フィクション『同族会社を辞め、一から出直しオババが生き延びる方法』

同族会社の情けから脱出し、我が信ずる道を歩む決心をしたオババ。情報の洪水をうまく泳ぎ抜く方法を雑多な人々から教えを乞う。

邪念邪気

2023-04-08 18:18:08 | ショートショート

春香は亭主の運転する車で買い物に行く途中だった。

不意に亭主が『…体調が悪かったことがあった…』というのを聞いて、そんな事もあったな、と思ったのだった。

確かに吐き気や倦怠感に悩まされていた時期があった。

春香は『それはどのくらいの時期だったっけ?』と聞いた。

亭主は『2017年の手術のあとちょっとしてからだから2018年くらいかな』と答えた。

ああ、そうだ、それはまさに春香と元彼の次郎と不倫関係にあった時期だった。

亭主の体調不良は次郎が亭主の死を望んだのだろう、と春香は考えた。次郎は亭主を呪ったに違いない。彼はそれだけ春香を愛していたのだ。

しかし、亭主の体調は2年前から回復してきたという。

そう、次郎と逢わなくなったのは2年前。

いっそ呪い続けて殺してしまえば良いのに。そうではないか?

…いや、次郎が亭主を呪ったのではない。

もしかしたら、亭主を呪ったのは、春香かも知れない。

春香の身体に染みついた次郎との逢瀬から醸し出される邪気が亭主の身体にまとわりつき病気にさせたのではないか。

亭主は春香になんか変だなという違和感を抱いたものの、なんの証拠もなく、それでも得体の知れない違和感を抱え続け病気になった。

そして春香からその違和感が消えて亭主の病は治った。

配偶者の邪気が相手の病を引き起こす、まさにそれが起ったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

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俺の姉ちゃんが子供を産んだ。

2022-11-16 19:10:09 | ショートショート

俺んち、両親と姉、妹の五人家族。

こないだ、姉ちゃんの妊娠が発覚した。

親は怒った。結婚もしていないのに!

だけど、色々話し合いをして産むことにした。

生まれたのは男の子。家は賑やかになった。と言うと楽しそうだけど、実際そんな事はない。

楽しくない。うるさい。

その子が1歳を過ぎる頃、姉ちゃんは働くことになった、保育園に預けて。

そりゃいい、うるさいのがいなくなる。

だけど、勤務先では定時に上がれなくて保育園のお迎えに間に合わない。

だから母親とか俺がかり出される、お迎えに。

ふざけんな。俺の人生なんだと思っているんだ。

まともに結婚もしていないくせに俺の時間を搾取しやがって。

ああ、いやだいやだ。

どっかの男といい仲になってこの家出て行ってくんないかな。

あ、子供はちゃんと連れて行けよ。

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結婚

2022-04-29 21:43:53 | ショートショート

自分の自尊心を満たすために、自分より劣る(と男が思っている)女と結婚し、

時には褒めそやし、ほとんど見下し、自分の下僕としてそばに置く。

もしくは、こういう形もあるだろう。

女優。

自分が女優を続けていくために、自分の仕事に理解のある、

自分より売れない俳優を配偶者に選び、

子供が生まれたら家事と子育てをやって貰う。

俳優としての仕事は趣味程度に年に数えるほどで良い。

 

誰もが手にしたい『しあわせ』を手に出来る、良い方法。

世に言う『しあわせ』を手にしたけど、

心は満たされない、何でだろう。

望んでいたはずなのに。

私は誰かのために生きている?

相手を生かすために存在しているなら本望だろう?

愛していたんだろう?

愛は与えるものなのだから。

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人生を金で買う

2022-03-30 17:04:24 | ショートショート

美奈子は1日有給休暇を取った。

正社員として働いているが、持ち帰り仕事が多く、睡眠時間を削って終わらせる毎日だ。

なんだか疲れるな。上司にもそう何回も伝えた。

『美奈子さんは私の顔を見るとすぐ疲れてます疲れてますっていうから…』と言われてしまう。

確かに疲れているんだけど、そうなのかな、と思った。そんなに体力無かったっけ?

