生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

その場考学との徘徊(03) 国立西洋美術館のカラバッジョ展

2016年04月13日 19時31分30秒 | その場考学との徘徊
題名;国立西洋美術館のカラバッジョ展

 何十年ぶりかで、上野の国立西洋美術館をくまなく歩きました。
 このテーマを選んだ動機は、会場でカラバッジョの絵を数点見て、すぐに「その場考的メタエンジニアリング」を感じたからです。彼は、一枚の絵画に、「旧約聖書」、「ギリシャ・ローマ彫刻」、「キリスト教の主張」、「単純化」、「瞬間的」、「突出効果」のすべてを盛り込んでいたからです。つまり、歴史、宗教、古代芸術、合理性、普遍性がConvergeされた作品と感じてしまったのです。





 芸術新潮3月号の特集記事を読んで、すっかり気に入って国立西洋美術館へカラバッジョ展を見に出かけました。平日の開館時刻に入場すればゆっくりと見ることができると思い、9時半丁度に上野駅に到着。これは、小雨の影響もあって大成功でした。

 彼は、当時のローマ法王にも認められた腕前でしたが、殺人罪で死刑宣告を受けて、ナポリ、シチリア、マルタ島へ逃亡。疲れて、ローマ法王に恩赦を嘆願するために描いた「法悦のマグダラのマリア」の絵を携えてローマへ向かう途中38歳で死去、という経歴もさることながら、彼の影響を受けた多くの画家に「カラバジェスキ」との名称が与えられたという事実に驚かされます。彼の顔は、かつてのイタリアの最高額紙幣に使われたとも聞きました。それだけの影響をヨーロッパ中の一流画家に与えたのですから、当然でしょう。

 特集記事では、「単純化」、「瞬間的」、「突出効果」、「静物(余談1)」の特徴が解説記事付きで挙げられていましたが、実物の「突出効果」は他のカラバジェスキ画家の絵とは確実に差があり、驚かされました。また、画面に対する光の効果(余談2)も抜群で、オスカーを取った現代の映像監督が技法を取り入れたとの話しも納得がゆきました。

 かなりの予習の後だったので、その場でメタエンジニアリングが頭に浮かびましたが、逃亡中に必死の思いで時の権力者に気に入られる絵画を創作する過程で、あらゆる分野の知識と経験を一枚の絵に凝縮させ、全く新しいものをイノベートしたのでしょう。まさにメタエンジニアリング的なMECIサイクルです。

 また、音声ガイドでは、当時のカトリックとプロテスタント間の確執が解説されており、プロテスタントが嫌う宗教絵画を敢えて流行させるために、旧約聖書やギリシャ彫刻を題材にした作品を多く手掛けたことも、イタリア流の戦略論が感じられます。
 特別展だけでもくたびれましたが、何十年ぶりかで常設展も歩いてみました。なんと、ここでも(国立博物館と同様に)写真撮影はOK。名画が撮り放題でした。細密画の詳細画面や、モネの後期の翠蓮の花のタッチなど、思わぬ写真が撮れ、大収穫でした。
 この建物は、ル・コルビジェの設計で私が中学生時代に開館。その時のフランス美術展などを思い出しました。記憶に残っている絵画が数枚ありました。


モネの後期の翠蓮の花のタッチ





ルノワールの踊り子の金の耳ガザリ






聖アントニウスの誘惑






余談1「静物」
 西欧画の静物のメッカがトリノだとは、今日初めて知りました。トリノで生まれ育ったカラバッジョは、幼少時にその基礎を身につけたようです。
 ちなみに、私は仕事でトリノのファイアット社を何度も訪問しました。残念ながら美術館に立ち寄る暇はありませんでしたが、英仏からアルプス越えでの往復は、大きな高低差のために、離着陸とも特殊な航空路(ループ橋のような?)を飛んだのを思い出しました。30年以上前のことですが。

余談2「光の効果」
 ルネッサンスで光が注目され、印象派で開花して、全画面一様の光から、太陽光線や窓明かりになりましたが、彼の光は主題にスポットライトを当てるような光です。「瞬間的」プラス「突出効果」になったのでしょう。一種のイノベーションです。