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B級会社員のOFF日記(現在無職です)

尻毛助左衛門と尻毛又丸の珍道中の日記を公開しています。

定年サラリーマンのOFF日記もあります。

紳士・淑女の昔物語・・・橋の女(その2)

2016-06-26 16:26:33 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・橋の女(その2)

 

男は美濃の国に着いたが、この件をすっかり忘れてしまった。

「悪いことをした。箱を渡さなかったよ。」と思ったが、

「又、改めて出かけて、女を探して渡してやれば良い」

と、棚の上に置いた。

遠助の妻は大変嫉妬深い女で、遠助が箱をしまうのを、何気ない顔つきで見ていた。

(妻) 「あれはきっと、どこぞの女にやろうと思って、京からわざわざ、持ってきた箱に違いない。私に隠してしまいこんだわ。」

と合点した。

遠助が外出した時、妻はその箱を取り降ろして開けてみた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

目にした妻はビックリ。

震え上がって、遠助が帰ってきたのを、おろおろ声で呼びよせる。

(遠助) 「ああ、困ったことをしてくれたな。決して見るなとあの女は言っていたのに。」

遠助は慌てて、蓋を締めて、元のように締め直した。

そしてすぐ、あの女に教えられた橋のたもとに出かけた。

暫く立っていると、女は現れた。

 

受けとった女は言う

(女) 「開けて見ましたね」

(遠助) 「とんでもない。そんなことは致しません。」

 女は機嫌を損じたようすで、

(女) 「取り返しのつかぬことを、あなたはしましたね」

と、険悪な表情のまま、女は箱を受け取り、帰って行った。

 

遠助は家に帰ると、その晩

「気分が悪い」

と床について

「分別なしに、箱を開けるとは」

と、妻を恨む。

程なく遠助は死んだ。

(完)

 

(拙者曰く) 「・・・・・・・・・・・・・」は女性にない、男性の大切なものです。

       「知らない人に、声をかけられて,良い話はほとんどありません。今も昔も。」

 


紳士・淑女の昔物語・・・橋の女(その1)

2016-06-25 21:25:41 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・橋の女(その1)

 

遠助という男は美濃の国の生津(穂積市)に荘園の管理をしていました。

京より美濃へ帰る途中、瀬田の橋(滋賀県大津市)を渡ろうとしたとき、女が声をかけました。

(女) 「そちらのお方は、どこへ行こうとされるのじゃ」

(男) 「美濃へ帰る者です。」

(女) 「言づけてほしいことがありますが、聞き届けて頂けますか」

(男) 「よろしうございます」

(女) 「まことに、うれしゅうございます」

女は絹で包んだ小さい箱を懐から取り出して

(女) 「方県郡(かたがたこおり)唐土(もろこし)の郷(現在岐阜市北部)の段橋(きだのはし)のたもとへ行ってください。」

    「橋の西詰めに一人の女がお待ちしています。その女に渡してください。」

男は薄気味悪くなり、

(男) 「その女はどなたで、どこにお住まいですか。又どなた様からのお届け物ですか。」

(女) 「とにかく、橋のたもとに行けばわかります。受け取りは必ず女がきます。間違いはありません。」

   「ただし、決してこの箱を開けて、ご覧になりませんように」

遠助が箱を受け取ると、女は帰って行ってしまいました。

 

(次回へ続く)


紳士・淑女の昔物語・・・雨となり雲となりにけん

2016-06-24 19:40:44 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・雨となり雲となりにけん

 

昔、中国の楚という国の襄王(じょうおう)が詩人の宋玉という者と雲夢の台に登りました。

そこから高唐(地名)を見ますと、そこの上に雲ができました。

その雲はまっすぐに高く上り、そしていろいろな形に変化するのです。

(襄王) 「これはいったいどうしたことだ」

(宋玉) 「いわゆる朝雲です。」

(襄王) 「朝雲とは、何か?」

 

宋玉は答えました。

昔、先王が高唐に遊びに行きました。

先王は休んでいると、うっかり居眠りをしてしまいました・・・・・・。

その夢に一人の女が現われる。

その女曰く

「私は巫山の女です。あなたは高唐の客人になりましたので、今夜寝所に侍ることを許してもらえますか」

王はこれを許す。

 

