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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:装甲車は何故必要なのか?:第九回・・・陣地攻撃装備の発達と情報優位

2015-02-19 23:08:14 | 日記
◆優位性故の対策発達
 装甲車による防御について、かつて陣地防御が優位だったからこその対策発達が、その転換を強いているといえるかもしれません。

 もう一つ、第一線歩兵は航空攻撃の脅威にさらされ、砲兵火力の精度は年々向上し特に1980年代からは機銃陣地などの火力拠点制圧へは対戦車ミサイルが運用されるようになり、前線火力は秘匿が特に需要となってゆきます。

 個人用掩体を標的とするようになっているほか、1980年代からは機銃陣地などの防塁へ対戦車ミサイルに拠る精密攻撃が行われるようになっています。1990年代後半にはテルミット化合物を用いたサーモバリック弾が歩兵に携行され、位置情報は無人機が暴露するようになりました。

 サーモバリック弾は歩兵用ロケットはもちろん小銃擲弾からも投射できる可搬性の高さと共に航空機より投射されるナパーム弾と同等の被害を及ぼすようになったため、可搬可能である第一線火力はより高まったわけです。これでは露出陣地の脆弱性は大きくなり、装甲車両を装備するか掩蔽陣地の急速構築へ技術革新を待たねばなりません。

もっとも、この装備は元々が洞窟陣地や市街地を防御拠点とした遊撃戦への対抗手段として構築されたものであるため、この種の装備が開発されたからこそ運動戦の必要性が生じたのではなく、陣地戦闘がこれまで有効であったからこそ、これを無力化するための用法が構築されたため、ともいえるところです。

 無人機は上記条件に加えて、掩蔽陣地のような陣地構築を行わなければ暴露した野戦陣地は容易に発見されるようになります。この無人機は滞空型で高高度から戦場監視を行うものがありますが、携帯式で人力投射により射出するものも広く配備されており、常に移動しなければ固定陣地では発見即弾巣、袋叩きとなるでしょう。

 陣地は暴露すれば非常に厳しい状況に追いやられるため秘匿が重要と記しましたが、無人機はこの秘匿の度合いをより高いものへと追いやっています。このため、迅速に構築できるならば地下化される掩蔽陣地などの優位性が高まるのですが、陣地変換等の制約はこの構築の時間的余裕を狭めました。

 情報優位が戦域優位につながるとの発想を元に発見した目標情報を迅速に共有化し部隊間により火力を投射し相互を補完する、という現代戦では、位置が容易に無人機が暴露し、陣地攻撃用の装備が発達、航空偵察と航空攻撃の機能が第一線歩兵の無人機や陣地攻撃兵器により代用も可能となったわけです。

 こうした意味から、装甲車両により機械化することは城壁や野戦築城の延長線上として意味があると共に、陳腐化した従来の防御戦闘隊形を無理に維持する場合、築城速度などの装甲車両とは別の技術革新を伴わない限り、人命や装備などへ非常に大きな損耗という代償を支払わされることとなります。このため、装甲車両の広範な装備は大きな意味があるのです。

北大路機関:はるな
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4 コメント

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Unknown (いつまでこのネタやるの?流石に飽きたわ。)
2015-02-19 23:58:50
とうとう九回目ですね、なんやかんやと口の悪いことを言ってしまいましたが毎日11時ごろに記事が上がるのを楽しみに待ってます。
返信する
Unknown (ドナルド)
2015-02-20 22:58:15
はるなさま

・サーモバリック弾の発達は、歩兵がこもる陣地にとってたしかに脅威が増大したことを意味しますね。

ただし、もともとロケット弾や無反動砲、さらには対戦車ミサイルで陣地を狙う話しもあるので、極端に脅威が増えたとは言えないではないでしょうか?

むしろ、最近はやりだした、誘導ロケット弾=簡易型のミサイルが、最大の脅威かと思います。


・次に、無人偵察機による位置の暴露ですが、これについては装甲車の方が人間一人よりも遥かに暴露しやすいという点は、いかがお考えでしょうか?特に、動く装甲車は盛大に赤外線を出すので、検知は容易です。

装甲車はサーモバリック弾では簡単には撃破されないでしょうが、誘導ロケット弾には耐えられない。こちらの脅威を重視すれば、「誘導ロケット弾+無人機が活躍する戦場では、装甲車は生き残れない」とも言えてしまいます。「サーモバリック弾+無人機が活躍する戦場では、歩兵は生き残れない」と同じです。

一方で、同じ問題は攻撃側にとっても顕著で、防御側としては、敵の突撃を援護している火力拠点や戦車/装甲車の制圧/撃破が、かなり容易になっています。


・「無人機の航空優勢」みたいなものが、結構大事になってくる感じですね。これはすなわち、情報優位をどちらが確保できるか、だと思います。無人機だけでなく、近隣の山頂を押さえられるかどうか、など、昔からある高所を押さえる戦略が、今も有効と思います。

街や森林の中であれば、無人機の偵察はその有効性を大幅に減じると思います。日本国内での防衛戦では、街と森がかなりあるので、そこではやはり「防御側有利」の体勢を維持できるのではないでしょうか。

開けた土地では、防御側の有利点は、すこし減るでしょうね。


・結局、「防衛戦の薄いところを狙って、機動し相手を包囲する(補給を断てば1-2日で陥落する)」という基本戦術が、今も有効に思います。そうなると、敵の榴弾砲激下でも機動できる「装甲車部隊」が、歩兵部隊の中に「一定数混ざっている」ことは重要かもしれません。(全数が装甲化する必要はないと思います)

その意味では、陸自の普通科連隊に、軽装甲車化中隊が、1個ずつ配備されている現状は、悪くないのか??


よくよく考えたいところですね。
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Unknown (ぬるねこ)
2015-02-21 22:06:23
ドナルド氏
装甲車の熱に関しては、PL01支援車両のように、サーマルカモフラージュの研究が行われていますから、『将来的』には(熱探知に限定で)人間よりも発見しにくい装甲車というのも現れるとは思いますよ


全数装甲は理想ではあっても、現実的ではないと私は考えます
例えば高機動車や3トン半トラックを今の重量のまま装甲化し、値段もせいぜい3割増し程度なら、手放しで賛成ですけど(まあ、兵器の新規開発は無駄だとか、今あるものを改造して使えと騒ぐ輩はいるでしょうけど)

ただ、その場合でも、装甲の重量の分だけ貨物を搭載した方がいいという意見もあるでしょうから、難しいところです(装甲分だけ貨物を積めるようにすれば補給がスムーズになり、戦術の幅が広がりますが、しかし、浸透してきた敵や国内の土台人達による破壊工作や待ち伏せを考慮すると、ある程度の装甲は欲しい)
返信する
Unknown (Unknown)
2015-02-23 22:20:06
ぬるねこさんが仰つてゐることは大変に興味深い。特に装甲化の必要性については概ね同意致します。
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