B級会社員のOFF日記(現在無職です)

尻毛助左衛門と尻毛又丸の珍道中の日記を公開しています。

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班女・・・再会の場面

2016-09-30 23:19:42 | 岐阜県のものがたり

班女・・・再会の場面

花子は歎きます

(花子) 「扇には裏表があるが、この形見の扇よりも、もっと裏表があるのは人の心なのである。

          扇が「逢う」には縁があるなどというが、それは嘘。扇をもっていても、逢わずにいるからこそ恋の心はわが心を離れない。

          恋の心は我が身を離れない。我が身からは恋の心は離れないのだ、あああ。」

 

 

(少将) 「だれか いるか」

(従者) 「お前におります」

(少将) 「あの班女が持っている扇を見たいと申しなさい」

(従者) 「かしこまりました」

 

(従者) 「班女よ、あの御輿の内から、班女の持っている扇をご覧になりたいとのことであります。さしあげなさい。」

(花子) 「この扇はあの人の形見なので、我が身離さず持っています。

     ・・・形見こそ 今はあだなれ これなくは 忘るる隙も あらましものを・・・

     の古歌のように、これがなければ」

(花子) 「とは思うけれども、それでもやはりまた、これがあるとあの人に寄り添っている気持ちになるので、そのような時には、

     扇を取るためのそのわずかな時間さえも、惜しく思われる。そういう訳だから、他人に見せることはすまい。」

(地謡・少将) 「それはこちらにとっても、忘れにくい形見の品。ただそのことを言葉に出して言わず

     顔色にも出ないというのでは、それだとわかることもあるまい。

     この扇を見て初めてわかることだろう」

(花子) 「さてさて、この扇を見て何のためになると言うのかしら。

     この、夕暮れ方の月を描きだしている扇について、こんなにもお尋ねなさるのは、いったい何のためだろう。」

(地謡・少将) 「なんのためか、今はわからないとしても、あの野上で旅寝した時の秋と言う約束はどうしたのだろう」

(花子) 「ええ、野上と言われるか、野上と言う東の国、それでは、東国の果てまで行って、

     約束を守らず帰って来なかった人なのかしら。」

(地謡・少将) 「そのことを今更、どうして恨みに思うことがあろうぞ、そなたとは固く約束しておいたこと」 

(花子) 「ではそちらにも形見の扇をお持ちで・・・・・・」

(地謡・少将) 「そのとおり、この扇は身から離さず持っていたのだ。」

 

(地謡) 「扇を取り出したので、折も折、夕方の薄明りのぼんやりしたなかで、夕顔を描いた扇である。

(花子) 「この上はお付きの人に明かりをお命じになって、こちらの扇をご覧ください。」

(地謡)     互いに扇を見たところ、愛するあの人と分かりあう。

     形見として、お互いの扇を取り換えることは、男女の愛情を示すもの。

     形見の扇こそ男女の深い絆であった。」

(完)

 

地謡・・・・能楽用語。斉唱で謡の地(じ)の部分をうたってシテそのたの演技を助ける人たち、またその時うたわれる地の謡。

小学館 日本古典文学全集 謡曲集 より

 

 

 

 


班女(はんじょ)・・・関ヶ原町

2016-09-28 22:18:04 | 岐阜県のものがたり

班女・・・関ヶ原町

 

美濃の国野上の宿に、花子(はなご)という遊女がいました。

ある時、吉田の少将がという人が東国へ下る時、投宿しました。

花子と恋に落ち、お互いの扇を交換し、将来を約束して別れます。

それ以降、花子は少将を想って、毎日扇を眺めて暮らし、宴席の勤めをしなくなりました。

野上の宿の主人は、人から班女というあだ名で呼ばれている花子を苦苦しく思い、宿から追い出してしまいます。

 

吉田の少将は東国から帰還し、野上の宿を訪れます。

花子がすでに居ないことを知り、落胆します。

失意のうちに、京都に帰った少将は下賀茂神社に参詣。

偶然にも班女、すなわち花子が現れます。

宿を追い出された花子は、少将を恋焦がれるあまり、狂女の班女となって、彷徨い歩き、京都に着いていたのです。

「恋の願いを叶え給え」と神に祈る班女に少将の従者は声をかけ、

「面白く狂って見せよ」と言います。

班女はその心無い言葉も、心を乱して舞います。

少将と取り交わした形見の扇を手にして、あてにならない少将の言葉を嘆き

ひとり身の寂しさを訴えながら、舞を続けます。

 扇を繰り、舞うほどに心は乱れ、班女は逢わずにいればいるほど募る恋心を顕わにして、涙にくれるのでした。

それを見ていた少将は班女の持つ扇が気になり、扇を見せるように頼みます。

黄昏時の暗いなか、少将と花子はお互いの扇を見て、探し求めていた恋人であることを確かめ、喜びあうのでした。

(完)

 

(拙者曰く)

この話は能の「班女」という作品のストーリです。

班女は中国・前漢の時代に成帝の寵姫であった班ショウヨという女性のことです。

寵を失い・・・秋には捨てられる夏の扇に自らをたとえ、歎いた詩を作ったそうです。

狂言には「花子」という作品があり、歌舞伎にも展開しています。

「能・演目事典」より

 


昔の助左衛門、南国へ行く事(その五)

2016-09-21 20:12:10 | 紳士・淑女の昔物語

役人は、この由を申そうとして、御寝所に参ると、御帳の中から血が流れている。

不思議に思って中を見ると、赤い首が一つの残っている。

それから役所内が大騒ぎになること、全くひっくり返るようである。

大臣の息子が助左衛門を召してお尋ねになる。

助左衛門は

「ですからこそ、こういう恐ろしいことが起きるのです。

すぐに追い出して、退治する命令を出してください。」

「お前の言う通りに仰せくださるであろう。」

と言われたので

「剣の太刀を付けた者百人、弓矢を帯びた者百人を軍船に乗せて出立せしめられよ」と申しあげた。

その通りとなり、助左衛門は二百人を連れて、鬼の島へ漕いで行く。

 

