紳士・淑女の昔物語・・・橋の女(その2)
男は美濃の国に着いたが、この件をすっかり忘れてしまった。
「悪いことをした。箱を渡さなかったよ。」と思ったが、
「又、改めて出かけて、女を探して渡してやれば良い」
と、棚の上に置いた。
遠助の妻は大変嫉妬深い女で、遠助が箱をしまうのを、何気ない顔つきで見ていた。
(妻) 「あれはきっと、どこぞの女にやろうと思って、京からわざわざ、持ってきた箱に違いない。私に隠してしまいこんだわ。」
と合点した。
遠助が外出した時、妻はその箱を取り降ろして開けてみた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目にした妻はビックリ。
震え上がって、遠助が帰ってきたのを、おろおろ声で呼びよせる。
(遠助) 「ああ、困ったことをしてくれたな。決して見るなとあの女は言っていたのに。」
遠助は慌てて、蓋を締めて、元のように締め直した。
そしてすぐ、あの女に教えられた橋のたもとに出かけた。
暫く立っていると、女は現れた。
受けとった女は言う
(女) 「開けて見ましたね」
(遠助) 「とんでもない。そんなことは致しません。」
女は機嫌を損じたようすで、
(女) 「取り返しのつかぬことを、あなたはしましたね」
と、険悪な表情のまま、女は箱を受け取り、帰って行った。
遠助は家に帰ると、その晩
「気分が悪い」
と床について
「分別なしに、箱を開けるとは」
と、妻を恨む。
程なく遠助は死んだ。
(完)
(拙者曰く) 「・・・・・・・・・・・・・」は女性にない、男性の大切なものです。
「知らない人に、声をかけられて,良い話はほとんどありません。今も昔も。」