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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

TOKYO2020 自転車ロードレース疾走

2021年08月07日 | 日記

 立秋とはいえ、まだまだ残暑厳しき時節だ。日本国内で新型コロナウイルス感染拡大の続く中、オリンピック東京2020+1大会がまもなく閉会を迎えようとしている。
 ここまでへと至る紆余曲折のいきさつは、メディアを通してネガティブ話題がさまざまに流され、祝祭感なきあきらめと憤まんやるかたなしの気分が横溢していた。いまのネット時代における玉石混淆の情報量の過剰さにもやれやれ、どっとストレス疲れを感じた。

 通勤にJR横浜線を利用しているが、沿線の新横浜国際競技場(日産スタジアム)ではサッカーが、横浜スタジアムではソフトボールと野球が行われている(いた)はずなのに、まるで臨場感が湧かない。もとより巨大化して商業化のすすんでしまったオリンピックの競技自体にあまり関心がないせいもあるが、この暑さと新型ウイルス感染まん延状況にいいかげんうんざり、といった心境に至ったからかもしれない。
 その中でも心惹かれた競技のいくつかがあった。屋外競技のセーリング(江ノ島相模湾)や新競技サーフィン(房総一宮)、そして開会式直後の先月24日から行われた自転車ロードレースである。その男子レースをインターネット中継で観たが、これがとてもよかった。余計な音声や解説がなくて、ひたすら沿道の走行風景だけをときに空撮を織り交ぜながら映し出していたのが実に新鮮だった。

 レースは府中と調布にまたがる富士の森公園をスタートし、しばらくの10キロほどはパレード走行、いってみれば顔見世のような感じで市中を疾走していく。多磨霊園やICU裏門通、府中街道から大國魂神社参道へと至るけやき並木をぬけていくコースの沿道風景がいい。見知った風景が新鮮で、人力アナログの自転車はSDGSの理念にもぴったりと叶う。
 いよいよ是政橋からがレースの始まり、多摩川をわたっていくと一気に緊張感が高まる。多摩丘陵のニュータウンを縫うようにして町田の尾根道路から降りて相模原市域に入り、16号線を横断して橋本付近市街を抜けると相模川に至る。
 そうしていると映像は鮮やかな空撮に切り替わり、新旧の対比が美しい小倉橋の二重アーチが映し出された。この象徴的なシーンに感激する間もなく、レース集団は旧小倉橋(1938年竣工)のほうを次々と走りぬけていく。何度も往復している名橋で相模川にかかる近代橋のなかでは最も歴史がある。対岸の擁壁に大きく掲げられた「TOKYO2020」のロゴシートが映されるとレースの意味を実感できた。

 ここまでが100㌔、沿線は素朴な里山風景で応援する住民の姿もどこか長閑な雰囲気で、レースが地域に溶け込んでいる様子とおだやかな祝祭感がとてもいい。やがて旧津久井町根小屋、長竹から青山に至ると、いよいよ山間のぼりが山梨県境へと続く道志みちに入っていく。山中湖への裏道、何度か通っているドライブコースだ。ここからは空撮シーンが多くなり、ひたすら両側は水源林などの山並みである。
 道志村のおしまいである山伏峠を越えるとこんどは下り、しばらくして前方にはいよいよハイライトシーンの山中湖が見えてくる。さすがにここには夏の観光地の雰囲気が横溢している。こんなところでレースに遭遇したひとたちは幸運だろう。スイスレマン湖畔の避暑地モントルーみたい、といったら大げさか。三十年数年前ほどに大掛かりなジャズフェスティバルを聴きに行った記憶が浮かび上がる。

 湖畔に望む長池親水公園側を四分の三周して旭ヶ丘からのぼりの籠坂峠、須走をへて富士山麓東の自衛隊演習場をぐるりと周回、このあたりの風景はさぞかし雄大だろう。それから山中湖方面にもどって、一度富士スピードウェイに入り、旋回した後に出ていくと三国峠あたりの勾配はきつそうだ。下りからは左手に富士の雄姿、前方には湖を眺められるハイライト地点ということで、実際に走ってみたい誘惑にかられる。沿道にはサイクリストの姿がちらほら、彼らにとっては聖地のひとつなのだろう。ふたたび平野から今度は湖畔を時計回りに走り、旭ヶ丘から再び籠坂を上って、いよいよ二度目の富士スピードウェイがレースゴールである。

 市街地から山間をぬけて湖の水辺、富士山麓と都会から郊外へと至る沿道風景の移り変わり、レースの舞台装置は最高だ。解放感で気持ちが晴れ晴れして同化する。利権渦巻く都会の人工的な競技場内で行われる大部分の種目とは大きく異なる点だ。
 気がついたら、うとうと午睡に吸い込まれていた。長かったレースはようやく終盤の夕刻どき、先頭ゴールが済んで中継は終わろうとしている。夏の盛りの夢のような一日の時間。