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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記
みなつきのころのはな
2016年06月19日
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日記
ことしの梅雨はこれまでカラ梅雨みたいだけど、この時期の花の色は静かに移っていく。ちかくの公園でみかけた花、花、花の姿、雨にしのぶれどひらいて濡れにけり、でひそやかな想いが伝わってくるようだ。
順に、セイヨウヤマボウシ、山紫陽花、花ショウブ、はやり雨に濡れた情景が美しく浮かぶ。
偶然に満ちている世の中のなにか
2016年06月16日
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文学思想
赤瀬川原平さんの“最新作”、偶然と夢日記「世の中は偶然に満ちている」を読んだ。
亡くなられて一周忌にあたる、2015年10月26日初版第一刷発行の奥付があって、編集が松田哲夫氏、装幀は南伸坊氏、尚子夫人と親しい交友、仕事仲間が追悼を込めたであろう遺作集。赤瀬川さんが四十歳の1977年に始まり、2010年1月まで続く日記が大部分だが、偶然小説と称する短編二編もあり、雑誌に掲載されたエッセイが終章となっている。
偶然日記の部分には、日常生活を中心とした交友関係などプライベートなことが書かれているが、あくまでも読者が期待するであろう出来事について公開性を前提としたものが選ばれているのであろう。赤瀬川さんの家族関係や夫婦関係の機微といったあまりに生々しい直接的なものは、その奥先か余韻のようなものとして想像の範囲になるのは致し方ない。それでも、この偶然日記、赤瀬川さんの脳裏に移った記憶の世界として、とてもこころに染み入るものがある。
とくに、ご自宅のある東京郊外、まほろ市周辺の記述は、実在の場所を知っている当方にとっては他人事ではなく、同じ体験を共有したかのような気にさせてくれる。日記の後半には、しばしば私鉄駅の名称が出てくるが、その駅は当方もよく利用する身近な駅で、それならば偶然にその中の駅ビルデパートの中にあるスカイレストランで食事中の赤瀬川さんに出会ってみてもよかったのに、と思ったりもする。
この駅から赤瀬川私邸まではタクシーでほんの10分くらいのはずだ。そうするとそのルート自体、わたしも何度か車で通ったことがあり、沿道の様子がありありと目に浮かぶ。そうか、赤瀬川さんそうだったのかと。赤瀬川さんはその近辺、当初の建売住宅“白い家”から、尾根道沿いに歩いて十五分くらいの“ニラハウス”(1997年竣工、フジモリ氏設計のアトリエと茶室付住宅)へ引っ越しており、その尾根道もまたよく知っている。大山丹沢が望めた西側にIBMグランドがあった。その尾根道周辺で、愛犬のニナや愛猫のミヨは拾われたそうである。
表通り坂道の反対側の丘陵には、かつて著名な研究者を輩出した三菱化学生命科学研究所があった。小田急線からもその丘の上に見え隠れする白い建物が望めて、“生命科学”というコトバに時代の先端を感じて、中で何が研究されているのだろうと興味津々だったのを覚えている。隣接して、かしの木山自然公園があり、こちらには古代鎌倉道が抜けているのだった。なかなか、おもしろいロケーションの範囲が赤瀬川さんの生活圏、日常散歩の場所だった。実在の中学校名、利用しておられたでろうスーパーマーケットの名称も登場してくると、これはもう一気にご近所人としての親近感が増してくる。
偶然小説二編のうち、『舞踏神』は土方巽の死を描いて、なかばノンフィックションに近く、白い家時代のものだろう。ここにも尾根道やこどもの国の小動物園のことがでてくる。また『珍獣を見た人』は、ニラハウスでのできごとで、尚子夫人がでてくるし、ベランダに出現した野生タヌキの写真も添えられていて、ちょうど我が家の中庭にもタヌキとおぼしき動物が出没したばかりだったので、こちらはその偶然を楽しんだ。
