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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

次期水陸両用車へAAV-7決定!今後の陸上自衛隊装備体系への影響

2014-12-02 23:57:48 | 防衛・安全保障
◆装軌式装甲車再評価成るか 
 防衛省は本日、選定中の新水陸両用車について参考品を導入し検証しているAAV-7の制式化を発表しました。

 AAV-7の導入決定が、今後の自衛隊装甲車両体系にどのような影響を及ぼすのか、特に装輪式装甲車と装軌式装甲車への影響について、今回は少しだけ考えてみる事としましょう。自衛隊は、1990年代までは基本的に装甲車と言えば無限軌道を利用して高い不整地突破能力を持つ装軌式を重要視し、戦車に随伴し機動打撃を行う運用体系を整備してきています。

 併せて陸上自衛隊は、空中機動を1960年代初頭より丹念に研究し装備体系を整え、早い時期にV-107輸送ヘリコプターを導入、当時のV-107は最新鋭のF-104戦闘機と同額という非常に高い装備ではありますが数を揃え、一時期は陸上自衛隊航空集団構想として1000機航空機体系整備やV-107型600機体制等を模索、石油危機に伴う財政難がこれを頓挫させましたが、CH-47Jへの代替や対戦車ヘリコプターAH-1Sの大量導入など、空中機動を重視してきたのは装備体系が示す通り。

 しかし、転換は1990年代の国際平和維持活動への本格参加が向上したことで訪れ、重装備部隊と空中機動の支援を受けやすい軽装備部隊の混成、着上陸脅威を最も受ける北海道に重装備を置き本州に軽装備部隊を置き空中機動の支援を受けるという運用体系は、軽装備では国際平和維持活動における突発事態に対処できず、重装備では大げさすぎる、として軽装甲車両の導入という需要が生まれました。

 こうして陸上自衛隊は装輪装甲車へ装甲車両体系を大きく転換すると共に北海道のみならず本州へも装甲車両の大々的な配備を開始、以前は戦車大隊本部などに10両程度、その他は一部の指揮通信車両に装甲車両を有している程度でしたが、全国の普通科連隊に1個中隊は軽装甲高機動車が配備され、装甲車両が普及することとなっています。

 一方で、北海道の部隊は元々配置されていた四個師団の各一個の装甲化普通科連隊を有しており、装甲車両の整備を念頭とした整備補給体系を構築してきたのですが、本州の普通科部隊は地形を利用し第一線までの連絡線をトラックで展開したうえで地形を利用し行動するという原則の下、装甲車両への整備補給能力は充分持っていません。

 従って、北海道は一部の高射機関砲や通信車両さえも装甲化されているため、走行車の整備は元々耐えるだけの整備能力の余裕が盛り込まれているのですが、本州以南の部隊は軽装甲機動車さえも少々手に余るようで、使い勝手については高機動車の方が遙かに好まれている、とのこと。

 実際問題、本州の地形では戦車でさえも普通科部隊と不意遭遇すれば撃破されることが多く、普通科部隊のキルゾーンに誘い込まれた場合過酷な運命が待っているとのことです。熱線暗視装置等は隠れた伏兵を容易に発見できるのですが、山一つ二つが連なる地形に対戦車班が秘匿陣地を構築している場合等、高速で前進する戦車からは発見は困難とのことで、レーザーを用いたバトラー訓練では最大の難敵となるのだとか。

 しかし、普通科が重宝する対戦車ミサイルは藪や小枝で近接信管が作動してしまうため戦車への見通し線が確保されていなければ十分な機能を発揮できず、対歩兵用のサーモバリック弾のような面制圧装備が着実に開発されているため、軽装備では十分な生存性を確保する事は出来ません。

 こうなりますと、好むと好まざるとに関わらず、装甲車両による機動戦を展開し、陣地などの運用と装甲車両の機動戦を両立させる運用を行わなければ、有事の際に大打撃を被る事は間違いなく、加えて情報RMAというネットワーク戦時代の到来とともに少数部隊の集合分散の迅速化がさらに進み運動戦の概要は変化しており、此処を守れば後方は絶対安全、という緊要地形が少数分散部隊の間道の打通が多方面で展開されることで瓦解する危険性がある。

