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モスクワの夜は更けて Price for staying in Russia

2008-09-05 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2008-9 No.5

オリンピック開始前から始まったグルジア問題はくすぶったままの状態がいまだに続いていますが、ロシアは欧米から思わぬしっぺ返しを受けています。ロシアからの資本逃避が大規模に起こっていて今後のロシア経済の発展に大きな影響が出るかもしれません。

推定によると現時点までにロシアから流出したドルは、210億ドル(2.3兆円)以上に達するということです。その結果大幅に通貨ルーブルが下落をしています。グルジア侵攻までは、ルーブル高を抑えるために通貨当局はルーブルの売り介入をしていたのですから、大変な様変わりようです。

8月中旬にいったん下火になったと見えた資本逃避は、また再燃しているようで、通貨当局のドル売り介入は40億ドルに達した模様です。株式市場も連日4%レベルの下げを見せています。

ロシアは潤沢な資源の輸出を背景に、ネット対外債権国であり、外貨準備高は世界第三位を誇っています。このロシアから資本が逃避し、ルーブルが下落し、株式市場も大きく下げるというこの事態は、一過性のようにも見えますが、米欧の投資家の対露カントリーリスク感が強く反映してきたものと見る必要があるかも知れません。

昨今のグルジア問題のみならず、ポーランドに配備される予定のミサイル防衛網に関するプーチンの発言と行動は、投資家のカントリーリスクについての動物的恐怖感を煽り立てたに違いありません。これはいつか来た道、そうだあの冷戦と代理戦争の時代の再来かもしれないと。

現在欧州はロシアから供給されるガスにそのエネルギーの39%を依存しています。グルジア問題をきっかけに、長く忘却のかなたにおいていた「対露リスク」に覚醒した米英は、今週チェイニー副大統領とブラウン首相の会談時に「EUのガスのロシア依存からの脱却」を訴えました。

またロシアへの投資家心理をさらに悪化させたのは、英露合弁会社資源会社TNK-BPからの外国資本BPの追い出し政策としか思えない強烈な嫌がらせであります。サハリンIIの支配権をShellから奪還したロシアの外資攻撃の第2幕では、BPも粘り強く抵抗した結果一応の決着をみましたが、また何が起こるか予断は許しません。

本日のFTの論説は、次のような警告で締めくくっています:

「このように当初ロシア政府から全面的な許可を取っていても紛争が引き起こされることを銘記すべきである。基幹産業へ大きい投資をする際には、後日政治的介入が行われる危険性があると認識しておく必要がある。石油会社はリスクのある国にも投資しなければならない宿命にあるが、それ以外の投資家は他にも投資に値する国はいくらでもあるはずだ」