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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

懐かしの池袋西武を訪れたら、八ヶ岳高原ロッジへと繋がった

2023年07月31日 | 日記

 ことしの梅雨があけた七月下旬、久しぶりに池袋を訪れた。こちらも久しぶりの東京芸術劇場は、アナトリウムの巨大さに改めて驚かされ、すぐ前の駅前西口公園を横切る際の人並の多さに街中のにぎわいが戻ってきていることを実感した。
 夕方に所用が済んだのですこしブラついて駅脇に僅かに残された古くからの飲食店を捜す。広場に面してのしもた屋風の店構えで、若き日の仕事帰りに良く通った思い出の民家調居酒屋「自在」はとうになく、雑居ビルへと変わっている。新しくなっても看板は残ってほしかったけれど仕方がない。並びの居酒屋「ふくろ」は新しくなって赤ちょうちんの飾りもそのまま、営業を続けている。

 沖縄料理の老舗だった「おもろ」はどうだろう。二階建ての外観はほぼそのままに居抜きのかたちで別の経営に変わってはいるが、雰囲気は濃厚に残ったままだ。山之口獏が命名したそうで、檀一雄、木下順二、野坂昭如など名だたる文化人が通ったそうな。そのお店の空気感は一階のカウンターや二階へとつながる階段などにいまだ面影が残っているように感じられる。

 通常ビックリガードと呼ばれていた頃もあった!山手線と西武線ガード下をくぐって東口側へと回り、池袋西武へと別館側から入ってみた。
 懐かしの池袋西武は強大なウナギ寝床だ。目白寄り別館はもともと駐車場ビルだったフロアを改装したようで、テナントとして書籍の三省堂(リブロはとうにない)と無印良品が入居していた。三階にある西武ギャラリーは、かつての西武美術館(その後セゾン美術館と改称された)の流れをかすかに汲んだ遺構なのかもしれないと思った。もっとも継承という意味では、中軽井沢に「セゾン現代美術館」が収蔵コレクション作品をもとにした展示公開活動を1981年より、地道に続けている。
 かつての美術館のフロアは本館の増築部分当初12階にあったはずで、改称時に下階に拡大オープンした記憶がある。いまは雑貨文具店のロフトへと変わってしまっている。よく通った多目的スペースの「スタジオ200」はとうに幻となり、もう存在しない。

 駐車場入り口横で目指すところを探すけれども、フロアマップにその表記はなく、受付に確認すると六階フロアと教えてくれた。その六階は高級ブテック、宝飾店などが連なるフロアでもっとも百貨店らしい雰囲気がする。目指す「八ヶ岳高原海の口自然郷情報サロン」を見つけたのは中央あたり、思いのほかこじんまりとした間口だ。
 この小さなサロンは富裕顧客を対象とした別荘販売窓口ということになるが、そこはかつての西武セゾングループのよき時代、豊かな自然に囲まれて環境のなかに八ヶ岳高原ロッジがあり、東京目白から旧尾張徳川邸を移築して八ヶ岳高原ヒュッテとし、さらに吉村順三設計による八ヶ岳音楽堂もある文化的リゾートライフを演出している。この三か所の建物の存在があってこそ、ほかの別荘地との違いを象徴している。
 その始まりは意外に古く60年前、バブル時代を遡る1963年からなのだ。そして旧徳川邸は堤康次郎時代の1968年に移築してことしで55周年、そこでのサロンコンサートが建設のきっけになった音楽堂は、子息セゾングループ代表の堤清二氏の肝いりで建設され、1988年の竣工から35周年を迎えた。
 それぞれの移築や建設に至る詳しい経緯は知らないが、いまに至るまで堅実かつ地に足をつけた経営を続けてこれたのは、思いのほかオーナー経営者の意向が介入されずに別荘族の親密なコミュニティと協調してきた現場経営側の姿勢や、時流に流されずに長期的な展望と視点があったからなのだろう。

 池袋サロンで手にした「八ヶ岳森祭」リーフレット、そこに記載された展示や記念フォーラムからもその継承の雰囲気が伝わってくる。「アーツ&クラフツ ~ W.モリスによせて」と題されたチェンバロコンサート&トーク、自然郷開拓当時の様子を写したパネル展や藤森照信さんの講演とチェロコンサートがある旧目白徳川邸移築55周年フォーラムなど興味をそそられる内容であり、すこし無理をしてでも秋のお彼岸の頃にあわせて出かけてみたい気にさせられる。ここにF.L.ライトゆかりの建物か調度品があればもう最高なのになあ。

 五月下旬に小海線の乗って清里から南牧村の八ヶ岳高原周辺を巡る二泊三日の旅にでかけて、いま目白、池袋西武、そして八ヶ岳高原がひとつの大きな輪になって繋がって気持ちも大きく広がってゆく。ようやくここまでつながる連鎖の中に人生半分にあたるであろう、四十年余りの時が流れていて不思議なものだ。

 もう、夕暮れから黄昏時になるころ、迷いなく南池袋の名店「母屋おもや」に立ち寄ることにした。ビルに建て替わってからは初めてだけれど、こじんまりした店内の雰囲気はあまり変わらないようだ。
 もつ煮込みに焼き鳥セットのお任せを一皿、秋田の日本酒冷やでいただき外に出ると、あたりはもうすっかり暗くなっている。足早に駅に急ぐ人の波、名残りはあるけれど、そろそろ帰路に着く時間だろう。
(2023.7.31書き始め、8.23 処暑 校了 9.5「母屋」追記)

追補:一世を風靡した、と枕詞のように形容されるセゾングループは、いまはとうに幻、というよりも当初から消費社会に咲いた“あだ花”と言ってもよく、DNAを各方面に遺して散っていった。
 かつてのグループの象徴といってもいい旗艦店西武百貨店池袋店で8月31日、夏の終わりに歩調を合わせるように労働組合によるストライキが決行され、一日休業したことがニュースとなった。その日の午後、親会社取締役会において外資系ファンドへの売却が決まったことも記しておく。
 当初組合設立を先導したのは、堤清二氏だったとされる。この機におよんでようやく若き日の堤氏の意向が実行され、日の目をみたのは時代の機微か、または皮肉アイロニーかもしれない。(2023.9.7)

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