生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(182)三度目の日本

2020年10月14日 11時12分34秒 | メタエンジニアの眼
三度目の日本
書籍名;「団塊の後」[2017]
著者;堺屋太一 発行所;毎日新聞出版
発行日;2017.4.30
初回作成日;R2.10.13 最終改定日;
引用先;メタエンジニアリング



 このシリーズは文化の文明化考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です

 だいぶ前に読んだ本なのだが、菅総理の所信表明演説を聞いて、俄かに思い出した。堺屋太一の著書は随分と読ませてもらった。中でも「東大講義録」は、内部経済の外部化を阻止するのが、通産官僚の第1の仕事と書いてあり、大学院の授業で毎年使わせてもらうことにしている。
 読み返してみると、この著書は彼の遺言のように思えてきたので、改めてまとめてみることにした。
副題の「三度目の日本」は、明治維新と太平洋戦争後の日本に続けて、三度目の日本を本気で作らなければならないという、彼の年来の主張を、新総理になった人の口を通じて、細かく述べている。
 
冒頭は、「身の丈の国」と称して、総理と数人の取り巻きの「新春施政講話」で始まる。本全体を通しては、この時の話題を中心に、約30人の登場人物が、色々な意見を言い合う。つまりアメリカ大統領選ではやりのデイベートになっている。経済産業省の官僚がメインだが、大阪都知事(昨日、再投票が始まったが、新聞記事では、大阪市以外からの否定的なアンケート結果が報じられていた)、TVと新聞記者、財務大臣などになっている。
 
この新総理大臣は、「均衡財政派の若き旗手」として名を挙げて、自民から独立した小政党から選ばれた、かつての細川総理を思わせる。
 第1の日本は、西南戦争後の青春期で、第1次産業革命を達成して、軍事大国になった。しかし、第1次世界大戦後に世界が大きく変革したのに、日本は置いてきぼりになった。『世界の変化には学ばなかったんです』(pp.32)とある。
『重化学工業を興したり、アジアに進出して市場を広げたりしたけれど、モトのシステム改革はできなかったんです。』(pp.32)というわけだ。
 
つまり、明治の延長のままで、官僚主導で全てが動いていた、というわけである。『権限を分け合う官僚の無責任定見による失敗やったんですね。』(pp.33)この間に欧米も失敗をしたが、それは独裁者の失敗だったので、失敗の原因が、直ちに明らかになったが、官僚機構の失敗は責任の所在すら不明確のままになったということなのだろう。
 敗戦後の日本も、基本的には同じ道を辿っている。『モトを変えなんとあかんというてます。徳永総理の「思い切った改革」程度ではあかんと・・・。』(pp.34)著者が、特に言いたいことは大阪弁になっているのが、彼らしい。
 戦後の日本は、団塊の後でも『3Yない』の世の中と断言している。『欲ない、夢ない、やる気ないの3Yないですね。』(pp.35)つまり、官僚主導のままでは、安全・安心・安定ばかりが行き過ぎるというわけだ。
 そこから、大阪都知事が発言をする。『三度目の日本を造るのには、日本の中で新しいやり様をはじめて新しい仕組みを創り、新しい倫理を育てないとあきません。』(pp.36)
 
「新しい倫理」については、具体的な記述が見当たらない。しかし、私は常々「日本人の伝統的な倫理」が、いかにも現代のグローバリズムに合わないように感じている。それは「和をもって貴しとする、から発する、すべての議論を曖昧なままにして先送りするのが、和の基」という倫理だ。
 そこから、色々な手段が色々な人の口から述べられる。主たるものは、「第4次産業革命を徹底して遂行しなければならない、規格大量生産に縛られていては、世界文明に遅れる、というもので、最後には「文明史観」に行き着く。
 『文明の流れは変わっていました。十年前、アメリカやドイツは、・・・』(pp.263)
 
最後に、このTV中継は徳永総理の次の発言で終わっている。
 『「私が、日本を二都二道八州に分け、それぞれが独自の発想と手法で理想を追求できる体制と実カを与える必要があると考えるのは、このような思考からであります。過ぎし規格大量生童の時代には、全国民の純粋さ、つまり統一された価値観が役に立ちました。
だがソフトウェアは、四十年も前のことです。多種多様な製品を知時間で安価に提供する第4次産業革命の時代には、国も多様性と変化可能な柔軟性を持つ必要があります。常に異なる仕組みと仕掛けからの挑戦を意織する『柔らかな仕組み』が良いのではないか。みんなで考えよう、当たった者の仕組みの真似をしよう、そしたら日本は必ず先頭に立てる―私はそう考えます」
徳永好伸総理大臣は、そう呼び掛けで高い位置にあるテレビカメラを脱んだ。
「国民のみなさん、議員のみなさん、そして官僚のみなさん。この天国、現状の日本から飛び出しましょう。この天国は、時と共に冷えるぬるま湯なのです。是非ともそのことを御理解頂き、今国会で私ども徳永内閣の提案した「三面改革」に御賛同頂きたいものです」
徳永総理は、長い演説をそう結んだ。 一瞬、議場は静まり返り、やがて大きな拍手に包まれた。』(pp.264-265)
 
かなりの理想論で、日本では実現しそうにない。しかし、超現実主義者の著者の言葉なので、それなりの価値はあると思われる。三度目の日本のために、菅内閣は何ができるのだろうか。デジタル化は、目標値さえ見えてこない。