B級会社員のOFF日記(現在無職です)

尻毛助左衛門と尻毛又丸の珍道中の日記を公開しています。

定年サラリーマンのOFF日記もあります。

琴を弾く透明美人(其の八)

2019-05-31 20:33:04 | 怪奇物語

「そうか そうだったのか。あなたは私の恩人だ。

どんな願いも聞くから 話してごらん。」

「お恥ずかしい話ながら 私は小さい頃から

音楽が好きで琴と筝(小型の琴)を勉強していました。

筝はなんとか 弾けるようになりましたが、琴の方は

弾ける前に病気で死んでしまいました。

あの世では良い師がおらず悩んでおりましたところ、

思いがけず 先生の琴の調べを聞くことができ、この人こそ

わが師と決めたのでございます。まだわからないところが

いくつかございます。どうか 琴の手ほどきをお願い致します。」

 

「わかりました。よく聞いてください。」

ルーチェンは、しっかりとわかりやすいように

琴を何度も弾き 伝授した。

「これで もう思い残すことはございません。」

と言ってクアンニヤンは二人の元を去ろうとした。

「お待ちください。じつは私も筝を少々習っております。

どうか私にお聞かせください。」

リャンコンはクアンニヤンを引き留めた。

クアンニヤンは筝を手に取ると弾きはじめた。

この世の調べとは思えない 甘いしかも悲しい音色であった。

「これで 本当のお別れです。あなたがた二人

琴と筝で合奏をお楽しみください。」

二人が 必死に止めるのも聞かず クアンニヤンは去って行った。

 

(完)

 

出典・・・聊斎志異

中国怪異物語 大沢 昇 汐文社

 


琴を弾く透明美人(其の七)

2019-05-27 07:58:54 | 怪奇物語

こうして 何日も 姿の見えない弟子に

ルーチェンは琴を教えた。

幸帰りしていた妻のリャンコンが戻り

二人で姿の見えない演奏者の琴を

しばらく 聞いていた。

「これは狐ではありません。音の調べが

とても物悲しい。きっと幽霊が弾いているのです。」

「そんなバカな。幽霊が弾くものか。」

ルーチェンは信じなかった。

「それでは 我が家に伝わる

古い鏡を持ってこさせましょう。その鏡なら正体を

写し出すことが できるでしょう。」

そう言うと 妻は召使に鏡を取りにやらせた。

次の夜、又琴がひとりでに鳴りだした。

ルーチェンと妻の二人は

明かりと鏡を持って部屋に入った。

鏡に照らしだすと 中には美しい女性が

恥ずかしそうにうずくまっている。

妻によく似たこの女性、どこかで見たことがあると

考えたが 突然思いだした。

「なんだ クアンニヤンじゃないか。

どうして ここにいる。」

娘は 泣きだしながら理由を答えた。

「私はじつは 昔 大臣の娘で

百年前に死んだ幽霊でございます。

以前 大雨の降った夕暮れ あなたは私の墓とは

知らず お立ち寄りになり 私をみそめになりました。

でも 私は幽霊、あなたはこの世の人。

あの世とこの世では通じあうことは出来ません。

それで、私はあなたたちの仲人をすることにしたのです。

リャンコン様が隣の町のお金持ちの息子とお見合いをした時

話がまとまると 困ると思い 私のハンカチに口紅を付けて

わざと 落としたのです。

それに、緑色の花の菊をこの家に移し替えて

わざと評判が立つようにしたのも 私です。

どうか 私を哀れと思いになら たった一つの願いを聞いてください。」

 

(続く)

 


琴を弾く透明美人(其の六)

2019-05-25 08:08:39 | 怪奇物語

こうして ルーチェンとリャンコンは

めでたく結婚式を挙げた。

ルーチェンの家では新婚の夜

あの貝殻の琴を置いてある部屋から

琴の音が聞こえてきた。

召使の少年は誰かが いらずらで弾いているのだろうと思い、

そっと部屋の中をを覗いてみると

不思議なことに 琴がひとりで鳴っていた。

うす気味悪くなった少年は、主人のルーチェンの

ところへ知らせにいった。

「ご主人様 大変です。琴がかってに曲を弾いています。」

「何をたわけたことを言うな。」

「いえ、部屋には誰もおりません。」

ルーチェンが行くと 確かに部屋は真っ暗で

中には 誰もおりません。

明かりを持って、部屋に入ると琴の音は止まった。

「たぶん 狐だろう。必死に弾いているところをみると

いたずらではなく、私に琴を習いたいのであろう。」

そう言うとルーチェンは弟子に教えるようにゆっくりと

琴を弾きはじめた。

 

(続く)


琴を弾く透明美人(其の五)

2019-05-21 07:42:25 | 怪奇物語

ルーチェンが 葛公の家に通ううち

二人は いつしか 親しくなった。

ある日 彼は思い切って

葛公に お願いした。

「どうか お嬢さんと 結婚させてください。」

しかし 葛公はルーチェンの家が落ちぶれて

貧乏なことを知っていたので どんなに一所懸命に

頼んでも うんとは言わなかった。

逆に 悪いうわさが立つのを恐れて 隣町の

金持ちの息子と見合いをさせることにした。

 

その男は評判も良く ハンサムであったが

見合いの後 彼の座ったところに

女物のハンカチが落ちていて

女の口紅のあとがあった。

 

「あんな男のところには 娘はやれん。」

葛公は すぐさま 縁談を 断った。

 

葛公の家には 珍しい菊の花があった。

緑色の菊で 葛公の自慢であり 秘宝であった。

ところが 秋になると ルーチェンの家にも

緑色の菊が咲き 町の評判を呼んだ。

 

「娘が あの男に菊の苗を渡したのに 違いない。」

怒って葛公は娘リャンコンをたたいたが、娘は

「無実です。決してそんなことはありません。」

と、懸命に否定した。

「そこまで お疑いなら 私は死んで

潔白を証明します。」

と、首を吊ろうとした。

「あなた 娘が死んでも なにもなりません。

いっそ ルーチェンと結婚させてあげましょう。」

母親の必死の願いで 葛公はついに 同意した。

 

(続く)


琴を弾く透明美人(其の四)

2019-05-21 07:39:51 | 怪奇物語

藁を敷いてみたがとても眠れない。

彼は坊さんから習った曲を何度も弾いた。

雨が上がると ルーチェンは夜明けを前に屋敷を出て

目的地を目指した。

 

県知事を務めたこともある葛公(かつこう)という金持ちがいた。

彼は音楽が好きで ルーチェンの名声を聞き

ある日 彼を家に招待した。

坊さんに習った曲を弾いていると

風が吹き 部屋の右隅に 掛かっていたすだれが揺れ

中にいた女性の顔が見えた。

 

その女性のあまりの美しさに 琴の音が乱れた。

「素晴らしい。あなたは 才能がある。

これからも家に来て いろいろな琴の音を聞かせてくれ。」

葛公は それから 家の宴会に招いた。

 

葛公の家にはリャンコンという十七歳の娘がいたが

この娘があの時の女だった。