北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

那覇基地F-15車輪脱落事案 旅客機40便運行への影響と周辺情勢緊迫化が及ぼす発着枠逼迫

2017-02-07 23:22:08 | 防衛・安全保障
■那覇は自衛隊最大の航空基地
 F-15DJ戦闘機の車輪が脱落し滑走路に立ち往生、この一件の事故が那覇空港を取り巻く幾つかの問題を顕在化させました、今回はこの点についてみてみましょう。

 那覇基地において1月31日に発生したF-15戦闘機車輪脱落事故、飛行訓練へ向かうF-15DJ戦闘機の車輪部分を機体へ接続する前輪支柱金属部が破損し、これにより支柱部分が地面へ接触する事故でした。この事故により那覇基地滑走路が閉鎖されまして、同時に滑走路を併用する那覇空港滑走路も閉鎖、旅客機40機が欠航し8400名に影響が出ました。

 この事故による緊急発進への影響は出ていません。こう言いますのも、航空自衛隊では有事の際に滑走路が破壊された場合、誘導路を利用し代替滑走路とする事が可能です。そして今回の滑走路脱輪事故では滑走路そのものは使用可能であった為、必要であれば滑走路の一部を利用し離陸する事が可能で、F-15戦闘機のエンジン出力は短距離滑走が可能です。

 旅客機への安全性についてですが、沖縄本島には普天間飛行場と嘉手納基地という巨大航空施設があります。海兵航空部隊の展開する普天間飛行場でも2700m滑走路を有しており、過去に那覇空港滑走路工事により滑走路を使用出来ない期間には嘉手納基地と普天間飛行場が代替滑走路と飛行場施設として用いた事例があり緊急着陸の備えに不備はありません。

 車輪脱落に関して、原因は自衛隊では究明中ですが、完全には判明していません。航空自衛隊は、定期的に超音波検査や打音検査を実施していますが、今回の脱落は予見する事が出来なかったようです。中国機による太平洋と南西諸島周辺での飛行増大を受け、那覇基地では自衛隊発足以来空前の規模での緊急発進が連続しており、最中の事案となりました。

 緊急発進が続発する中の訓練飛行へ向かう途上の脱落となりましたが、何故この時期に訓練を実施しているのか、と言いますと、実は航空自衛隊の任務は対領空侵犯措置任務だけではありません。これはあくまで平時の任務であり、逆に平時である為に緊急発進を受けた際に国籍不明機は領空侵犯などを断念し飛行経路を転換する訳です、しかし有事は違う。

 有事の際には航空自衛隊の任務は航空優勢維持により日本国土への航空攻撃を阻止する任務があり、平時は抑止が任務ですが有事には阻止が任務となる、この為には対航空機戦闘を展開する必要があり、この為に訓練を実施しなければならない訳です。そして、航空自衛隊全ての要撃部隊が緊急発進に備えると同時に並行し、有事への訓練を展開しています。

 何故脱落事案が発生したか、これは航空自衛隊の原因究明を待つ必要がありますが、F-15DJ戦闘機の老朽化が挙げられます。F-15戦闘機は段階近代化改修MSIPにより一部の期待は充分第一線の防空戦闘に対応する能力を維持していますが、電子部品とレーダー等の改修やデジタル化と新型ミサイルの搭載能力付与により、その作戦能力を維持している訳です。

 しかし航空自衛隊が初のF-15戦闘機を導入したのは1981年で、残念ながら機体部分は長期間の運用により老朽部分が徐々に出ているという点が否めません。こうした中で、前述のとおり歴史的な規模で対領空侵犯措置任務緊急発進が増大、戦闘機への負担は徐々に増しています。即座の影響はありませんが、メーカーへの定期整備間隔に影響が出ています。

 F-35戦闘機を新戦闘機として航空自衛隊は戦闘機の世代交代へ着手していますが、F-35戦闘機はF-15戦闘機よりも前の戦闘機、1959年に初飛行を果たし航空自衛隊へ144機が導入され、改良型が現役であるF-4EJ改戦闘機の後継機として導入されたもので、213機が調達されたF-15戦闘機後継機調達はまだ未着手で、F-15後継も今後の課題となりましょう。

 同時に、現在の戦闘機定数は280機です。この他に練習用の戦闘機が2個飛行隊有り、実際の戦闘機はもう少し多いのですが、航空自衛隊はソ連軍機が北海道周辺において活発に活動していた冷戦時代に350機の戦闘機を運用していました。現在の中国軍機の南西諸島での活動は冷戦時代の最盛期の件数に迫る規模、戦闘機増勢を考える時期かもしれません。

