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榛名防衛備忘録:米陸軍歩兵旅団戦闘団の重装備化,MPF軽戦車計画とJLTV装甲車,装輪自走砲

2021-03-16 20:19:16 | 防衛・安全保障
■自衛隊地域配備師団への参考
 自衛隊の装備体系が島嶼防衛へ地対艦ミサイルや中距離地対空誘導弾と特科部隊へ偏重してゆくところですが。

 陸上自衛隊の地域配備師団や旅団もせめてアメリカ陸軍の軽歩兵旅団戦闘団程度には重装備というものを考えて欲しい、特科連隊の方面特科連隊移管や戦車大隊の相次ぐ廃止の中で、こうした考えが前からありまして、これは主として歩兵旅団戦闘団を支援する航空旅団を含めて必要性を感じていたのですが、その歩兵旅団戦闘団、重装備化が始まるもよう。

 アメリカ陸軍は歩兵旅団戦闘団を大幅に近代化する方針で、陸上自衛隊としても配慮する部分があるようにも。アメリカ陸軍は2000年代以前、M-1戦車やM-2装甲戦闘車主体の重旅団戦闘団とハンヴィーにM-198榴弾砲主体の軽旅団戦闘団のみであり、軽旅団戦闘団は輸送機により迅速に緊急展開できる強みがありましたが、打撃力その他の問題があった。

 ストライカー旅団戦闘団、これはもともとその中間を担うミディアム旅団構想として特に1990年代に多発した地域紛争を背景に導入されたもので、ストライカー装甲車そのものは平凡な八輪装輪装甲車でしたが、諸兵科連合大隊として歩兵装甲車に機動砲と自走迫撃砲に自走対戦車ミサイルなど、戦闘団編成を標準編成としたのが革新的でした。これに対し。

 歩兵旅団戦闘団。しかし、2000年代にイラク治安作戦やアフガン安定化作戦、近年にはアフリカ地域や中東でのISIL掃討作戦といういわば低強度紛争への安定化任務が多発しますと、その防御力が、任務遂行能力の足かせ、となってゆくのですね。そこでMPF計画というアメリカ陸軍の軽戦車計画が発動します、MPFは機動防護火力という計画で進められた。

 MPFは30トン級装軌式車両に105mm砲塔を搭載したものでGDLS社が装甲戦闘車の車体に1105mm砲塔を搭載、この砲塔はM-1A2戦車最新型のSEP3砲塔技術を応用したものといいますが、ポーランドのPL-01試作軽戦車のような装甲戦闘車派生の機動砲として、もう一社、BAE社は懐かしいXM-8空挺戦車を原型とした改良型軽戦車を提案しています。

 JLTV,軽歩兵部隊の概念を一新する可能性があるのが、ハンヴィー後継の統合型軽量戦術車両です。ハンヴィーは装甲型のM-1114を含め治安作戦では簡易爆発物IEDにより甚大な被害が続出し、ウィドーメーカー未亡人製造機のような扱いとなっていました。なにしろIEDは152mm砲弾などを遠隔操作で路肩にて至近距離で爆発させるものの威力凄い。

 M-1114装甲ハンヴィーでさえも車内に致命的な損害が及ぶために緊急に開発されたのがMRAP耐爆車両ですが、応急的に、一年間で一万両というむちゃくちゃな需要に応える背景があったとはいえ、量産されたため、不整地突破能力などを殆ど有さず登攀力が非常に低いものも存在しました。ここで開発された装備がJLTVです。米軍は49000両を導入へ。

 L-ATV,新しいJLTVにはオシュコシ社製が選定されまして、こちらは四輪駆動という部分ではハンヴィーと共通点があるのですけれど車体重量6.4t、自衛隊の軽装甲機動車よりも五割ほど重くなっているのですね。基本的にアメリカ陸軍では歩兵用の装甲ハンヴィーをこのJLTVにより置き換えることとなり、実質歩兵旅団戦闘団は装甲旅団化されます。

 野砲については、歩兵旅団戦闘団は現在M-777超軽量榴弾砲を運用しています、これはUH-60により空輸できるほどに軽量となっていまして、イギリス設計でチタン合金などを多用した結果なのですが、山間部などでは空輸により様々な運用が可能となっています。砲身は39口径、世界の新主流52口径よりは短いですが軽量という点が重要なのでしょう。

 しかし、この点についても変革が到来する可能性があるのですね。アメリカ陸軍は将来野砲の研究用にスウェーデンよりアーチャー装輪自走榴弾砲を試験導入しました。既に秋にはアメリカ国内にて試験が開始されています。装輪自走榴弾砲といいますと自衛隊の19式装輪自走榴弾砲を思い出されるかもしれませんが、アーチャーは遙かに次元が違う装備だ。

