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国立西洋美術館のル・コルビュジエ

2013年11月02日 | 日記
 上野公園の国立西洋美術館で「ル・コルビュジエと20世紀美術館」と題された展覧会にいってきた(10月29日)。この展覧会の要諦はもちろん、コルビュジエ(1887-1965)の設計した建築空間の中で、彼の彫刻・絵画と彼の審美眼にかなった同時代の美術作品を体験できることにある。この機会に何としても見に行かなくてはと思っていた。
 国立西洋美術館本館は、そのコルビュジエが基本設計にあたり、今から54年前の1959年に竣工した建物だ。よく日本における“唯一”のコルビュジエ建築と称賛?されるけれど、スイス人でヨーロッパを中心に大陸で活躍した現代建築の巨匠からしてみれば、アジア大陸の東にある島国は少なくとも設計当初はさほど重要とは思えず、幾人かの日本人建築家の弟子によってつながる意識の端にある程度の存在ではなかったのだろうか?

 あらためて眺めると、東京文化会館と対峙する位置に立つ二階建ての本館は、20世紀モダニズム建築のお手本のようなたたずまいである。入り口のピロティ、横長の窓、内部に入ると円柱で支えられた空間にスロープがあり、天井のトップライトからは自然光が差し込む。二階の展示回廊を巡ると途中のバルコニーから一階が見下ろせ、今は立ち入りができなくなっているが屋上庭園もあるそうだ。もっとも目につきやすいファーサード(正面)はモダニズムらしく端正なたたずまいだが、どこか日本的な要素を感じるのは、正面壁パネル状に全体に敷き詰められたうす青い小石のためだろう。この石、四国産だそうで仕上げに当時の無名の職人たちの丁寧な仕事ぶりが光っている。実はここがこの建築の最大の見どころだと思っている。

 正面右側には、外側から二階につながる階段と横長の窓がありアクセントとなっているが、ここもいまは立ち入りできなくなっていて残念だ。管理上の都合だろうが、当初コルビュジエが構想して作られ、いまは使用されていないところがいくつかあるのに気づく。そこのところをどう考えるのか、この記念碑的建築を考えるうえで重要なのではないだろうか。たとえば、正面の外階段を今回の展示構成の最後に持ってきて、中の空間と作品を巡ったあとのハイライトとして、出口として使ってみたらどうかと思う。二階の室内からでていったん屋外バルコニーに立ち、その高さの位置から、向かいの東京文化会館を眺める光景を想像するとワクワクする。あきらかに東京文化会館を設計した前川国男は、師であるコルビュジエをリスペクトしているのが理解されるだろう。コンクリート製の反った庇、舞台上を覆う外壁に大理石の砂利を埋め込んで、美術館の正面外壁と対比させていることなど。東京文化会館は、前川が師コルビュジエにささげたオマージュである、と言ってしまおう。そして、当初コルビュジエが美術館や劇場、野外音楽堂を含む総合文化施設をプランニングしていたスケッチ図が浮かび上がってくるに違いない。これ、ぜひ実現を美術館側に提案してみたい。

 さて、コルビュジエの彫刻と絵画について。意外なことに今回の彼の彫刻展示作品はほぼ木製であって、そこに原色に近い色彩がつけられている。素材を生かすという発想ではなく、自然を克服することに意義を見出すのが地中海精神らしいのかもしれない気がした。絵画のほうは、線の描写や造形力はさすがだと思ったが、全体の印象はやっぱり彼の資質が生きているのは建築ではないかということ。
 
 以前、渋谷東急文化会館が閉館する前に、館内にある映画館のパンテオンに初めて入って特別上映された「ニュー・シネマ・パラダイス」を見て映像と同時にモリコーネ音楽の情感あふれる美しい旋律に感動したが、そのときの銀幕前の緞帳デザインがなんとコルビュジエの原画をもとにしたタピストリー(織物)だったのにはびっくりした。国立西洋美術館のほかに、国内に建築に付属したコルビュジエの作品があったなんて!この会館を設計した坂倉準三が師匠のコルビュジエに頼んだものらしいと知り、納得。
 今回の展示にその原画か現物がないかと探したのだが見つからなかった。建物が壊されたあと、あの緞帳はいったいどうなってしまったのだろうか、処分されてしまったか気になる。東急本社に行方を聞いてみたいのだけれどもどうでしょうか。