まず十人ほどを商人のよう仕立てて、浜に降ろすと例の美女が歌を歌いながら、やってきた。

女たちは商人を誘って、女の城の中に入っていく。

そのあとに、残りの者は、城に乱入しこの女たちを退治した。

この島がどこにあるかは、伝えられていない。

 

(完)

 

解説本曰く・・・拙者思うに・・・

この物語は「宇治拾遺物語」巻六のある 「僧伽多(そうきやた)羅刹国(らえつのくに)に行く事」の話です。

主人公は僧伽多(そうきやた)ですが、私は「昔の助左衛門」としました。

羅刹国(らせつのくに)は「南国」としました。

 

さらに宇治拾遺物語の元を辿ると・・・・大唐西域記にある話に行きつきます。

まったく私も知りませんでした。

しかし「女の昼寝の話」と「女ばかりを産む話」は三蔵法師玄奘の大唐西域記にはないそうです。

当然でしょうが・・・

 

この説話には美女あり、戦闘あり、スリルとサスペンス、そして最後に鬼女退治と話はよくできています。

男は美女にだまされる・・・今も昔も同じです

感心しました。

 

原文の紹介  男たちが女の城に連れていかれる場面です。

「・・・・・・・そのうちに具して入りぬ。門の錠をやがてさしつ。内に入ればさまざまの屋ども隔て隔て作れり。男一人もなし。

さて商人ども、皆皆とりどりに妻にして住む。かたみに思ひあうこと限りなし。片時も離るべき心地せずして住む間、

この女日ごとに昼寝すること久し。・・・・・」

 

 


昔の助左衛門、南国へ行く事(その四)

2016-09-20 20:16:47 | 紳士・淑女の昔物語

昔の助左衛門は大いに怒り、太刀を抜いて、殺そうとした。

女はすごく恨んで、内裏へ行き、申し述べた。

「助左衛門は私の長年の夫です。それなのに私を捨てて、一緒に暮らさないのは、どなたに訴え申しあげましょう。

お役人様どうぞこれをお裁きください。」

役人はこの女を見て、限りなく褒めたたえた。

大臣がお聞きになって、覗いてご覧になる。

まったく言いようもなく美しい。

まわりの女は土くれのようであり、こちらは玉のようである。

この女と一緒に住まない助左衛門の心はどんなものかと、思われるので召してお聞きになった。

助左衛門は申す

「この女は決して内裏へ入れて、情けをかける者ではありません。返す返す恐ろしい女です。

大変な間違いが起こることでしょう。」

と退出した。

大臣はこの由をお聞きになって、

「この助左衛門はふがいない者よ。よしよし裏門から入れよ。」

と役人に仰せられたので、夕暮れ時に中に入れた。

大臣はそば近く寄せてご覧になると、姿、容姿、そぶり、匂うようで、愛おしいことこの上もない。

さて二人で、お休みになると翌日も、その翌日も、起き上がりなさらず、政治はお執りにならない。

 

助左衛門が参上して

「不吉なことが起こりそうです。大臣が殺されなされたのです。」

と申しあげたが、誰も信じない。

 

こうして三日目になると、御格子もまだ上がらないのに、この女が御寝所から出てきて、立っているのを見ると

目つきも変わっていて、実に恐ろしい。口には血がついている。

しばしあたりを見まわして、女は軒から飛ぶように、雲の中に入って消え失せた。

 

(次回へ続く)

 


昔の助左衛門、南国へ行く事(その三)

2016-09-19 21:40:27 | 紳士・淑女の昔物語

助左衛門たちは西の方へ向ってみな一緒に声をあげて、観音様に必死に祈っていると、

沖の方から大きな白馬が、波の上を泳いで、商人たちの前に来て、うつぶせに伏した。

これこそお祈り申した効験であると思い、

その場にいた者は残らず、皆取りすがって、これに乗った。

 

女たちは起きて見ると、男たちが一人もいない。

「さては逃げたか」と。

女たちは浜に出ると、男はみんな白馬に乗って、海を渡って行く。

 

女たちは、鬼になって、十四、十五丈も高く躍り上がり、わめきちらす。

商人のなかに、女がたぐいまれに、愛おしかった事を思い出す男が一人いた。

その男は、途中で海に落ちてしまった。

鬼たちは奪いあい、先を争って、この男を、引き裂き食べてしまった。

 

さてこの馬は、数日後、故郷の浜に着いた。

商人たちは喜んでおりた。

その馬は、かき消すように いなくなってしまった。

 

昔の助左衛門は、心から恐ろしいと思い、このことを人に話さなかった。

二年たって、鬼女の中で助左衛門の女であったものが、必死に助左衛門を探しだして、やってきた。

前よりも綺麗になって、なんとも言えず愛らしい。

女は言う

「あなたと私は、そうなるべき前世の定めでしょうか。ことのほか慕わしく思っていました。

私を捨ててお逃げになったのは、どんなお気持ちなのですか。

私の島ではこういう怪しいものが、時々出てきて、人を食うのです。

だから錠をよくさし、土塀を高くしてあります。

それにこうして人が大勢浜に出て、騒ぎ出すのを聞いて、あの鬼どもがやってきて、怒った様子を見せたのです。

それはもちろん私の仕業ではありません。

あなたがお帰りになって後、私はあまりにも恋しく思われて・・・・あなたは同じ気持ちになりませんか」

とさめざめと泣く。

 

(次回へ続く) 

 

(次回へ続く)