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B級会社員のOFF日記(現在無職です)

尻毛助左衛門と尻毛又丸の珍道中の日記を公開しています。

定年サラリーマンのOFF日記もあります。

紳士・淑女の昔物語・・・逃げた女に未練は(その2)

2016-07-01 21:47:44 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・逃げた女に未練は(その2)

 

女は老医師と同座して、恥ずかしがる素振りを見せず、永年連れ添った妻のように、打ち解けた様子である。

老医師は少しずつ変な気分になる。

「いずれにせよ。わしの存分になる女に違いはあるまい」

と思うと、歯も抜けた皺くちゃの顔が自然に笑み崩れる。

この老医師は永年連れ添った妻を亡くして3年になる。

今は妻がいない身がうれしくて仕方がない。

(女) 「どんなに恥ずかしいことにも、目をつぶります。先生、助けてください。」

(老医師) 「いったい、どうなさったのかな」

と問うと、女は袴を引き上げて見せる。

女の雪のような股がが少し腫れている。

老医師はその腫れ具合がどうも合点がゆかず、腰紐を解かせて、女の前をみると、

女の若草のお蔭で、よく見えない。

そこで、手で探ると、そこのあたりに腫瘍がある。

老医師は左右の手で若草を掻きわけると、命にかかわるできものがあった。

その日から、他人を寄せ付けず、自ら襷げけで、昼となく夜となく治療に専念した。

 

(次回へ続く)


紳士・淑女の昔物語・・・逃げた女に未練は(その1)

2016-06-30 21:32:08 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・逃げた女に未練は(その1)

 

今は昔。京に腕利きの老医師がいた。世の人は皆重用していた。

ある日、老医師の家へ、美しく着飾った女車が入った。

(老医師) 「どこの車でしょうか。」

 と、尋ねても返事はなく、構わず車は入ってきた。

雑色たちは、門でしゃがんで控えている。

(老医師) 「どのような御用ですか?」

(女) 「部屋を設(しつら)えてください。」

と、魅力のある、可愛い声で言う。

この老医師は元々女好きの助兵衛爺さん。

さっそく、屋敷内の隅の間を掃き清めて、屏風を立てて準備する。

老医師は万端整えて、いそいそと車の脇に寄り、用意の出来たことを告げる。

(女) 「ではそこを退いてくださいな。」

と言う。少し離れたところで立っていると、扇で顔を隠した若い女が滑り下りた。

小間使いの少女が車に寄り、蒔絵の化粧箱を取り出す。

車は来た道を帰った。

用意された所に、女は座る。

(老医師) 「どういう御用があって、いらっしゃいましたか。お聞かせください。」

(女) 「こちらへ来てください。もう恥ずかしがりはしません。」

言うままに、老医師は入る。

差向いになった女を見ると、目鼻口文句の付けようがない美女。

髪はとりわけ長く、香をたきこめた美しい衣装を身に着けている。

 

(次回へ続く)


紳士・淑女の昔物語・・・初午の日の女(その3)

2016-06-29 22:24:19 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・初午の日の女(その3)

 

(重方) 「そなた、気でも狂ったか」

(女)  「お前さんは、どうしてこんな恥ずかしいことをするの。周囲の人は、油断のならぬ男ですぞ、といつも言っています。」

     「あの人たちは本当のことをおっしゃていたのね。」

    「もう一度、お前さんの頬をひっぱたたいて、行き来の人に見せて、笑わせてやりたいよ。」

(重方) 「そうなに興奮しなさるな。お前さんの言う通りだよ。」

     と作り笑いをして、なだめるが、少しも聞こうとはしない。

 

一方、ほかの舎人達は、このことを知らない。

上手の坂の上に立って、

(舎人A) 「重方殿はどうして遅い。」

      と、振り返って来た道を見ると、女ととっくみ合って、立ち往生している。

(舎人B) 「何をやっているんだ、あれは。」

      と、引き返し、寄ってみると、重方は妻に打ち拉がれて、閉口している。

(舎人C)  「よくぞ、おやりになった。だから、いつも申し上げていたのですよ。」

      と、女を褒めそやす。

(女) 「お前さんの性格はすっかり見破りました。」

   重方はついに、逃げていく。

 

さてその後。重方は家に戻ってきて、妻をあれこれと宥めると、妻の腹の虫もやっと治る。

(重方) 「さすが、重方の妻。そなたは大したことをやらかした。」

(妻) 「おだまり、この馬鹿」 

    「自分の妻の気配も見分けられず、声も聞き分けられず、阿呆丸だし。」

    「人に笑われるなんて、極め付きの大馬鹿」

    と、妻にまで笑われた。

 

その後、この事が世間の評判となり、若い公達の笑いの種になった。

のち、重方が死ぬと妻は女盛りに再婚した。

 

(完)

今昔物語巻六にある話です。

 

(拙者曰く) 「普通は妻かどうかわかります。女の化粧がうまかった為と思いますが…」

        「重方と女のやり取りは生き生きしています。今でも色褪せていませんね」

 

 


紳士・淑女の昔物語・・・初午の日の女(その2)

2016-06-28 20:39:13 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・・淑女の昔物語・・・初午の日の女(その2)

 

(重方) 「本日参詣した験(しるし)あって、永年思ってきたことを、神様が叶えて下さった。ところでそなたは一人?」

(女) 「わたしも、今はこれっといった人はおりません。一緒にと言ってくださる人がおりましたが、その人は地方で死んでしまいました。」

    「この3年どなたか頼りになるお人をと、この社にもお参りしたのですよ。」

    「あなたがほんとうに、思ってくださるなら、住まいもお知らせ申し上げまし・・・・・・」

    「・・・・・・・いえ、だめですわ、ゆきずりのお方のおっしゃることを、真に受けて私も馬鹿ですね」

    「さあさあ、お帰りください。私も失礼します。」

(重方) 「神様、お助けください。こんなにつれない言葉をお聞かせくださいますな。」

    「あなたのお伴をして、私の家へは帰りません。」

女は重方の髪を烏帽子ごしに、むずとつかむと山に響けとばかりに頬をひっぱたたいた。

 

(次回へ続く)

 


紳士・淑女の昔物語・・・初午の日の女(その1)

2016-06-27 23:02:14 | 紳士・淑女の昔物語

紳士・淑女の昔物語・・・初午の日の女(その1)

 

二月の初午(はつうま)は昔から、京では身分の上下を問わず、大勢の人が、稲荷詣でをする日であった。

ある年、舎人達も参詣した。酒などを供に持たせて、連れだってお参りをした。

参る人、帰る人、様々行き交う人の中に、美しく着飾った、一人の女に出会った。

女は舎人達が、来たので、脇に寄って、木陰に隠れるように立った。

舎人達は、穏やかならぬ、けしからぬことを言いかけたり、あるいは下から、覗きこもうとした。

茨田重方(まつたの・しげかた)はもとよりの女好き、妻がいつも焼き餅をやくのを、知らぬ存ぜぬと言い逃れてきた。

一行の中でも、とりわけ露骨に、立ち止まって、女から目を離さず、あれやこれやと口説く。

(女) 「奥様をお持ちの方が、ゆきずりの浮気心で、おっしゃること、まことに聞く方がおかしいですわ」

(重方) 「つまらぬ妻を確かに私は持っていますが、そやつの顔は猿そっくり、心はまるで下劣な女」

    「だから気にいったお方に出逢うことが、ありましたら、乗りかえてしまおうと心底思っています。」

(女) 「それは本当ですか。冗談ですか」

 

(次回へ続く)