 アーチャー装輪自走榴弾砲はスウェーデンが冷戦時代に26両のみ開発し全く輸出を検討しなかったバンドカノン自走榴弾砲、マガジン式で連射速度が世界一という155mm自走榴弾砲、その技術が応用されています。ただそのまま移植したのではなく、52口径に延伸していまして、自動装填装置とともに、防御力の高いボルボ製装甲トラックに搭載しています。

 99式自走榴弾砲の砲塔部分をそのまま装甲キャビンを有する重装輪回収車に搭載したもの、アーチャー自走榴弾砲というものはそうしたものでして、例えばフランスのカエサルシステム軽自走榴弾砲のような、砲架をトラックに搭載しただけ、という簡易自走砲とは訳が違います。これが、アメリカ陸軍の軽歩兵旅団戦闘団に装備される可能性があるのですね。

 自衛隊の地域配備師団はといえば、装甲防御力は戦車大隊の廃止により偵察隊と機動戦闘車中隊からなる偵察戦闘大隊が配備されますが、要するに一個師団に機動戦闘車が一個配備されるだけ。特科連隊は方面特科連隊に移管され、一応担当大隊が回される事となるのですが、一個師団に10門程度装輪自走砲が配備される程度、普通科に装甲車などはない。

 地域配備師団や旅団についても普通科連隊にせめて輸送防護車を高機動車の後継に大量配備するとか、特科火砲定数は300門なのだから地域配備師団も30門の特科隊を持続的に配備したとしても、方面特科の203mm自走榴弾砲が廃止されるのだから問題は無いだろうと思いますし、機動戦闘車も戦車中隊を残すか大隊規模で30両くらいは配備してはどうか、と思うのですよね。

 即応機動連隊の強力な装備、とされる装甲車体系も欧州の機械化歩兵部隊や諸兵科連合大隊と比較しますと平均的な機械化部隊に過ぎません。その上で現状の地域配備師団は、と云いますと厳しい状況です。しかし有事の際には本土防衛に戦え、という。それならば、最低でも第一線が納得できる装備を必要な数量揃える事が、最低限、政治の責任でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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Unknown (軍事オタク)
2021-03-17 15:06:42
陸自は
日本が島国で、かつ他国に遠征して戦うことを想定しておらず、また少ない予算の中15万人で回しているので、
第七機甲師団や北海道の部隊、即応機動連隊に集中して装備を集めているから他がえらく少ないのだと思います。
理想は軽装甲機動車を含んだ各種装甲車が4000両くらいは必要だと思います。
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装甲車両はバラバラでない方が良いかと (ドナルド)
2021-03-21 00:03:31
#以下では、陸自の全ての連隊を、機動連隊をやや増強した「4個歩兵中隊+2個機甲(or 偵察)中隊(戦車or機動戦闘車or軽装甲機動車)+重迫中隊+火器中隊+本部中隊」1000名編成にする前提で。。。。


陸自の装甲車両が少なすぎるのは、おっしゃる通り問題だと思います。

榴弾の空中炸裂が当たり前となり、30 mm 級の機関砲ですらエアバーストと称して空中炸裂する時代。ソフトスキン車で移動すると、ドローンで車列を発見されたら、数個の榴弾で、1個中隊が全滅です。路外行動力は最低限で良いので、歩兵は装甲車両に載せることが重要と思います。軽装甲機動車の拡大版でもいいし、そもそもコマツが開発に失敗した8輪装甲車も、あの車体・装甲のまま4輪として内部容積を少し増やせば、この目的に合致したでしょうに。。。

ただ、連隊の中の一部の中隊だけを装甲車化することには反対です。連隊としての機動ができなくなるので、全体を装甲車化することが重要です。

一方で、空挺部隊や空中機動部隊はもとより、山岳部隊でも、車両が軽いことに大きな価値がある場合があるので、ソフトスキン車だけで編成される軽歩兵部隊があっても良いと思います。この場合は2個偵察中隊だけ軽装甲機動車化し、残りは全てソフトスキンにすることで、「どこへでも自走で+ヘリ機動で一気に移動できる」軽量化を果たすことには価値があるでしょう。

理想は「重機械化連隊+装甲装輪車化+軽装部隊」を1:1:1程度にするのが良いかと思います。たとえば30個連帯なら、10+10+10 個連隊という意味です。

装備調達にコストが必要ですが、陸自兵力を大胆に削減して人件費を減らすのが一番良いと思います。若者がピーク時から半減している時代です。それでなくとも貴重な若者を、軍隊という非生産的な組織に採用する以上、訓練装備を充実させ損耗を防ぐことは最低限の常識と思います。訓練弾薬の大幅増加、ドローンの大量装備や通信の大幅改善(電波法改正含む)、戦場医療の大幅改善(医師法と薬事法の改正含む)、道交法の改正による装甲車の幅広化対応など、本気になればできるはずの「やるべきこと」は沢山あります。憲法改正議論にうつつを抜かす暇があったら、こうした本当に必要な改正をどんどん進めるべきです(憲法改正したって、これらの法律改正は別途必要なのですから)。

