悪を為すは/おのれ自らなり/心を浄めるのも/おのれ自らなり/汝みずから努めるべし/諸仏はただ導びくに/過ぎず 鈴木大拙訳『因果の小車』より
今月のことばはポールケーラス(1852~1912)が書いた「カルマ」という仏教説話を鈴木大拙が日本語に翻訳した一節です。日本語のタイトルを『因果の小車』といいます。「仏語に曰く」として引用されているから、原典があるはずなのですが、しめされていないし、不勉強者には不明です。
冒頭のことばは恐縮乍ら、筆者の抄訳です。原文とくらべてみれば、ずいぶんとことなります。鈴木大拙訳の原文は以下のとおりです。
悪を為すは己自ら之を為す也/苦に悩むは己自ら悩む也
悪を為さざるは己自ら為さざる也/意を浄むるは己自ら浄むるなり
浄も不浄も皆己自らに属せり/誰か他人を浄め得るものあらん
汝自ら努めざるべからず/諸仏は只之が導師たるに過ぎざるなり
亜米利加足球の監督・コーチ問題が世を騒がしている今日、「諸仏は只之が導師たるに過ぎず」というのが意味深長でしょうか。
鈴木大拙訳『因果の小車』の初版は、明治三十一年に長谷川商店から出版されて、それは現代、国会図書館がデジタル公開しているから、自宅のパソコン上で見ることができます。でも、この画像が不鮮明でみにくい。読みやすいものといったら、『鈴木大拙全集増補新版第二十六巻』(岩波書店)で見ることができます。初版は平成十三年十一月です。これまで、『鈴木大拙全集』は三回にわたり編集・出版されましたが、その最新刊です。全部で四十巻という大全集です。でも、その中で、この『第二十六巻』だけが品切れで、重版の予定はないという。なぜか。
鈴木大拙訳『因果の小車』には、五つの説話が紹介されているのですが、そのなかに「蜘蛛の糸」と題した話があるのです。これが、ご存じ芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の原話だと、いつの頃からかいわれ始めたのです。それで、この巻だけが売れて品切れになっている。
関心のある方は、アマゾンでも何でもよいから調べてみてください。『鈴木大拙全集増補新版第二十六巻』は流通していないと思う。
そんな貴重本を私がもっているかというと、持っていません。先日、国会図書館でコピーしてきた果実が、今月の言葉です。