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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

ソウル行滞在記2 NANTA!

2019年10月13日 | 旅行

 ソウル滞在二日目の朝、ホテルをでて地下鉄を乗り換え、アングク駅安国洞ちかくの娘おすすめ飲食店「onion」へ。韓国伝統家屋をリノベーションして人気のいまどきベーカリーカフェで、中庭を臨みながらの朝食をとる。ソウル市内でもちょっとした観光地や繁華街にはおしゃれなカフェがたくさんあって、若者や観光客でにぎわっているのは日本と変わらない。
 このあたりは、ソウル漢陽都城内の中心にあたり、朝鮮王朝の宮殿遺構がおおく残っている地域だ。そのひとつ町中にある雲峴宮ウンヒョングンを訪れる。韓国歴史ドラマに出てくるような瓦屋根木造の伝統家屋が立ち並んでいる。住居部分の土台は石造りのオンドルと呼ばれる暖房の高床方式になっていて、ほかの建物と回廊でつながっていて、敷地全体は寺院のように壁で囲まれている。

 つぎは九代王の成宗が三人の王后のために建てたという広大な昌慶宮を訪れる。通りに面した広場のむこうには、日本でいうところの山門のような巨大な極彩色をまとった敦化門がそびえていて圧倒される。ここから正殿である仁政殿へと続いていくのだけれど、なんだか一見して増上寺か東大寺のような仏閣とそっくりの空間構成に見える。

 世界遺産として整備されすぎているのか、信仰空間ではないせいもあって、あまりにもそっけなくガランとして感じられるのだ。そういえば、奈良でも復元された平城京跡はもっと広々とした原っぱに南大門や正殿が建っていたから、政庁跡としてはこのようなものかもしれない。後宮である昌徳宮はさらにそのずうと奥の高台に広がっているようで、たどり着くことができないまま安国駅に戻り、新しくできた施設美術館に併設されたカフェで一休み。

 夕方からは観劇予定があったので、地下鉄で昨日と同じ明洞へとでる。人気のロングラン現代劇「Cookin’ NANTAナンタ」を見るためだ。ナンタとは、乱打の韓国読みのことだそうで、キッチン=調理場のコックたちとマネージャー、その甥っ子を主人公にしたこの舞台劇は、1997年10月10日に始まりブロードウェイ進出もはたして、韓国内に専用劇場が三か所もあり、なんと上演22年目を迎える。その韓国に行くなら、ぜひこの目で確かめてみたいからと、事前に予約をしていたのだ。

 劇場は繁華街のまさにど真ん中、ユネスコ韓国事務所ビル三階にあった。もしかしたら、そのうちにこの舞台が無形文化遺産として認定される日がくるのかもしれない。講堂かなにかの空間を改造した二階席もある劇場で、だいたい三百人余りくらいの定員だろうか。飲食とグッズ販売コーナーがあってシネマコンプレックスとよく似た雰囲気だ。壁にはその日の上演の俳優写真が出ていて、ロングランのためいくつかのチームが交代で出演しているのがわかる。場内には打楽器のリズムに通奏低音が強調された音楽が流れていて、これからの上演への期待感を高めている。

 2019.9.1明洞ナンタ劇場

 舞台上には調理場のセットが組まれていて臨場感たっぷり、さあこれから何かとてつもなくワクワクする舞台が始まるぞっ、と思っていたら、音響が大きくなるとともに場内明かりがフェイドアウトしていき、明転したと思ったら男二、女一のコックたちが飛び出してきて舞台が始まる。いきなりハナから引き込まれる展開だ。

 ストーリーはいたって単純、三人のコックたちが意地悪なマネージャーのからの無理難題を力をあわせて立ち向かっていく過程をコミカルかつリズミカル、スリリングに描く。その無理難題とは、その日夕方の結婚披露宴の料理を一時間後の午後6時までにデザートまで合わせて完成せよ、というもので助っ人としてマネージャーの甥っ子が送りこまれる。ところがこの男がまたとんでもなく役立たず人物で憎めないキャラクター、すったもんだの悪戦苦闘の末の最後は、四人組力を合わせて調理に取り組んで、なんとか披露宴に間に合わせることができて大結団を迎える。

 しばし登場する調理シーンが見もので、韓国の伝統的なサムルノリのリズムで、お鍋をはじめとして台所用品はなんでも楽器と化する。まな板を包丁で叩いたかと思うと、食材をあっという間に切り分け、お玉でフライパンの野菜中身を左端から右端へと渡しながら踊るように調理皿へと振り分けるコック姿の俳優たちの身体能力の高さにビックリさせられる。調理しながらの跳ねたり回転したり宙返りしたりのアクロバットシーンの連続。男優たちの力強い打楽連打シーンもまさしく“NANTA!”の表題通りの見ものだが、キュートな女コック役がへそ部分をくりぬいた調理服姿のまま、長い髪を振り回して跳び回る姿は、まるで歌舞伎の連獅子かサムルノリのシャーマン姿を彷彿とさせて妖艶かつ息をのむくらいの迫力だ。約一時間半のショーのあとは、ちょっとした脱力感に襲われる。

 劇場を出ると、休日夜の町中はさらにあふれんばかりのすごい人込みだ。通りの向こうの丘の上に南山ソウルタワーがそびえたつ。せっかくだから、熱気覚ましも兼ねてタワーのある山頂までソウル市街の夜景を眺めにいこう。そう決めてミョンドン通りの賑わいをかきわけぬけると、大通りの地下道を渡り麓途中にあるロープウェイ乗り場を目指す。もう人通りのない緩くくねったうす暗い道中、閉じてしまった個人商店やゲストハウスの看板 が目につく。

 一時見えなくなってしまっているタワーのライトアップされ空中に浮かんだ雄姿を思い浮かべながら、いま異国にいるんだ、という感覚がからだを満たしている。ここが家族三人で歩いている路地裏、韓国ソウルなんだ、と。

 帰国前日、北村プクチョンの憲法裁判所裏通り。漆喰塀にノウゼンカズラのオレンジが色がよく合う。