何年か前に息子が使っていたノートパソコンを久しぶりに開いたら、
就活のときに使っていたと思われるデータが多数残っていた。
彼なりに一生懸命就活に取り組んだと思われる。
しかし、ほとんどだめだったようだ。
そして、卒業後に拾ってくれた会社で働き始め、
やめたいやめたいと言いながらも、結婚して家庭を持った。
今、昨年生まれた子どもが可愛くて可愛くてしょうがないようだ。
だから、会社をやめないで働き続けている。
だって家族を養わなければならないから。
私はノートパソコンに残されたデータを見ながら考えた。
彼にはやりたいこと、やりたい仕事があったのだろうか?
これ!というものがあったのだろうか?
今の会社だって、もし家庭を持っていなかったら、転職したかもしれない。
家庭を持ったから、嫌なところでも我慢して働いているのかもしれない。
そんなこと、息子の顔を見たからと言って、言うことはない。
「元気でやっているの?」
「みんな元気?」
結婚する前はたまに家に寄って、たまたまあったカレーだの、ハッシュドビーフだの食べたようだ。
今はそんな時間も取れないようだ。だって家族がいるんだもの。
私の息子でありながら、父になってしまった彼。
彼は今しあわせなのだろうか?
一般的に彼のことは幸せと呼ぶだろうし、私も良かったと思っている。
でも、彼は心の奥底でなにか我慢してはいないだろうか。
ふと見てしまった求人広告。
手探りでもがいていた頃の息子が思い浮かぶ。
家の中には使われなくなった雑貨や書類が溢れかえっているが、
パソコンの中にも溢れかえっている。たまたまその中に収まっていて見えないだけだ。
だけどたまたま見てしまったら……。
芋づる式にいろんな記憶が蘇る。
パソコンの中身も断捨離したようがいい。
余計な思い出にひたる時間がもったいない。
過去は二度と戻って来ないのだから。