目をつぶると昔のことが思いだされる
又丸殿の家は名鉄電車揖斐線の線路際にあった
電車が通る度に少し家が揺れた
名鉄電車は1時間に4本走っていて、時計なんか不要であった
電車の通過音は時報
その時報は今はなくなり、寂しいかぎりである
又丸殿の母は高齢になり、耳は遠くなっている
テレビの音を大きくして、聞いてござる
又丸殿の家の前を通るとテレビの音が漏れてくる
テレビの音に混じって、窓のガラスも揺れている気がする
「又丸! 戸を開けたら、必ず閉めなさい。 何度言えば分るの!」
と母に言われ、又丸は「はーい」と言いながら自分の部屋に帰っていった
又丸殿は母の介護をしていたので、結婚して嫁をとることを忘れてござる
(次回へ続く)