仕事中も視野が狭くなり同僚の言動が癇にさわる事が多くなった。

私はもしかしたら鬱なのかもしれない。そんな気もしてきた矢先、ああ、そういえば最近まともな時間に寝ていないことに気づいた。

夜に根を詰めての作業を続けているが、もう無理が出来なくなっているのではないだろうか。

休もう。有給休暇を取った。

いつも出勤の準備をしている時間にまだベッドにいた。二度寝をした。

体はだるいがさすがに起きて朝食を食べなきゃと、起きた。

いつもは見ない振りをしている家の中の片付けを少しした。

睡眠が取れたせいかいくらかすっきりしたような気がする。

銀行に行く用があったので外に出た。歩きながら『私は今日お金で時間を買ったの』と心の中でつぶやいた。

有給休暇で旅行に行くことは良くある事だろう。私もバカンスだ、ただし家で過ごすバカンスだけど。

私のこの1日は時給に換算したら○○円だ。それを払って私は自由な1日を手にしたのだ。

そう考えると、私の人生は会社にまるごと買われてお金を貰い、仕事をしない日にはその日の分を支払わなければならない。と言うことになる。

いや、違う。有給休暇はポイントだ。何年か働いたからポイントがたまり、1日休むときには何ポイントかを使うのだ。

例えば会社で働いていないとしたら?

家にいて何もしていない人は、誰にも買われていないから1日休んでもお金を払う必要が無い。

専業主婦は、家事をしている。それも金で買われているのだろうか。

1日休むときにはお金を払うのだろうか。

と、そこまで考えたときに、美奈子は『あ、私元気になった』と感じた。

こんなとりとめの無い変なことを考える余裕が出来たと言うことだ。

美奈子の有給休暇は元気回復のために役に立ったようだ。

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人生の半分を犬と一緒に生きている。

2021-06-14 20:24:03 | ショートショート

あつしが柴犬のけんたと出会ったのは13歳の時だった。

けんたは父親が買ってきた。少し前に病気をして気が弱くなっていたときに、犬かネコにそばにいてほしくて、母親に、どちらか飼いたいとせがんだらしい。そこで、野良猫は嫌だから犬にして、と言われ、柴犬を扱う店に行き、気にいったけんたを連れてきたのだ。

まだ生後2ヶ月の赤ちゃん犬。仔犬だ。とても小さくてまるでぬいぐるみのようだった。

あつしには兄が二人いたが、二人ともその仔犬に夢中になった。もちろんあつしも夢中になった。

 

あつしは今年、26歳になった。

20歳の大学3年生の時に4学年上のまりと知り合い、大学卒業した歳の11月に婚姻届を出した。22歳だった。すぐに嫁さんは妊娠し、翌年9月に可愛い女の子が生まれた。23歳だった。

嫁さんと一緒に子育てする毎日。

保育園への送り迎えも進んでやる。振り替えで休みの平日には娘も保育園を休ませてどこかへ遊びに連れ出す。

けんたは13歳になった。人間ならもう68歳らしい。良いおじいさんだ。

赤ちゃんだったけんたが、いつの間にかあつしを超えておじいさんになってしまった。

俺は人生の半分をこいつと一緒に生きてきたんだ。

あつしはけんたを見て思う。

犬の一生は人間よりもずっと短い。

あつしにとっては人生の半分だけど、

犬には一生だ。そして、出会った時の年齢よりも長く一緒にいることになるのだ。

けんた、おまえが家に来たときに子供だったあつしは、いまや立派な父親になった。

おまえはあつしの成長を一緒に見守ってくれたね。

毎日散歩したり、耳をなでてくれたり、カーテンで巻かれたり、

いろいろいじられていたね。

そんなあつしが家に帰らなくなってけんたの知らない女性と暮らし始めたあげく、子供までもうけた。

だけど、けんたは怒らなかった。

けんたは優しいね。

けんたが犬で、人間より早く歳を取り、寿命は15年くらいだと言うことは知っている。

だけど、けんたとずっとずっと一緒に歳を取っていきたい。

あつしがおじいちゃんになる頃、けんたも一緒におじいちゃんになろうよ。

 

 

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