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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:装甲車は何故必要なのか?:第十回・・・大規模正面戦闘想定を超えて

2015-02-24 22:29:10 | 防衛・安全保障
◆装甲車は何故必要なのか
 1月27日に作成しました記事を長々と掲載してきましたが、一応の最終回とします。

 今回示しました野戦築城の発展型としての装甲車の重要性と陣地の発展は、師団規模の戦闘を念頭としたもの であり、治安作戦等が主体となる対テロ戦争は念頭としていません、掩蔽陣地へ戦車が突入するという第二次大戦型戦闘の発展形である、大規模紛争を念頭としたものであり、先に記したようにMRAP耐爆車両のようなものとは応用しません。

 しかし、この技術が一般化する頃には東西冷戦が終結しており、師団規模の機械化部隊同士の激突や師団規模の防御陣地への機甲師団の攻撃、という状況は生起しにくくなっています。実際、機甲師団同士の戦車戦は湾岸戦争やイラク戦争、ユーゴスラビア紛争の嵐作戦等限られており、滅多に生起しません。
 
 2010年代に入り、可能性としては東欧地域においてロシア軍の強硬手段へNATOが確たる対応を行うならば、機甲師団同士が牽制するという状況は軍事的に有り得るものの、これよりは非正規戦や治安作戦、テロとの戦い、と呼称される戦闘様式が大勢を占めるように転換しているのは御承知の通り。

 皮肉な話ですが、この転換が装甲車両に拠らない伝統的な掩蔽陣地の価値を再認識させることとなります。即ち、治安作戦や対テロ作戦では多くの場合、正規軍と武装勢力という構図となり、正規軍は機械化部隊を有していますが、武装勢力は装甲車などの重装備を運用出来ません、これを支える航空部隊との三次元戦闘が出来ないためです。

 南レバノン戦争やガザ侵攻等、機甲旅団が投入される地域紛争では、一方が機甲部隊を有していてももう一方は機甲部隊を有していません。すると、市街地の建築物を管制地雷と地下トンネルで結ぶ掩蔽陣地とし、機甲部隊の打撃力を相殺し限られた装備で抗戦する様式が確立します。

 他方、イラク治安作戦やアフガニスタン治安作戦では、陣地という概念は個人用掩体を中心とした待ち伏せ攻撃が基本となります。これは武装勢力の基盤が大きくない地域、時間を掛けた陣地港如くでは住民に通報されてしまい待ち伏せが成り立たない、という点もあるのでしょう。

 もっとも、この種の戦闘では市街地を掩蔽陣地のように運用する場合、反撃により還付無き状況まで破壊、戦闘により荒廃することになるのですから、住民は戦闘により成功不成功を問わず確実に家屋という財産を失う状況を強いられる、そんな状況では流石に支持を集める事は出来ないでしょうが、ね。

 更に治安作戦では攪乱射撃というべき、大規模基地への迫撃砲射撃や車両による自爆攻撃が行われ、武装勢力は遊撃戦を多用するため、警備拠点を複数設置する必要が生じ、この中の小規模な警備拠点へ大規模攻撃が加えられるなどの状況が生起するため、治安部隊も陣地に立て籠もり防戦する必要が生じました。

 しかし、これも装甲車を陣地が不要とする状況下と言えばむしろ逆の状況であり、掩蔽陣地を含めた永久陣地を構築しようとも、治安作戦では、例えば数百kmの要塞線を構築して敵の行動を完全に遮断する大胆な運用を除けば代替とはなり得ません、あくまで車両の整備と補給の拠点でありこの拠点を攻撃している構図だからです。

 装甲車は、機甲師団などに対する防御と運動戦の中枢としての機械化歩兵主力という用途は、考えられるものの蓋然性は低くなり、逆に武装勢力の待ち伏せ攻撃からの第一撃を生存しての反撃等、治安作戦へ対処する用途が広くなりました。更に治安作戦は防御範囲が攻撃我側が自由に設定できる状況を生んでいる、ともいえるところ。

 この状況は、治安作戦の巡回任務は巡回区域を全て陣地防御すれば警戒すべき状況は発生し得ないのではありますが、それだけの広範囲を陣地防御する事は出来なくなる事を意味しているのであり、師団規模の正面戦闘以外の面での、つまり新しい時代での機動防御の一形態、攻勢要素も大きいですが、含んでいるとも言えるでしょう。

 以上の通り、陸上戦闘の隊形は運動戦が基本となったため、車両化が不可欠となりました、そして車両化しただけでは脆弱性が生じるため、可能な範囲内での防御力が付与されています、更に陣地防御の概念と機動防御の概念において全車に対する対抗手段は着実に発展しているため、降車の方も対抗手段が構築されながら、まだ発展の要素があり、結果、陸上戦闘において防御の面で装甲車は無くてはならない位置づけを有しているわけです。

北大路機関:はるな
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