紳士・淑女の昔物語・・・・・・小野 篁(たかむら) 広才の事
小野 篁という人が嵯峨天皇の時にいました。
ある時、内裏に札を立てた者がいた。
「無悪善」と書いてある。
(天皇)「読め」
(篁) 「読むことは読みましょう。しかし畏れ多いことでありますので、あえて申しあげますまい。」
(天皇) 「かまわず申せ」
(篁) 「さがなくてよからん」
(天皇) 「おまえ以外に誰が書こうか」
(篁) 「それだからこそ、申しあげますまいと、申したのでございます。」
(天皇) 「それではなんでも書いたものなら、読めるのか」
(篁) 「何にても、お読み申しあげます」
天皇は子という字を十二お書きになり
(天皇) 「読め」
(篁) 「猫の子の子猫、獅子の子の子獅子」
と読んだので、天皇は微笑まれて何の御咎めはなかった。
(解説曰く) 「忌憚のないやり取りは信頼しあう二人の情愛が底流にある」
(その他) 小野篁は後年遣唐使の副使になるが、正史と喧嘩して乗船しなかった。この件で篁は壹岐に流された。
宇治拾遺物語 巻第三にあります。