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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南沙諸島問題緊迫!中国南シナ海行動の考察【1】 東部ウクライナ紛争・クリミア問題に続く危機

2016-02-27 22:05:22 | 国際・政治
■南沙諸島問題緊迫!
 中国の南シナ海における一連の軍事進出について、様々な識者が楽観論と悲観論を提示されていますが、当方は過去の事例から極めて厳しい状況へ展開する可能性があるのではないかと考えます。

 南シナ海全域を中国防空識別圏へ含めるとの危惧がありますが、将来的には日本の防衛と直結する問題となるでしょう。中国の対外政策は、アメリカとの軍事衝突を最大限慎重に避ける政策決定を採っていますが、基本的な国家戦略が西太平洋の自国排他的勢力圏下への編入であり、アメリカとの摩擦は最終的に回避できないという矛盾を調整しつつ対応しています。この中で中国の施策は同様にアメリカとの関係を重視しつつ最終的に対立を強いられる政策を採る点からロシアとの共通点を見て取る事が出来るでしょう。

 アメリカのオバマ大統領は2013年9月10日、テレビ演説において、「アメリカは世界の警察官ではない」と発言し大きな話題となりましたが、ロシアの対応は比較的早く自国周辺地域の安定化へ乗り出しました。2014年2月13日に勃発したウクライナ東部紛争と2014年2月27日の親ロシア派武装民兵クリミア占領と2014年3月16日のクリミアロシア連邦併合、と続き、東欧における冷戦構造が急速に再形成された事案がありました。予てより極東地域でのロシア軍演習頻度の冷戦後における増大は日本の防衛へも影響を及ぼしていますが、この際に欧米と日本は連携して経済制裁を開始、明確な対立構造が成立し今に足ります。

 2017年1月20日にオバマ大統領の任期は終了し、現在進められている大統領選挙を通じ選ばれた新しい大統領へ交代する事となりますが、中国政府は現在のアメリカが示す軍事力の安全保障への関与の度合いを低める施策に遅まきながら乗じて、2016年2月17日の西沙諸島への長距離地対空ミサイル部隊展開、2月23日における南沙諸島長距離レーダー部隊展開、2月25日の西沙諸島戦闘機部隊展開、と続きました。

 現在の南シナ海情勢ですが、場合によっては日本の防衛へも影響を及ぼす範囲まで急展開する危惧があります。アメリカ政府の外交はオバマ政権以降大きく揺らいでおり、幾つかの事例を挙げますと、2010年のマクリスタル駐アフガニスタン司令官事実上更迭事件を経てNATOを巻き込む大統領軍掌握文民統制疑義事案が発生、2011年にはリビア内戦介入問題でのオデッセイの夜明け作戦発動までの紆余曲折と地上軍不介入指針、2011年からのシリア内戦不介入問題とシリア化学兵器サリン使用問題への介入姿勢誇示と唐突な撤回、など。

 オバマ政権は大統領選当時から前のブッシュ政権時代のイラク戦争を批判しイラクとアフガニスタンからの撤退を明示していました、民主化以降途上で武装勢力が存在する地域あら撤退時期を明言すれば持久戦の耐久期限を明示するだけとして批判されましたが、イラクアフガニスタンからの無理な米軍撤退姿勢誇示による武装勢力跳梁とアルカイダ及びISIL台頭など、安全保障へ過去の大統領とは少々異なる政策をとっています。

 ロシアの対外政策を中国は数年程度遅れて踏襲している、根拠は対テロ戦争時代に際し中国政府は自国内での少数民族抑圧政策を、ロシアよりかなり遅れて対テロ戦争に位置付け正当化しました。2007年にロシアがアメリカの弾道ミサイル防衛システム東欧配備へ大きな反対を明示しましたが、中国政府は同時期に日本周辺でのミサイル防衛体制が構築されながらTHAADミサイルシステムへの明確な反対意志を明示したのは2013年に入ってからでした。

 中ロ両国を見ますと、中国の意思決定過程がロシアよりも複雑である為、合意形成へ即断が出来ない事から数年程度後を追って踏襲する、という現状に繋がるのではないでしょうか。無論、理論を単純化し過ぎている為定義が曖昧との反論はありましょうが、アメリカの掲げる自由と民主主義を基調とする国際公序に対し、海洋自由原則よりは地政学要素を重視している、また、民主主義と自由主義の相関関係では対立する要素が多く、ここから外交関係と対外政策において影響が生まれる部分では共通です。

 中国政府の統治機構は非常に複雑で中国共産党・国家機関・行政機関・中国人民解放軍、以上が四権分立構造を採っており、共産党の下に国家機構が置かれるという歪な統治機構の構造を採っています。共産党も中央委員会総書記を頂点とする機構ですが、実際の権力機能は中国共産党中央軍事委員会主席として人民解放軍の最高司令官に集約されている為、憲法上の軍国主義体制となっています。しかし、外交と国内政策は国務院総理の管轄であるため、意見集約等の政治システムが時間を要する構造という点が見て取れるでしょう。

 ロシア連邦政府は統治機構が国民主権に基づく大統領への行政権と外交権の集約が為されています。ロシア連邦大統領は国民による直接選挙により選ばれるため、国民に対し全責を負うと共に直接の指示を受けるという正統性と正当性を持ちます。この為権限が非常に大きく、政府要職の指名任免権と国家会議下院解散権、大統領令発布権限、議会可決法案の拒否権、全軍の指揮権、戒厳令非常事態宣言の発令権限、国民投票の実施権をもつなど権限が非常に大きい一方、意思決定を迅速に行えるのです。この意思決定への時間差が、現状に反映していると考えられるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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