 結果的に、運動戦を緊要地形確保によりキルゾーンに敵機動運用部隊を誘致し撃破する体系は難しく、1990年代に自衛隊は内陸誘致戦術という海岸を経て内陸部から主要都市に向かう地形上で撃破する冷戦時代の方式を放棄し、水際撃破という主力の撃破へ方針を転換しています。この転換からも運動戦を展開する機動打撃力の整備が必要でした。

 すると、本州部隊の軽装備部隊の軽装甲部隊への転換は、北海道の師団程の機動打撃力は持たないものの、最小限度の機動打撃力を整備しうる、という意味で、装甲車両体系の軽量への転換と普及への転換は意味があったのですが、もう一つの問題が。

 軽装甲車両は軽量で路上進出速度が大きいのですが、装軌車両と比べれば不整地突破能力がどうしても落ち、これは普及させるために構造が単純な分取得費用と維持費用が低いこともあげられるのですが、泥濘や傾斜地などでの運用に制限が付きました。民間でもブルドーザー等不整地を走破する車両はコストが高くとも無限軌道式が多い点と同じです、踏破できない、そして自衛隊の装甲車の場合戦車に随伴できない。

 もともと高い整備能力が求められる部隊には十分な整備基盤があります、これは北海道も本州も関係ありません。実際問題、航空部隊等は機材は北海道も本州も同じですが、整備能力の差異という部分での問題が生じていないことから端的に読み取る事が出来るでしょう。

 こうして、装甲車両は、普通科部隊としては高機動車が一番手堅くさらに整備性が良い、という認識がある中、ここに新たに装軌式装甲車、89式装甲戦闘車の増備やCV-90にASCODといった海外装備を装備させることは、整備能力と補給能力に限界があります。このまま装軌車両は淘汰されるのか、というところ。

 実際問題、装甲車両はNBC偵察車に機動戦闘車と近年装輪式が基本であり、新装甲車も装輪装甲車、榴弾砲は火力戦闘車としてやはり装輪式へ転換しています。しかし、戦車に随伴することは技術進歩を以てしても面で接する装軌式車両と点で接する装輪式車両とでは越えられない壁があるのも確か。そして地形防御に依拠することはサーモバリック弾頭の標的を供するようなものです。

 ここに今回のAAV-7の導入という転換点が出てきたわけです。配備部隊は水陸機動団、現在の西部方面普通科連隊の増強改編後の部隊に集中配備されることとなるようですが、現在西部方面普通科連隊の車両は高機動車であり、ここに整備機能基盤を構築することとなります。そしてAAV-7は水陸両用車ですが列記とした装軌式装甲車、米海兵隊などはイラク戦争にて装甲車両として長距離機動打撃に供していて、89式装甲戦闘車以来の装軌式装甲車となりました。

 今後、自衛隊は戦車を大幅に縮小する戦車300両体制へ転換してゆきますが、その不足分を普通科部隊が機動打撃力の一部を担わなければならなくなります。戦車の縮小は予算の振り分けへの方便、と考えれば、予算捻出は容易ではありませんが、少ない戦車を補完できる機動運用に適した装甲車両の重要性はますます増大することは間違いないでしょう。

 しかし、日本が専守防衛を国是とする限り、第一撃を受けての自衛権行使を発動することとなる訳であり、結果的に国土に食い込むのを待って押し返さねばなりません。結果、機動打撃の重要性は海洋国家であっても島国であっても不変であり、戦車に随伴できない現在の軽装甲車両体系は問題ともいえます。AAV-7の導入が鏑矢となり、MV-22等水陸機動作戦用の高い装備品の導入と運用体系構築がひと段落したのち、装甲車両体系へ装軌式装甲車の再評価が行われることを期待したいですね。

北大路機関:はるな
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コメント (2)
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