 中国軍機の活動は2000年代に入り急激に増大していますが、これは日中関係の悪化という理由ではなく、中国戦闘機の航続距離が増大した為です。中国空軍は1990年代までソ連が1950年代に開発したMiG-19戦闘機の改良型とコピー機を主力としていましたが、これは安価ではあるものの、戦闘行動半径が短く日本の南西諸島まで往復できなかったわけです。

 南西諸島周辺へ中国軍機が多数飛行するように奈多背景には、経済発展と共に1990年代に導入したソ連製Su-27戦闘機、この改良型とコピー機を大量生産する事が可能となり、Su-27はソ連が広大な領域を防空するべく長大な航続距離と高い空戦機動力を付与した機種である為、南西諸島まで充分に往復可能となる、こうして我が国へ手を伸ばした訳です。

 那覇空港の滑走路が閉鎖した部分に話題を戻しますと、那覇空港には滑走路が一本しかありません。沖縄本島の空の玄関口は現在那覇空港一箇所なのですが、この那覇空港が民間空港が運用すると共に、航空自衛隊の戦闘機部隊、海上自衛隊の哨戒機部隊、陸上自衛隊のヘリコプター部隊、海上保安庁の航空部隊も滑走路を併用しています、問題根底はここ。

 戦闘機部隊は冷戦時代に、沖縄へ飛行するのは中国機が飛行しようにも性能不足から、特に戦闘機は飛来できませんでした。しかし、アジア地域におけるアメリカ空軍の一大拠点であり、海兵隊の一大後方拠点であった沖縄へはソ連本土からの長距離偵察機や爆撃機の接近が多少あり、対領空侵犯措置へ一個飛行隊の戦闘機を航空自衛隊は配備していました。

 航空自衛隊の戦闘機部隊は冷戦時代末期には基本的に航空団を編成していました。航空団とは、戦闘機飛行隊二個を基幹として50機程度の戦闘機を装備している部隊なのですが、沖縄県だけは余り緊急発進の件数が多くなく、航空団を編成せず一個飛行隊を基幹とした航空隊を配置するだけで十分対応できたのですが、中国機接近の増大が状況を一変させる。

 那覇基地は現在第9航空団を配置していますが、これは緊急発進増大へ対応するべく第83航空隊へ飛行隊一個を本土から抽出し、航空団へ拡張した訳です。そして、ある意味当然ですが、南西諸島へ接近する中国軍の行動は戦闘機だけではありません、中国海軍のフリゲイトや駆逐艦、潜水艦の行動も増大し、海上自衛隊哨戒機部隊の任務も増え、結果的に自衛隊最大の航空基地となった訳です。

 中国軍の行動は同時に中国政府が沖縄県の一部を領有化宣言し、これに併せて軍用機の行動増大や、漁船団による領海侵犯、公船による領海侵犯を繰り返す緊張した状況となっており、那覇空港を拠点とする陸上自衛隊は従来、主として離島急患搬送任務に充てた第1混成団航空部隊を増強し第15旅団ヘリコプター隊へ拡大、この為の訓練飛行も増大した。

 公船による領海侵犯の恒常化は海上保安庁航空部隊による哨戒任務の回数を増大させます。ここに相次ぐ国籍不明機の接近がさらに緊迫化し、ミサイル爆撃機と戦闘機の編隊が数波に分け飛来する状況となったため、航空自衛隊は更に空飛ぶレーダーサイトとよばれるE-2C早期警戒機航空隊の那覇基地配備を実施、一本の滑走路は許容量一杯となった訳です。

 旅客機も増大しました。那覇空港は沖縄観光の拠点です。このため、羽田空港や伊丹空港からの定期便は元々多かったのですが、格安航空会社LCCの運行路線が増大し、航空貨物ターミナルへLCC専用ターミナルを建設しています。更に訪日観光客の増大により国際線旅客機の発着も増大しています。航空法では緊急発進が優先ですが、発着枠が足りません。

 那覇空港では沖合を埋め立て、第二滑走路の建設が推進中です。これは那覇市が前の市長、現在の県知事の時代から進めた発着枠増大への施策です。海上埋立により、沖合での二滑走路に瓶同時着陸も可能となり、羽田空港や岩国基地のように発着規模が増大する見込みで、これにより、例えば今回のような滑走路が閉塞する事案となった場合でも発着を維持する事が出来るでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (14)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【検証:JR北海道危機01】衝... | トップ | 【京都発幕間旅情】帝国ホテ... »
最新の画像もっと見る

