日々礼讃日日是好日!

まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

新緑の季節、山吹笑う

2017年04月16日 | 日記
 お釈迦様の誕生日花まつりもすぎて、二十四節気でいうところの清明の名の通り、新緑の季節が巡ってきた。その変化の様子は、住まいの中庭にあるケヤキの大木の芽吹きが、むずむずとくしゃみをしそうな色合いからうすい黄緑色へと変化していく日々のなかで感じられる。とくに晴れた日の早朝は、ヒガラの仲間とおぼしき野鳥が盛んにチュピ、チュピ、チュチーとさえずりまわっていて、生命のいとなみを伸びやかに謳ってくれている。

 マンション裏の北斜面に残されたわずかな自然林をよく眺めると、そこには三本の山桜が自生していて、木々全体に薄いサクラ色をちりばめたかのよう。この季節の北斜面緑地は、さまざまな野草の可憐な花が見られて、自然界に息づく多様性に驚かされる。そのひとつ、軽やかで鮮やかな黄色の一重咲の山吹は、先日の植栽作業で下草と一緒に刈り取られてしまっていた。ひそかにずうと楽しみにしていたのに、ほんのわずかしか見かけることしかできなくて、とても残念な気がしていた。
 そこで愛読している「季節を知らせる花」(2014年、山川出版)を手に取って読み返してみる。

 著者の白井明大は、1970年生まれで沖縄在住の若き詩人。その白井さんの文章はじつに平明簡潔でありながら要領を得ていて、こころにすっと入ってくる。加えて本文に添えられた木版画家の紗羅さんが表現する季節の花花の挿画が美しく、文章にぴったりと寄り添っての視覚的効果をあげている。各章下段に挿入された解説、参考文献、巻末の索引が充実していて、編集者のセンスと細やかな心配りに感心するばかり。このような本を作り上げたこと自体が、優れた文化的行為だろうと思う。
 この本からは花の生態そのものについての知識と、その背景にある文学的歴史的素養を得ることができた。帰りの駅改札を出て立ち寄ったのか、たまたまの休日にふらりと覗いてみたときなのか、出会いの記憶はもう定かではないのだけれど、地元本屋での偶然の出会いに感謝である。その日、店内の本棚を巡っているうちに、ふと目に留まったこの本を何の予備知識もなしに手にしてみて、すぐに購入しようと思ったのだ。

 「季節を知らせる花」から「山吹笑う」の章に目を通す。
 
 「吹き渡る風にしなやかに触れながら花が咲きこぼれる様子から、古くは山吹のことを山振といいました」と古名のいわれにふれ、春の山の様子を「山笑う」とたとえるように、山吹の鮮やかな花の咲きぶりに新緑で黄色に染まる山の様子を見てとり、自然の生命力がその咲く花に乗り歌ったかのような名前だと讃えている。そして続く一節が、今春に咲き誇るはずだった幻のヤマブキの花への想いを代弁していて、いにしえといまの心象が重なる。

 「『振る』とは、小刻みに動かすという意味で、そうすることによってものの生命力が目覚め、発揮されると考えられていました。古えの人にとって、山吹色に輝きながら風にふれて生き生きと咲く情景は、まさに生命の息吹そのものに映ったのかもしれません。」

 息吹きと山吹きの音韻が重なる。一定のリズムで吹く=深く吐いて吸うことで、自然な呼吸が生まれる。それこそが生命の源であり、律動だ。

 人生の出逢い風景のなかで変わっていくもの、変わらずにあるもの、それでも季節は繰り返し巡ってくる。自然界の営みは、きまぐれのようでいて人智を超えて、いつも泰然自若としている。

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ドトールの復活、JAZZ喫茶バード1979

2017年04月08日 | 日記
 季節は花曇り、このあたりではソメイヨシノが満開を迎えた。駅前広場に一本だけ残った桜の古木も、その枝枝に目いっぱいの花を咲かせて、遠目には全体がピンク色の綿菓子のように柔らかい姿を見せている。

 先月末、駅前ビルが耐震工事と化粧直しを終えた。それに合わせて一時営業を見合わせていたドトールコーヒーが半年ぶりにリニューアルオープン、ようやく気軽にひと休みできる憩いのカフェ空間が復活したことは地元人としてはなんとも喜ばしい。いまや都心型大手コーヒーチェーンだが、ここまほろ郊外に最初にできたのは1986年6月のことで三十年以上前のことだから、チェーンの歴史の中でもごく初期にあたる。それはお隣の相模大野よりも早いはずで、木製出窓のある温かみのあるデザインだった。新店舗の構えはその手作り感が消えて、よくいえばスマートな標準タイプで取り澄ました感じ。このまちになじんで親しみが沸くには、すこし時間がかかりそう。
 店内カウンター背後のどこかヨーロッパの街並みを描いたパネルはオリジナル、このローカルタウンもそのような街並みになればよいのにと夢想したことがある。あのパネルは残念ながら復活しなかった。もうすこし暖かくなったら、店先のオープンスペースにも愛犬を連れた散歩途中の住人がくつろげるように、いくつかのテーブルと椅子が並べられたらいい感じだ。

 午後から小田急線でとなりのまちへ。旧まほろ街道シルクロードから横丁へ入ると、町田では老舗のジャズ喫茶BARDが見えてくる。この店の佇まいにしてこの看板、裏表ともになんともいえぬ味わいがあって昔から気になっていた。その看板を改めて眺めてみる。入り口側には、ギターを抱えたジョアン・ジルベルトの上半身のイラスト(これってオーナーが描いたものなのか、何ともヘタウマである)、反対側に回ると半分日焼けした味わいのある看板に、店名となったチャリーパーカーのクレジットと代表アルバムジャケットだろうか、BOSSA BAR の文字の下に何故かグリーンのピアノ鍵盤が横にデザインされてて、「1979」の数字がオープン年を表わしている。まだ、東急や丸井がオープンする前の駅前大改造時期のことで、ささやかな個人史における大学入学前の年だ。まもなく四十年がたとうとしている看板が、静かに歴史を物語って佇んでいる。

つい最近まで、このイラストがジルベルトだなんてうかつにも気がつかなかった。
 この店内でボサノヴァ、中村善郎さんのライブを聴いてみたいな。アコースティックベースとフルートのトリオ、あるいはピアノ、サックスのトリオで。もちろんソロでもOK!




  
 そして、BARD表の店構え全体の様子はこちら、シブイよ!
 店入口は通りに面していて、そこをステップアップで入る感じがなんともカッコよくいいイントロを奏でる気分だ。この中の空間で深夜にパットメセニー&チャーリー・ヘイデン「ミズーリーの空高く」を聴いてみたらどんな気分だろう。あるいは、ロバータフラックの初期のボーカルナンバーを。



 

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