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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

サイモン&ガーファンクル「So Long,Frank Lloyd Wright」(1970年)を巡る断章

2013年11月26日 | 音楽

 サイモン&ガーファンクルは、1960年代から1970年までのたった5枚のオリジナルアルバムと1枚の映画サウンドトラックアルバムだけで、青春へのオマージュ、賛歌を捧げる音楽シーンの象徴的存在となった。
 デュオとしてのラストアルバムである「明日に架ける橋 Bridge over troubled water」こそが、もっとも彼らの有名なかつ金字塔的アルバムだろう。収録された全11曲すべてがメロディー・ハーモニーの美しさとリズムの多彩さにおいて全く駄作がなく、ポールの綴る歌詞の世界を含めて何度聴いても新しい発見がある。この作品を発表した当時の二人の年齢(ともに20代後半)と葛藤を重ねた両者の関係性を知ると、まさに名作は人智の与り知らぬ様々な要素の奇跡の中にしか生まれないもの、という思いを新たにする。

 アルバムのタイトル曲「Bridge over troubled water 明日に架ける橋」は、友情に結ばれた静かな祈りのような序幕から、後半のストリングスを交えた盛り上がりがやや過剰なくらいのドラマチックな印象の名曲で、ガーファンクルの一世一代?の名唱だと思う。
 このアルバムの中でさほど有名ではないけれでも大好きな曲が三曲あって、そのなかの一つ、建築好きには外せない「So Long,Frank Lloyd Wrght」について記そうと思う。30年前の大学生当時、この曲を初めて聴いた際は、フランク・ロイド・ライトって誰?といった程度の関心だった。この一曲、アルバムの中ではともするとうっかり聴き流してしまいそうな地味な曲なのだけれども、なかなか味わい深くいぶし銀のような渋さで心に残る。

 S&Gの片割れ、アーティー・ガーファンクルはコロンビア大学で建築を専攻した学生だった。そのガーファンクルがアルバム制作にあたってポールに、ライトをモチーフとした曲を作ってい欲しいと要望したのがこの曲の誕生のきっかけだったという。作中のライトは当然、アーティー・ガーファンクルを暗示していて、なかなかうまく行かないアルバム作りのなかでポールが精いっぱいの抗議の意思を歌ったものらしい。
 全体がボサノバ調のメロディー&リズムで淡々とポールのアーティーに対するかつての親密な交流と一転してその後の行き違いと諦めの心境が綴られているかのようだ。当時アーティーは映画撮影優先のため、アルバム制作のスケジュールを後回しにしていたため、それがポールとの確執を生んでいたようだ。有名になるにつれて、必然的にどうしようもなく生まれてくるエゴのぶつかり合い、そのような緊張感のなかで、結果的に時代に残る名作が生まれたとは皮肉な話だ。
 
 この「So Long,Frank Lloyd Wright」を聴くたびに、二人の苦い思いを追体験したような感覚に陥る。そしてボサノバの曲調から、同じユダヤ系ニューヨーク育ちのアメリカ人歌手、ジャニス・イアンの代表曲「At Seventeen=17才の頃」を連想し、ポールと近い世代であるジャニス・イアン、二人の天才シンガーソングライターのシニカルでありながらも屈折した大人の感性に思いが至る。