朝になると巫女の女は辞して曰く。

「私は巫山の南の山深い所に住んでいます。朝には雲になっております。そして夕べには雨になります。」

その後、毎朝雲が現れ、夕べには雨になりました。

そして、王はこの巫女をわすられず、この場所に廟をたて、名付けて「朝雲」という。

 

この話は「文選」巻一九にあります。

 

紫式部はこの話をもとに、源氏物語の光源氏の和歌に引用しています。

葵の巻で

亡き妻(葵の上)を偲んで

「見し人の 雨となりにし 雲居さえ いとど時雨に かきくらす頃」

(亡き妻が雲となり雨となってしまった。空までが時雨のために暗くなっている今日この頃です)

 

(拙者思う) 「妻に先立たれると、男は弱くなります。」

        「夫に先立たれても、妻はすぐ回復するそうです。」

        「拙者もこんな夢を見たいですが、廟は不可能です。」

       

 

 

 


紳士・淑女の昔物語・・・六宮の姫君(その5)

2016-06-23 21:03:14 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・六宮の姫君(その5)

男はこれ以上どこを探せばよいかわからない。

あそこにはいないだろうと考えていた所を念のため探します。

二条通りを西へ西へと歩いていく。

夕方、俄かに暗くなって、激しい時雨になりました。

あそこの廃屋に雨宿りしようと考える。

その廃屋に入ると、二人の人がいる。

一人は年老いた尼、一人は若い女人。

卑しげな筵(むしろ)を敷いた上に、伏している。

手枕をして横になっていた。

何処となく、上品に見える。

不審に思って近寄り、よくよく、窺い見ると、あの人の面影がそこにあった。

 

目はくらみ

胸は波たち、見守っていると、その人は上品な愛らしい声で言う。

「手枕の すきまの風も 寒かりき 身はならはしの ものにざりける」

(昔思う人との共寝の手枕には、すきま風さえ寒いと思ったのに、今はこのような暮らし、人の身はそのならわしのままのものなのか)

 

聞く声はまさしく我が求める妻のものであった。

「どうしてこのような。わたしはあなたを探しまわっていたのだよ」

と言って抱き上げると、女は顔を見合わせ、

「遠くへ行ってしまった私のあの人」と。

 

そして女は堪えられぬ思いの下に息絶える。

男は、「生き返っておくれ」と抱きしめるが、そのまま女の体は冷たくなってしまった。

 

男は家に帰らなかった。

そのまま愛宕の山に登って法師になった。

(完)

 

(解説)

この話は今昔物語巻二の話です。

 

 

 

 


紳士・淑女の昔物語・・・六宮の姫君(その4)

2016-06-22 23:14:57 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・六宮の姫君(その4)

 

尼は話す

「存じ上げぬ方のお尋ねかと思い、隠していました。今はありのまま申しあげましょう」

 

「殿(この男のこと)が、陸奥におくだりになりまして、便りがないので、姫は大変不安でした。」

 

「一,二年ほど過ぎて御屋敷に仕えていた者たちは考えます、殿はお忘れになってしまった、と。」

 

「乳母の夫は二年ほどして、亡くなり、お世話申しあげる人もいなくなりました。そして皆は散り散りになって・・・・・。」

「御屋敷も年月の経過により傾き、家自体も焚き木にされる有様で。」

「通りがかりの者が、この屋敷を少しずつ壊しはじめます。ある年の大風についに倒れてしまいました。」

 

「私は娘の夫を頼って但馬へ行こうか、京にいても誰も養ってくれない」

「但馬へ参りましたのは、去年のことです。」

「但馬へ行きましても、姫様が心配で、上京しました。」

「上京すると、屋敷は跡形もなく、姫様はどこにいらっしゃるかわかりません。」

そう言って尼は泣きに泣きます。男も堪えられず、泣いて家に帰りました。

 

家に帰っても「この姫に逢わずには生きていられない」という思いは募るばかり。

男は翌日から、姫を探しはじめました。

いかし、なかなか見つかりません。

 

(次回へ続く)