ひとつだけ、個人的な“発見”を付け加えると、赤瀬川白い家のある殖産住宅が開発分譲した建売住宅街は、1980年代前半に一世を風靡?したトレンディーテレビドラマ「金曜日の妻たちへ」シリーズのロケ地となった場所でもあった。ドラマ設定では、大和市中央林間の新興住宅地とされていたそうだが、実際のロケ撮影自体は赤瀬川さんの白い家のちょうどむかいあたりで行われたはずだ。
この偶然には、赤瀬川さんもびっくり、だったのではないだろうか、あるいはまったく関心がなかったのか、ハタ迷惑だったのか、いや柄にもなく?やっぱり男女の機微を描いたドラマには関心があってたまには視聴していたのか、ご本人に伺ってみたかった気がする。
センダンの紫の花
2016年06月02日
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日記
日中、梅雨前の快晴となって気持ち良く過ごせた。そのせいか今宵は星空がくっきりと見える。久しぶりに、天上の位置に北斗七星を見つけた。南東天空に輝いているのは、地球に最接近の火星だろうか、ややオレンジがかって明るく見える。
これからはアジサイと花菖蒲の季節となっていくのだろうけれど、いまの時期、近所の水道みちや公園を散歩しているとヤマボウシとクチナシの白い花が、鮮やかな新緑の中から浮かびだすように清楚な感じで咲いている。
ふと先日、センダンの木の花はまだ咲いているのか気になって、何処か近くで見られるところはないだろうかと思案していたら、成瀬の堂之坂公苑のことが頭をよぎった。それですぐに隣町にあるその小さな公苑まで行ってみた。まほろ市内の住宅地に囲まれた一角の堂之坂公苑、入口には門構えがある。もともとは旗本の米蔵のあった地所なんだそう。こじんまりとしているけれどもなかなか珍しい植栽もあり、よく手入れされた気持ちの良い庭園である。これがもし個人のものだったらじつに立派なもので、あまり混むといったこともなく、知る人ぞ知るといった穴場的な静かなところだ。入ってすぐの位置にヒマラヤ杉の大木が二本、その先に小さな芝生広場がひろがっていて、周囲には柿、梅、桜など植えられ、続く遊歩道奥には松や銀杏の大木ものぞめる。
すこし奥まった場所、見上げた大木の枝の先に淡い紫の霞のような感じで花の集合体がまだ残っていて、風に吹かれてるそのたびにその細かいひとつひとつの花々が散り落ちてきていた。都内青山にある根津美術館庭園にも同じくらいの立派なセンダンの木があったことを思い出した。
その場で地上に落ちてきた虫の様なその花を拾い上げてみると、ほんの小さな細長い五弁の花びらが褒章みたいな造形をしていて、ほのかな芳香がする。樹皮や果実は生薬の原料になるのだそうで、小さな花でもどことなく品が漂ってありがたく感じ、掌のうえでじっと見入る。夏の木立の陰影を想像していると、またふらりと訪れてみたい気がしてきた。
しばらくしてその公苑をでてから、すこし成瀬の町並みを歩いてみる。
このあたり、昭和五十年代に横浜線の成瀬駅ができてから宅地化がすすんだ地域だ。駅前から恩田川の方向へ向かってゆるく坂が下り、道の両側の並木の枝ぶりもちょうどよい緑陰をつくっていていい感じだ。道沿いのお店も地元志向で明るく落ち着いている、典型的郊外の成熟した取りすましたところのない、テレビドラマに出てきそうな街並みといえるだろうか。
やっぱり、1980年代に大ヒットしたテレビドラマ「金曜日の妻たちへ」のロケ地となった雰囲気はいまも残っている。当時の世相の中で、このような街並みこそが中流のすこし上の大衆意識をくすぐる典型的な景色であったのだろう。適度な豊かさ、新しい価値観を共有したコミュニティ、かすかな退屈と退廃の予感の中で、仲良し世代夫婦関係を超えた男と女の甘くて苦い背徳の物語が展開されていった。
昼食をとろうと入ったお店は、元酒屋が始めたお店らしかったが、ご近所の主婦同士のランチ会でまことににぎやかで、平日だったのに自営業やブルーカラー、ましてサラリーマンらしき男性の姿は皆無だった。今日は木曜日、週末を控えて密かな住宅街ドラマの予感はあるにしても、このまちはひとまず平穏のようである。
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