「そうか そうだったのか。あなたは私の恩人だ。
どんな願いも聞くから 話してごらん。」
「お恥ずかしい話ながら 私は小さい頃から
音楽が好きで琴と筝(小型の琴)を勉強していました。
筝はなんとか 弾けるようになりましたが、琴の方は
弾ける前に病気で死んでしまいました。
あの世では良い師がおらず悩んでおりましたところ、
思いがけず 先生の琴の調べを聞くことができ、この人こそ
わが師と決めたのでございます。まだわからないところが
いくつかございます。どうか 琴の手ほどきをお願い致します。」
「わかりました。よく聞いてください。」
ルーチェンは、しっかりとわかりやすいように
琴を何度も弾き 伝授した。
「これで もう思い残すことはございません。」
と言ってクアンニヤンは二人の元を去ろうとした。
「お待ちください。じつは私も筝を少々習っております。
どうか私にお聞かせください。」
リャンコンはクアンニヤンを引き留めた。
クアンニヤンは筝を手に取ると弾きはじめた。
この世の調べとは思えない 甘いしかも悲しい音色であった。
「これで 本当のお別れです。あなたがた二人
琴と筝で合奏をお楽しみください。」
二人が 必死に止めるのも聞かず クアンニヤンは去って行った。
(完)
出典・・・聊斎志異
中国怪異物語 大沢 昇 汐文社