貴重な人材を、きちんと貴重に扱うべきでしょう。いつまでも1980年代の部隊編成で、兵士の命を軽視する装備訓練体系では、話になりません。お金がありませんも嘘なことがよくわかりました。V22?AAV7?お金があってもあんな使い方しかしないのです。

陸自として、陸自自身にイニシアチブで、人件費を自ら削って装備を増強する。これしかないのでは?
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Unknown (774)
2021-03-22 23:18:06
>ドナルドさん

確かに憲法改正には労力が必要ですが
電波法改正にしろ医師法と薬事法改正にしろ
バカげた神学論争の根拠が憲法9条ですから
(侵略の禁止自体は良いとして)憲法9条を直さないと
これから100年たっても何も変わりませんよ
返信する
Unknown (774)さま (ドナルド)
2021-03-23 22:58:45
ありがとうございます。

でも、有事法制はできましたよね。あれができたのであれば、電波法改正、医師法、薬事法改正は、遥かにイデオロギーの影響を受けないと思います。

単に防衛省が、強い官庁である総務省や医師会に負けているだけでは?言い換えると、憲法を変えてもこの力関係は変わらないと思います。

うーん、個人的には電波法、医師法、薬事法改正が出来ない程度の政治力なら、憲法改正は無理では?と思います。

異なる意見があるのも理解しますが、なんとなく、憲法を言い訳にサボっているだけな気がして、もどかしいです。
返信する
Unknown (774)
2021-03-24 01:39:58
>ドナルドさん

たとえば、2016年の自衛隊の医療行為の改正に
社民党の福島議員が猛反対した根拠は憲法9条(正確には日本流の平和主義)でしょうし
反対論で法改正に時間がかかりすぎた例としては
90年代の少年法の改正が上げられます
(マット死事件や石垣島の事件などが原因で)90年代中頃には少年法の不備が指摘されていたのに
日弁連の反対で少年法改正は2000年になってしまいました
返信する
Unknown (774)
2021-03-24 08:23:21
「福島みずほ、医療法改正、自衛隊、医療行為、質問注意書」で検索すると
当時の福島議員の質問注意書が出てくるのですが
あの程度の改革に猛反発していまして
仮に医療法を改正するとなると(ほかの野党を巻き込んで)反対するのは容易に想像でき
さらに言えば、電波法、道路交通法改正でも
同じように反対するのは目に見えています
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Unknown (774)
2021-03-24 11:25:42
質問注意書は2017年でしたね。失礼いたしました
返信する
ありがとうございます (ドナルド)
2021-03-24 22:19:27
でも、有事法制は通りました。やればできる。

また、何でも反対の社会党は、消滅しました。何でも反対の流れは消えつつあると思います。

憲法改正はイデオロギーの話ですし、イデオロギーで議論すべきことだと思います。だから揉めるのが正しい。改正案は10人十色であってよく、申し訳ありませんが、私の考える良い改正案とUnknown (774)の考える良い改正案が違っていても全く驚きません。どちらが良いかは、じっくりと議論すべきことであり、拙速に決めることでもないと思います。

が、医療法、電波法、道交法の改正は、国民の安全、自衛隊員=公務員の安全を守る話です。自衛隊の衛生兵(?)が麻酔を打てないのは、それが海外派遣でも、国内の防衛(例えばゲリコマ、あるいは島嶼不法上陸対応)でも同じで、隊員が命の危険に晒されます。

電波法も同じで、海外派遣でもそうですが、ゲリコマや、必ず来る大津波の時に、自衛隊の無線が通じやすいことが命に関わります。

#道路交通法は微妙ですね。実際には機動戦闘車が普通にやってますので、「幅2.5m問題」は防衛省の努力不足だったのかもしれないと思います。警察署の許可はどんどん出ている。

医療法や電波法の現状では、3.11以前の原発と同じです。「事故は絶対起こしてはいけない --> ならば避難訓練も必要ない」という、どう考えても論理的に間違いであり、人の命を軽視した意見がまかり通っていました。事故を起こさない決意は大変重要ですが、それが事故が起きたときの対策を全く考えないことの正当化に使われていました。小学生にもわかる、おかしな話です。

戦争も同じで、自国が平和を守って他国を侵略しないことはとても大事でしょう。しかし、そうすれば絶対に他国が侵略してこず戦争が絶対になくなるというのは、どう考えても論理的に間違いであり、人の命を軽視した意見です。原発の事故対策を考えると、事故が起こるわけでもありません。同じで、有事法制を考えると、戦争が起きるわけではないのです。

ぶっちゃけ、憲法を変えずに、これらの法制を変えるのでも問題ないと、私は思っています。憲法はゆっくり変えたって良いので。

まあ、個人の意見です。
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Unknown (774)
2021-03-25 06:53:03
有事法制を成立させた小泉内閣は凄く大変だったのでしょうね
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