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小型戦術ヘリS97、朝雲新聞が特集 V-280と共に米次期ヘリコプター選定へ臨む

2015-02-03 01:05:28 | 先端軍事テクノロジー
◆自衛隊次期航空機体系への影響
 2日付の朝雲新聞が、アメリカのシコルスキー社製S-97複合ヘリコプターを”世界の新兵器”として紹介しました。

 陸上自衛隊は現在、UH-1多用途ヘリコプターの後継機を開発へ着手する方針ですが、アメリカは先に開発が発表されたV-280とS-97を先進的な可動翼機や複合ヘリコプターとして開発しており、多用途ヘリコプターや軽偵察ヘリコプターとして採用したのち、これを原型として攻撃ヘリコプター等への転用を視野に入れているもよう。

 V-280はUH-60の後継機を目指す可動翼機で、可動翼機には海兵隊のMV-22がすでに実用化されていますが、V-280は10名の兵員輸送とMV-22よりは小型で収容時の折畳機構などを簡略化し、取得費用をUH-60程度としたうえで整備性も向上させ普及を期しています。S-97はOH-58観測ヘリコプターの後継機を企図し、二重反転ローターと補助推進翼を以て高速飛行を目指しているとのこと。

 共に、米陸軍の共通ヘリコプター候補として開発されている機体ですので、米連邦政府歳出赤字強制削減措置の影響がこれ以上拡大しなければ、何れかの機体が選定されることとなりましょう。共に革新的航空機ですがV-280は既にV-22という実用機の開発経験から姿勢制御機構等の問題は参考点を見出せますし、S-97は原型となる実験機が1970年代から継続されており、見た目よりは技術的に開拓されているもの。

 自衛隊は米軍がこの種の装備を大量配備した場合、当然影響を受けるでしょう。S-97とV-280の共通点は共にUH-60と比較し高い戦闘行動半径と巡航速度を有する点で、仮に自衛隊が那覇駐屯地に配備した場合共に一時間以内に尖閣諸島や先島諸島に展開し、戦闘行動半径内であるため着上陸事案へ軽攻撃や強襲任務が可能となります。

 もちろん、米軍はUH-72という、本土の州兵用ヘリコプターUH-1後継として軽多用途ヘリコプターを開発し運用しています、陸上自衛隊のUH-Xは用途的にUH-72と同程度の用途を想定していますので、UH-Xの要求性能として考えられているUH-1と同程度のヘリコプターは十分実用的な範疇ですし、時期的に現在開発が始まるUH-Xに影響はあり得ません。

 ただ、複合ヘリコプターに近いものは我が国では富士重工が1960年代にHU-1.今のUH-1ですがHU-1Bを原型機として主翼を装着し高速飛行させる研究を行っていました、主翼は取り外されましたがその機体は一部が群馬県内の博物館で展示されていまして、この種の技術に我が国も無関心だったわけではないのですが。

 さて、同盟国の米軍がこの種の複合ヘリコプターか可動翼機により進出速度と行動半径を増大させる訳ですから、特に草創期からヘリコプターの運用を重視し、寧ろ陸上自衛隊の装甲車不足はヘリコプターへ予算をふりわけすぎたからではないかというほどの現状を鑑みれば、同等の機体取得が検討されるのはある種当然ともいえる。

 この場合ですが、もちろん航続距離の延伸と進出速度の向上は広大な南西諸島を筆頭に我が国の長い地形を舞台とする防衛には非常に理想的な装備ではありますが、方面隊や師団の位置づけを大きく転換する可能性を秘めている、という視点は考えられるかもしれないでしょう。

 UH-1の後継機としてUH-60を一時導入したのですが結局は並行調達となり、今に至るのは広く知られているところですが、UH-1の戦闘行動半径を見ますとほぼ方面隊管区内の飛行、西部方面隊管区の南西諸島と東部方面隊管区の小笠原諸島は少々広大すぎますが、これを例外とすれば管内に収まっています。

 戦術的な必要性、協同運用上の必要性から自衛隊がS-97やV-280に同等の航空機を導入した場合、2030年代の話として、方面隊の管区を大きく超えて行動半径を得る事となります。これこそ統合機動防衛力、自衛隊の求める方面隊管区を越えた運用、と言えばそれまでですが、他方で航空装備の高性能化が、方面隊管区の在り方そのものを転換させる端緒ともなり得るかもしれませんね。

北大路機関:はるな
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コメント (2)
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