絶滅危惧種のバス路線・・・毎月18日1便のみ(中)
バスがやってきた。
乗客はゼロに近いと危惧していたが、安心した。
約20名。西国三十三か所巡りの結願札所の谷汲山だから、白装束の人を期待したが、いない。
ご年配のご夫婦、女性のグループが主で、明らかにバス趣味のおじさんが一人、そして拙者と又丸。
JRの岐阜駅前では4,5人の乗客が増えた。
岐阜市内の停留所にはどこにも停車しない。なかなか気持ちが良い。
西野町から忠節橋を渡り、則武から左折する。
黒野地区は城跡があり、良き町ではあるが、道路は狭い。
バスが止まり、クラクションを鳴らす。一般道にはみ出して駐車している車がある。
もう一度鳴らす。しかし迷惑駐車のドライバーは戻らない。
(拙者) 「どうしたんだろう」
(又丸) 「呑気な、迷惑駐車の運転手ですな。」
(拙者) 「そこの喫茶店にいますよ。きっと。」
(又丸) 「ズバリ的中ですね。頭を搔きながら、運転席に入り別の場所に移動はじめました。」
(拙者) 「道が狭いと、かえって寂れて行きますね。」
(又丸) 「北方の旧市街も寂れて、駐車場が増えています。」
バスは黒野で時間を食ったが、御望野(ごもの) 文殊(もんじゅ)を過ぎ、本巣縦貫道に入ると、スピードを上げた。
(拙者) 「上の句ができましたが、・・・」
(又丸) 「どんな句ですか」
(拙者) 「谷汲へ 黒野にバスは 行き悩み」
(又丸) 「大した句じゃないですね。では終点に着くまでに この又丸が下の句を作りましょか」
(拙者) 「お願いします。実は、この歌には 引き歌があります。」
(又丸) 「引き歌はカンニングの一種じゃないですか。」
(拙者) 「後でお話しますが、全然別な句になっています。谷汲に通じる赤い橋が見えてきましたよ。」
(又丸) 「団子食べたし・・・・後が続かない・・・・」
(拙者) 「そこの交差点を右に曲がると終点です。ちょうど一時間です。できましたか」
(又丸) 「できたできた。下の句は 太鼓見ながら 団子食べたし 」
(拙者) 「それは句でなく願望ですね。」
(運転手) 「ご乗車ありがとうございます。終点谷汲山です。お帰りは14時です。遅れないようにお願いします。」
(娘A) 「運転手さん。横蔵寺行きのバスはここらかですか。」
(運転手) 「横蔵寺行きは別会社ですから・・・責任は持てませんが・・・」
(又丸) 「この場所以外に、他にバス停がある訳ないではありませんか」
(拙者) 「あそこの柿色の名阪近鉄バスが待っていますよ」
(娘B) 「おじさん。ありがとうございました」
娘二人は次のバスめがけて走った。
拙者は思う。「走る必要はない。田舎のバスの運転手は大切な乗り継ぎのお客さんを忘れない。」
(夫C) 「若い娘はいつ見ても良いもんだ」
(妻D) 「若い娘を見ると夫はいつもだらしない顔に・・・」
(老人E) 「帰りのバスには間に合うのか心配だなあ」
(老婆F) 「あなた!! 若い娘のことなんか心配いないで、私のことを心配して頂戴。」
(拙者) 「どこの夫婦も同じですな」
(又丸) 「あの娘たちはよく調べて旅行してますね」
あの娘たち以外の乗客は、参道の坂道をゆっくり上っていった。
(次回へ続く)
(註) 引き歌・・・
源氏物語 朝顔の巻
光源氏は紫の上と昔や今の話をしています。月がますます澄み渡り、静かで美しく冴えかえっています。紫の上は詠います。
「氷閉じ 石間の水は 行きなやみ 空済む月の 影ぞ流るる」
(張りつめた 石の間の遣水は 流れ行きなやみ 空に済む月影は よどみなく流れゆく)
空を眺めて、少し首をかしげていらっしゃる紫の上のお姿は、似るものもなく愛らしいかぎりである。
拙者の上の句とは、出来が全然違います。失礼しました。
(参考) 「源氏物語 巻四」瀬戸内寂聴 訳 講談社
大切なお知らせ・・・この500円の一日限定の切符は「春」と「秋」限定の季節切符です。この秋発売されるかは7月30日現在 未定 です。