彩佳はベッドの上で目を覚ました。
あ、私はどこにいるのだろう?
彩佳はすぐに気が付かなかった。
……そうだ、私は「あの人」と一緒にいる。
思い出した。彩佳の夫の事を。
そして、自分の息子と嫁の事を。
息子達は今夜遊びに来るらしい。そうだった、
私はそういう生活を送っていた。
他に私の人生があっただろうか?
と、彩佳は考えをめぐらせた。
私は「彼」と暮らしていたのだ。
もう長いこと、一緒に暮らしている。
残念ながら子どもは出来なかったけれど、
その分彩佳の事を大事にしてくれた。
一緒に買い物に行き、夕飯を作り一緒に食べる。
ワインを飲みながらテレビを見て大笑いし、
眠くなったわ、と「彼」にキスをする。
すると「彼」は彩佳を抱きしめ、好きだ、と耳元で囁く。
……そんなごく普通の生活を、私は「彼」と送ってきたのではなかったか?と思う。
彩佳はベッドから起き上がると、トイレに行き、
階段を下りて一階に向かう。
すると、これまでの生活の事を思い出したのだった。
私は、この家の主婦なのだ。
もう何十年も君臨しているのだ。
彩佳はため息を一つついて、
ソファでうたた寝をしていた夫に向かって声をかけた、
『そんな格好で寝てると腰に良くないわよ』