北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

策源地攻撃論に関する一考察 無人機は作戦機に含まれるか

2009-05-26 23:41:45 | 先端軍事テクノロジー

◆防衛大綱上の制約

 自民党において、策源地攻撃能力の付与を年末に制定される新防衛大綱に盛り込むかの議論がされているさなか、北朝鮮が核実験を強行し、その後散発的に短距離ミサイル試験を実施、日本の防衛力強化を強いる行動に出ている。

Img_7051  さて、策源地攻撃というと、筆頭に思い浮かぶのはF-2飛行隊に500ポンド爆弾やJDAM,クラスター爆弾を搭載し、ミサイル発射装置を虱潰しに撃破することだが、航空攻撃によるミサイルの無力化の難しさは、偽装や囮構造物により事実上任務達成に至らなかった湾岸戦争の事例や、加えて、航空自衛隊は、飛行隊の大半が要撃飛行隊で、要撃任務とともに対艦攻撃、付随的に近接航空支援を行う支援戦闘機による飛行隊が3個、という状況で、策源地攻撃任務にあたるには、F-2飛行隊を少なくとも五個飛行隊程度増勢しなくては、どうにもならない。これは基地面積や予算的、防衛大綱に明記された作戦機の上限からして、難しい。

Img_9654_2  策源地攻撃の手段として、ここ数日間マスコミをにぎわせているのが、自民党北朝鮮ミサイル核問題合同部会でも提示されたトマホーク巡航ミサイルの導入である。イージス艦や、むらさめ型、たかなみ型護衛艦のVLSに搭載することは可能で、強力な対地攻撃能力であるのだが、目標であるノドンミサイルの数量から考えると、最低でも数百発のトマホークが必要で、しかも、目標の位置、移動式ミサイル発射装置を如何にして発見し、座標データをトマホークに送信するか、解決しなくてはならない問題も多い。また、数百発のトマホークをどのようにして、イージス艦による弾道ミサイル防衛任務と運搬手段とを両立させるか、課題はあまりにも多い。

Img_7352_1  F-2では、目標の発見が難しく、トマホークでも戦果確認を含め難しい。いっそのこと、AH-64Dアパッチロングボウの配備を再開し、第1空挺団と第1ヘリコプター団を協同させて、ミサイル設備をヘリボーンで叩きつぶしては、とも思ったが、これも朝鮮半島へヘリボーン部隊を展開し、作戦任務を完遂するまで継続して後方支援を展開する、というのは、余り現実的ではないように思う。なによりも、この手段では、地上部隊を送ることになるので、当然地上戦を含むものとなってしまい、これは必然的に、日本側において人的被害が生じる、ということを覚悟しなくてはならない。

Img_4737  トマホークや航空攻撃では、一撃ですべてを撃破することは難しく、撃ち漏らしたノドンミサイルは、当然反撃のために使われるので、確実を期せば地上部隊侵攻ということが求められる。例えばヒズボラのロケット弾攻撃に手を焼いたイスラエル軍は、戦車を中心とした地上軍を越境させ、発射設備を文字通り踏みつぶして策源地攻撃としたが、陸上自衛隊が北朝鮮にミサイル設備破壊のために大規模地上部隊を侵攻させる、というのは、方法としては確実だが、あまりにも現実離れしており、極端な話、架空戦記でもシュミュレーション小説でも、そういった話はまだ発売されていない。

Img_9749  人的被害を避け、しかも、索敵と攻撃を同時に行い、防衛大綱の定数に囚われない装備となると、思い浮かぶのは無人機である。現在、技術研究本部では、“無人機システムの研究”として、航空機から発進し、任務完了後自力で基地へ帰還できる無人機を試験中で、昨年、岐阜基地航空祭で一般に公開された。そのスペックは、全長5.2㍍、全幅2.5㍍、重量0.75㌧。滞空時間などは公表されていないが、ジェットエンジンとアスペクト比の小さな主翼など、滞空時間よりも高速性を追求した機体であるということが見て取れる。

Img_9787  他方、現在、米空軍で配備中の新型無人機MQ-9は、全長11㍍、全幅20㍍と大型。エンジンはプロペラ式のターボプロップエンジンで、巡航速度こそ300km/h前後と、ヘリより速い程度ではあるが、航続距離は5900km、滞空時間は最大で28時間に達し、APY-8レーダーを搭載している。MQ-9がRQ-1等、これまでの無人偵察機と比較した場合、最大の相違点は、無人攻撃機としての任務に対応していることで、レーザー誘導爆弾、ヘルファイヤー対戦車ミサイル、サイドワインダー空対空ミサイルなどを運用することが可能で、ペイロードは1.7㌧に達する。なお、航空機から発信する技本の無人機とは異なり、基地からの離発着により運用する。

Img_9747  MQ-9は、昨年、F-16を運用する第174戦闘飛行隊に配備され、F-16と入れ替わる形で、MQ-9飛行隊に改編された。無人機による飛行隊は稀有であり、戦闘飛行隊が無人機により編成されるというのは、米空軍史上、そしておそらく世界空軍史上初のことではないかと思われる。MQ-9は既にアフガニスタンやイラクにおいて実任務にあたっており、アフガニスタンでは戦闘任務に際して攻撃を成功させている。また、偵察任務を想定し、APY-8レーダーに加え各種センサーを搭載していることから、索敵と攻撃まで完結した任務を遂行可能であり、運用高度は7500㍍とされているため、高射機関砲や携帯式SAMの脅威外を飛行する。

Img_8727  MQ-9は無人機で、サイドワインダーを搭載しているとはいえ、戦闘機を相手とした空対空はリスクが大きいが、航空優勢確保であれば、既存の航空自衛隊に配備されているF-15JやF-2によって遂行することが可能である。他方で、現在の防衛大綱では、作戦機に無人機を含めるという明確な規定がなく、現時点で技術研究本部が開発中の機体について、その定数に含めるべきという議論は為されていないようだ。付け加えるならば、無人機であるため、策源地攻撃に際して、例えば航空機が撃墜され、人的被害が生じるというリスクを回避することが出来る。

Img_2818  人的被害を回避できるというのは重要である。仮に支援戦闘機が策源地攻撃任務にあたる途中、撃墜された場合、航空救難団が北朝鮮に救難ヘリコプターを派遣し救出するというのは、あまりにリスクが大きい。したがって、米軍のように、特殊作戦機を整備し、越境救出作戦のための特殊部隊を準備し、展開・待機させる必要がある。しかしながら、無人機の場合、もちろん、機体が回収されることで機密情報が流出しないよう、最大限の手段を取る必要はあるものの、救出作戦という大きなリスクを取らず済むことが出来る。これも無人機ならではの利点といえよう。

Img_6858_1  また、トマホークミサイルでは索敵を行う事が出来ず、戦果確認、目標の無力化も確認出来ないが、MQ-9のような無人偵察機により攻撃を加えるならば、確認を行った後、任務に当たることが出来る。

 もちろん、MQ-9のような無人機は防衛大綱の作戦機上限に抵触せず、配備することはできるかもしれないが、複数飛行隊分を配備、運用、整備などのコストは大きく、加えて大型の無人機を日本国内で運用する場合、現行の航空法との兼ね合いも問題になる。しかしながら、利点は以上のようにある訳で、一考察として今回、掲載してみた次第。

HARUNA

[本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる]

コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする