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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

まほろば三輪、里山の春

2018年03月17日 | 日記
 ここのところひと月のあいだ、春のきざしをもとめて、まほろば三輪の里山へと通い続けている。

 弥生にはいってすぐのころ、成瀬街道から鶴川方面へと走る。TBS緑山スタジオの広大な敷地横の坂を上り切ると、右手には三輪緑山住宅がひろがる。そのさきはずうと下りとなり、鶴見川のすこし手前にみえてくるのは、シャクナゲの寺として知られる見星山三輪院高蔵寺だ。室町時代の開山でこじんまりとしているがこのあたりの真言宗の名刹、その横に車をとめて歩き出す。三輪の里は農作業の準備がはじまりだし、よく手入れされた畑地一面には梅の紅白の花であふれんがばかりだった。




 畑地は、よく見ると緩やかな檀々状になっていて、中世沢山城跡の二ノ丸三の丸なのだろうか。(2018.03.07 撮影)

 それから十日後、けさの三輪の里のみたびの風景。晴れ渡った青空がひろがって、大気はひんやりとして気持ちがよい。ほのかに桜の開花を期待して、車を降りて高蔵寺の前の小道を歩き出す。
 道端には、じつに鮮やかな大ぶりの黄色の花、水仙の群生が見頃だ。さて、桜はどうだろう。濃い紅の緋寒桜はふくらみ始めて一部は咲き始めていたけれど、大島桜と枝垂れ桜はまさに開花直前だった。ここにはソメイヨシノとはまた別の種類の桜が多数生い茂っていて、それがとてもいい。前回楽しませてもらった一面の紅白の梅はすっかり散ってしまった分、つかの間の地味な里山風景にもどったかのよう。やがてあとほんの数日で、いっきに華やかな自然の生命を謳歌する情景がひろがっていくことだろう。



上の写真手前の黄色はサンシュユの花。里山は幾分気温が低く、いまがようやく花の盛り。下は沖縄産実生の寒緋桜。




 道端のミツマタと菜の花。桜が咲き始める直前、この時期、里山は黄色い花花が主役。



 茅葺古民家ギャラリー「可喜庵」。ひさしぶりに通りかかったら前庭がきれいに整備されている。鶴見川を渡って、新旧の世田谷街道沿いにある。奥のホワイト&グリーンの二階建てはS工務店事務所、ツタの絡まった北欧的な外観がいい。ここへは何回となく建築デザインの集いや工芸展示に通わせてもらって、貴重な出会いもあった。
 駅方面手前、武相荘へとむかう街道沿いの星乃珈琲鶴川店でひとやすみ。ここはたしか、前は和風スパゲティのお店、五右衛門だった。すっかり改装されて、いい雰囲気で落ち着ける。お昼時だったので、ハヤシ風味のオムライスをいただくことにした。ここで片岡義男の新作エッセイ集「珈琲が呼ぶ」を呼んでみたらお似合いだ。
 小一時間後、店の駐車場をでたあとは、せっかく近くに来たのでひさしぶりに、木版画家の畔池梅太郎アトリエにたちよる。ご自宅の庭の奥にある、山小屋風のこじんまりとした空間、いまここを守っておられるのは、娘にあたる方とそのご家族のようだ。雑誌「岳人」「アルプ」の表紙で知られる素朴でどことなくユーモラスな、かつ力強い作風。故人は四国宇和島の出身で、その風貌もあわせて、まさに山男の雰囲気を感じさせる。

 ふたたび、鶴川陸橋をこえて成瀬方面へでる。芹が谷公園脇に車をとめて、レンガ遊歩道のさきの林に囲まれた井上武吉の野外彫刻と対面しよう。大きなステンレス製の球体で周囲の緑の風景が映り込み、その真ん中には穴が開いていて林の向こうを覗けるようになっている。
 ここに設置されて三十年、日々球体の表面に移り変わる周囲を風景を映しこんできて、何を語りかけているのか。もうすこし薄暗くなってきて、逢魔が刻だ、そっと耳を澄ます。





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