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生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学研究所レポート  No.392

2024年10月27日 07時11分04秒 | その場考学研究所レポート
その場考学研究所レポート  No.392 2024.10.28 その場考学研究所  

 定年退職後の11年間は、どっぷりとメタエンジニアリングに嵌まってしまった。その結果、最近のその場考学では、「その場でメタエンジニアリング思考」が習慣となってしまった。そのいくつかを紹介してゆこうと思う。

TITLT メタエンジニアリングが日本に根付かない理由(その2)


 前回のレポートでは、次のように書いた。『私は、メタエンジニアリングおよびメタ思考が、現代世界、特に日本にとって重要だと考え、多くの人にその考え方を説明してきたが、10年余り経っての結論は、「日本人、とくに日本の知識人層(特に専門を得意とする大学教授)にはそぐわない」との結論だった。理由は、次の三つに集約される。

① 日本人が論理を語るときの特徴、
②広辞苑にみる「メタ」という語の後進性、
③島国の農耕民族としての国民性』

 これについては、何人かの方からご意見が返信された。しかし、残念ながら「よく分からないが・・・。」と言う返信が多かった。そのことは充分に予想をしていたことで、それこそが「日本に根付かない」証拠でもある様に思われる。
 私が、メタエンジニアリングに固執し始めたのは、いくつかのジェットエンジンの設計を終えた後でのことで、その環境問題への影響を考えはじめた時からだった。その後約10年間、渋谷の某大学院で授業を行っている。
演題は「メタエンジニアリングで考えるエネルギービジネスと環境」として、概要は以下のようになっている。

第1日 エネルギービジネスとは何か         
第2日 エネルギービジネスの諸問題        
第3日 エネルギービジネスとメタエンジニアリング                     
第4日 エネルギービジネスと内部経済化問題    
第5日 エネルギービジネスの正と負の価値     
第6日 「価値」を考える             
第7日 ドーナッツ経済と社会環境         
第8日 省エネとビジネスの関係          
第9日 自然とエネルギー             
第10日 企業の進化    

これらを纏めて3日間の授業で行うのだが、冒頭は次の言葉で始めている。

 『環境エネルギービジネスという言葉は、聊か分かりにくい。そこで私は、次のことをテーマに話しを進めることにした。現代の最大の問題は、現代文明による地球環境の破壊が止められないことにある。様々な国際機関や国際会議が対策を考え続けているが、地球全体としての目立った改善は進んでいない。この問題を掘り下げると、次のようなテーマが浮かび上がる。

① 根本原因は、人類が過剰なエネルギーを消費していること  
② 環境に悪影響を与えるのは、様々なビジネスによって作られ、使用されるエネルギーだということ  
③ それらは、すべてエンジニアによって開発された技術によって製造されたものであること。つまり具体的な技術の問題である
④ 現代の企業人とエンジニアは、どこまでそのことを認識して職務を遂行しているのかということ  
⑤ この問題に、古くから国際機関で具体的に取り組んできたのは、民間航空機ビジネスだということ
⑥ さらに広く取り組むには、企業の在り方がどのように進化してゆくことが考えられるかということ 
⑦ これらのことを、メタエンジニアリング視点で考える  

 人間のすべての活動はエネルギーの消費によって行われています。呼吸することは炭酸ガスを排出します。考えることは、脳でエネルギーを消費することです。それらのエネルギーは食物によって補われますが、現代ではすべての食物は何らかのビジネスによって生産されているのです。つまり、私たちの日常生活の100%がエネルギービジネスによって支えられているということができます。
このようなことを考えながら授業をすすめてゆきます。』

 現代は、イノベーション指向時代になっているのだが、最近の多くのイノベーションが、正の効果よりも負の影響が大きく、社会が不安定な方向に向かっているのは、誰もが認識していることと思う。根本原因は、メタエンジニアリングが理解され、実行されていないからではないでしょうか。
 少なくとも、工学部の専門課程の中での展開を期待しています。      

 エンジニアリングとは、通常What & Howで始まる。つまり、何をどうするかである。しかし、現代の技術は、資金と時間さえあれば、望むことは何でもできてしまう。そこに、現代の根本的な問題がある。つまり、人類を滅亡に向かわせるかもしれない技術の存在である。

