使えるわけで、広い大海原で相手を探知するには行動力が必要となるからだ。そこで、今回の潜水艦建造価格という問題に移る。原子力潜水艦と通常動力潜水艦の価格差をある程度公正に比較するには同じ海軍で同時期に建造されている潜水艦の価格比較が必要となる。

Img_7484   1960年代に就役したスキップジャック級原子力潜水艦は水中排水量3513㌧で建造費が概ね4000万ドルであったが、同時期に建造された水中排水量2894㌧のバーベル級潜水艦(通常動力)の建造費は1900万ドルである。この価格差をみると排水量に対しての建造費を含めても原子力潜水艦は高価であるという説明には合点がいく。ディーゼル機関に対して原子力機関の価格は高いのだ。

Img_1016  しかしながら、90年代までの対潜任務(ASW)に関する技術が発展し、潜水艦そのものが数的勢力よりも、質的能力を高めなければ、早い話が戦場は弱肉強食、高性能潜水艦以外は対潜哨戒機や水上艦により無力化されてしまうことが明らかとなった(多かれ少なかれ昔からそうではあったが)。

Img_7510  その端的な事例がフォークランド紛争で、アルゼンチン海軍が運用する3隻の潜水艦のうち第二次大戦中の潜水艦を近代化した1隻は対潜ヘリにより撃沈されたが、比較的新しいドイツ製209型潜水艦2隻は探知されることなく、イギリス海軍の作戦行動において三分の一を対潜哨戒に強いることとなった旨が英軍から発表されている。結果、潜水艦は戦闘システムとしての先鋭化を強いられ、価格は上昇、結果、潜水艦全体の建造費に占める機関部の割合は相対的に低下し、原子力潜水艦と通常動力潜水艦の建造費は接近する傾向にある。

Img_0950  1980年代の段階で、アメリカ海軍は、原子力潜水艦が苦手とする浅海域での運用と、ソ連海軍がタンゴ級潜水艦に続き静粛性を向上させたキロ級潜水艦に対抗する観点から、通常動力のバーベル級潜水艦元に通常動力潜水艦を建造した場合の試算を行った際、1億9000万ドルという結論が出された。同時期のロサンゼルス級原子力潜水艦の建造費が2億2000万ドルであったので、確かに建造費では安価であるが、ということとなった。運用経費では原子力潜水艦が炉心交換などの定期整備が4~5年に一度16ヶ月間必要で、この費用が4500万ドル、対して通常動力潜水艦は3年に一度、9~10ヶ月の整備で費用は1600万ドルである。

Img_9047_1  原子力潜水艦、特に対潜任務や対水上攻撃にあたる攻撃型潜水艦は近年、イギリスのアスチュート級やアメリカのシーウルフ級、ヴァージニア級潜水艦は更に高性能化を目指し、多用途化と併せ水中排水量は7000~9000㌧に達しているため、原子力潜水艦が通常動力潜水艦とあまり価格差が変らない、という定義は過去のものとなっているが、通常動力潜水艦も、ディーゼル機関からAIP(非大気依存)方式の潜水艦に移行することで、価格は大幅に上昇しており、ドイツ製の209型潜水艦が水中排水量1200トンで2億ドル程度であったのに対して、AIP潜水艦である212A型は水中排水量1830トンで建造費は4億600万ドルに達している。

Img_7516  潜水艦の抑止力は非常に大きい。特に国境が海、という島嶼部国家や海洋国家にあっては、侵略は爆撃と着上陸。政治的な要求を呑ませるべく強制力を行使してくる対象に対して、潜水艦がその対象近海で活動している可能性というものは、相手に未知数の威圧をかける。前述のフォークランド紛争では、アルゼンチン海軍がフォークランド島を武力制圧した際、イギリス海軍の原潜コンカラーが、アルゼンチン海軍の巡洋艦ヘラルベルグラーノを撃沈した後、アルゼンチン海軍水上艦部隊は艦艇温存のために外洋での活動を停止、母港に帰港した事例がある。

Img_5947 潜水艦は原子力潜水艦がどの程度高価なのか、という話から随分違うところに来てしまったが、用途は異なるので一概には言えない。国際関係に際して利害対立は少なからずあるわけで、潜在的に武力攻撃を介してその問題を打破しようとする国は日本周辺には存在する(欧州ほど信頼醸成は進んでいない)。こうした中で、多少高くとも抑止力を維持することは大変なのだなあ、抑止力は均衡が容易ではなく、信頼醸成と抑止力、戦力均衡のバランスを以下に構築するかで係数は変ってくる、と手堅くまとめてみたりしたい。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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