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (軍事オタク)
2017-02-08 10:04:06
そうですね。
第2滑走路が待ち遠しいですよね。
でも第2滑走路だけでは不十分で、戦闘機用のシェルター用地の埋め立てや、南側からも第2滑走路に直ぐにアクセスできるようにしないといけませんよね。
陸自ヘリ部隊も辺野古へ移設して場所を空自に譲りましょう。
海自も嘉手納に移動するとさらに楽なんですがね。
もしくは海自は那覇で、空自が嘉手納ですね。
騒音問題とか嘉手納の地元が反発するでしょうね。
返信する
Unknown (ファッツ)
2017-02-08 18:44:16
そういえば琉球新報がこの件で那覇空港の完全民間化なんて無茶振りかまして県議会すら二案並行とは言え似たような決議出しててオイオイってなりましたな…。曰く現行のスクランブル増加で同様の事案が起きる可能性は高く沖縄の航空・観光需要の多大なリスクになるとか。そりゃ実現すれば滑走路増設終わった暁には日本有数の発着枠になりますがニュース見てないのかあんたらと。

まぁ、在沖メディアは海兵隊全面撤退させても嘉手納と関連施設があるから負担も抑止も問題無いと常々言うとおり嘉手納には甘いのでそっちに行けって事でしょうが広大とは言え忙しい空自が入る余裕なんてあるんですかね。
返信する
Unknown (ハリー)
2017-02-09 01:23:46
こんばんは
軍事オタク様ご指摘の通り、嘉手納基地は使えないのでしょうか。
三沢基地の様に日米共同基地になれば、那覇基地の過密問題、緊急体制も解決しそうですが…。あと、一時騒がれた下地島空港の基地構想は耳にしなくなりましたが、どうなったんでしょう…。
返信する
Unknown (PAN)
2017-02-10 08:56:14
ハリー様
横から失礼します。

嘉手納基地の共有化は、少々難しいんじゃなでしょうか?
まず、空自はおそらく世界でも有数の回数で頻繁に起こるアラート任務対応が第1です。常に臨戦態勢にあるといっても過言ではなく、嘉手納共有化では、アラート任務にも米空軍の任務にも、支障が出る可能性もあります。また米空軍も日本側に詳細を知らせたくない任務もあるでしょう。そのあたり、三沢とはかなり状況が異なると思います。
それと、沖縄本島の拠点として、嘉手納と那覇を分散しておくことも必須でしょう。

それと下地島空港は、前線に近すぎるため、あくまでも有事での前進基地としての役割になると思います。宮古に(おそらく下地島でしょうけど)陸自分遣隊の常設も構想されていますから、それと併せてなんらかの整備はなされると思いますが。
返信する
内陸に基地が欲しい (ハリー)
2017-02-12 22:11:16
PAN様
詳しい解説ありがとうございます。
嘉手納は難しいのですね。
こちらの、blogでもあったかと思うのですが、那覇基地は海に近くて、津波のリスクもあるかと。沖縄本島の内陸にもう1つ日本側の航空基地が欲しいと、愚考するところです。
返信する
嘉手納基地移転時には読谷補助飛行場再接収が必要 (はるな)
2017-02-14 21:46:12
軍事オタク 様 こんばんは

那覇基地、第二滑走路が焦眉の課題ですが、現在滑走路の反対側に配置されている県警や海上保安庁航空隊とあわせ、600m程度の補助滑走路を新設する必要があるのかな、と思います

ただ、嘉手納基地については、嘉手納基地は第18航空団と海軍航空隊により、かりに自衛隊を移転するとして発着枠の確保が難しく、更に嘉手納基地は有事の際に米軍の増援を引き受ける拠点でもありますから、もし嘉手納基地へ一部を移転する場合、返還された読谷補助飛行場跡地を再接収する、というような非常に困難な選択肢を採らざるを得なくなるのではないでしょうか
返信する
嘉手納に余裕がないからこその普天間移設問題 (はるな)
2017-02-14 21:52:50
ファッツ 様 どうもです

那覇空港の完全民有化となりますと、例えば旧海軍小禄飛行場部分を航空法上別飛行場化し、分割する、昔の浜松北基地と浜松南基地の方式が可能かもしれません、が、現実的ではありませんよね