 メタエンジニアリングは、What & Howの前にWhyを置く。つまり、何故、今、その技術を現代社会に実現しなければならないかを、先ず考える。

 思考の先は、人文科学なのだが、主に、自然人類学と社会人類学、そしてそれを統合する哲学になる。
現代人類は、生物としての諸機能を、様々な発明により代替えすることで、地球上のいかなる生物よりも、格段に優れた能力を獲得した。例えば、優れた目は、眼鏡だけではなく、顕微鏡や望遠鏡で達成されている。しかし、そのことは自然人類学的には、恐ろしい退化を招いている。現代人の目は、古代人に比べて視力が劣るが、TVゲームやスマホなどの影響で、更に悪化している。チャットGPTは、深く考える思考能力を劣化させる危険性が大きい。

 イノベーション指向の現代では、これらの危険性がますます高まるであろう。メタエンジニアリングは、それらのことを防ぎ、人類文明の安全な継続を目的としている。

 問題は、「何故、今、」なのだが、現代の競争社会では、すべてが早い者勝ちになっており、その傾向は、ますます顕著になっている。それを防ぐにはどうすれば良いのか、「その場考学」の最大のテーマになっている。

チャットGPTと生物の進化

2024年04月29日 06時25分02秒 | その場考学研究所レポート
その場考学研究所レポート  No.380                                                        
                                   
定年退職後の10年間は、どっぷりとメタエンジニアリングに嵌まってしまった。その結果、最近のその場考学では、「その場でメタエンジニアリング思考」が習慣となってしまった。そのいくつかを紹介してゆこうと思う。

題名;チャットGPTと生物の進化(メタエンジニアリングのすすめ 23)

 チャットGPTを代表にAIの進化による人類社会への影響の善悪論が姦しい。この問題をメタエンジニアリング的に考えると、生物の進化に行き着く。
 霊長類ヒト科が、何故地球の圧倒的な支配者になれたのか。それは、通常の生物の数百倍の早さで種としての進化が進んだことによる(その場でメタエンジニアリング その8 なぜ、ヒトだけの脳細胞や脳神経が異常発達したのか)。
 つまり、生物の五感を次々に外部化することに成功した為だった。目は顕微鏡や望遠鏡、声は拡声器、消化器官は調理法、足は靴と様々な乗り物による代替え物による進化だった。
 例えば、猛獣はすばしっこい小動物を捕まえるために、ひたすら早く走る足腰を進化させた。キリンやダチョウは、敵を発見するために首を長くした。それぞれ数億年を要したであろう。一方で、人間は自動車や望遠鏡を数百年で発明して、選りすぐれた能力を獲得した。つまり、生物としての、あらゆる能力の強化(進化)を、通常の百倍どころか、百万倍の速さで取得したことによる。

 しかし、その反面、人の五感が衰え続けている。目も耳も嗅覚も現代人は原始人に及ばないし、原始人のそれらを取り戻すことはできない。一旦、大きくなってしまった恐竜は、絶滅するまで、元の正常な大きさの形に戻ることはできなかった。

 このような観点から考えると、チャットGPTは、ヒトの第6感の代替えになりつつあるといえる。新たな文章や曲を書くのは、第6感が大きく影響をする。つまり、目の前のあることから、突然に文章や曲のインスピレーションが浮かぶのだ。チャットGPTは、明らかにその代用となりつつある。

 進化論的に考えると、AIの進化は、五感に続いて第6感も外部化になりつつあると言えるのである。そのことで、人類は、過去と同じように進化を加速的に進めることができるであろう。現代の競争社会では、そのことが大いに期待されている。しかし、同時にその代償としてヒトの第6感は、徐々に衰退してゆくことが予想される。 

 さてここで、先の5感まではいいとして、第6感まで外部化して、自らの第6感が衰退しても良いだろうかを考える。それは、新たなモノやことを創造する能力の衰退と云うことになるではないか。
 100年後の人類の地球上における立ち位置は、やはり、猿の惑星の中にあるのかも知れない。しかし、その原因は核ではなく、生成AIだった。