嘉手納については上掲の通り、嘉手納の発着枠が一杯です。そもそも名護市のキャンプシュワブ飛行場造成工事も、嘉手納統合が発着枠から不可能、という事で新しい施設を建設している訳なのですから、仮に嘉手納に余裕があるならば、海兵航空部隊を統合してしまえば、これほど混乱を生みません、それが出来ないからこその大きな論議となっている訳です

海兵隊撤退については、これ、過去の記事に掲載しましたが、政府がアメリカの台湾関係法に準じ、台湾有事の際の米軍ポテンシャルに代え得る能力と法整備を構築したならば、実現する、という視点で物事を見ています、そもそも先の大戦がシーレーンを完全に喪失した事で追い込まれた部分が大きい訳ですので、これを直視し、周辺事態への関与度合いを元に海兵隊のポテンシャルを考えるべきだろう、と


返信する
沖縄国際空港の名護市建設案 (はるな)
2017-02-14 22:01:04
ハリー 様 こんばんは

嘉手納基地は、大規模有事の際に第18航空団だけで自衛隊第9航空団と協力し、中国軍のSu-27戦闘機400機と戦う訳ではなく、有事の際にグアム経由で大量の増援を受け、急速に防空能力を強化する策源地である訳ですから、その余裕を考えますと発着枠に余裕はありません

沖縄国際空港の名護市建設案、というものをこれまで記事として掲載していまして、”名護市へ新基地建設反対”という視点、”那覇第二滑走路建設賛成”、という視点から提案としまして”名護市に那覇空港代替の沖縄国際空港を建設する”、”海兵隊は那覇空港部分に移駐し日本の滑走路を日米共同で運用する”、という試案を出しています

下地島については、ミサイル脅威に対抗できません。中国は台湾戦を想定し2000発の短距離弾道弾を保有していますが、その射程は沖縄本島には及ばないものの下地島を含む先島諸島は全て射程内です。一方で中国は沖縄本島と本州西部に届く中距離弾道弾は400発しか保有していません

つまり、400発のミサイルで沖縄&九州&西日本の目標を叩く必要がありますので、基地1箇所当たりの負担は辛うじて迎撃を成り立たせる水準なのですが、下地島に基地を配置し戦闘機を展開させますと、2000発の弾道ミサイルに立ち向かう重厚な防空施設と那覇や千歳以上の基地施設が必要となってしまいます、これが現実的ではない、として常々、戦闘機部隊配置には反対しています

救難ヘリコプター部隊や陸上自衛隊ヘリコプター隊の分遣隊などは、配置されていてしかるべきですが、ね
返信する
嘉手納移転ならば拡張が必要 (はるな)
2017-02-14 22:07:15
PAN 様 どうもです

ご指摘の通り、嘉手納の発着枠を考えますと、自衛隊が移転する場合、嘉手納基地に第2滑走路を建設し、周辺地域に格納庫を増設するか、近傍の読谷補助飛行場跡地を再接収して自衛隊基地化するなど、新しい施策が必要になってしまうのですよね

そして更にご指摘の通り、一カ所に集中しますとミサイル攻撃で滑走路を破壊されただけで南西諸島全域の防空が麻痺しますので、分散する必要は大きいと思います
返信する
普天間飛行場跡地の広域防災基地化 (はるな)
2017-02-14 22:13:48
ハリー 様 重ねてどうもです

内陸の飛行場ですが、沖縄で最も海抜が高いのは海抜75mの普天間飛行場なのですよね、そこで八重山地震規模の地震を想定した普天間飛行場跡地の広域防災基地化、という選択肢があるのかな、と

理想的なものは普天間飛行場を自衛隊の普天間駐屯地、として、第15ヘリコプター隊を移駐する方式かな、と思います。これは米軍立川基地を返還後に立川駐屯地を建設し、首都直下型地震得備える立川広域防災基地を併設しました、第15ヘリコプター隊は急患輸送での実績が自衛隊で最も大きな部隊ですので、消防と警察及び海上保安庁の航空部隊を配置させ、防災資材を備蓄する、滑走路が2700mありますので災害時には大型貨物機を受け入れ救難物資の集積地として活用できますし、南海トラフ地震のような大規模災害への各国支援の受け入れ拠点としても、活用できるでしょう
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

防衛・安全保障」カテゴリの最新記事