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世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

国辱 We have humiliated ourselves as a nation

2008-11-17 | 米国・EU動向
2008-11 No.015

米国が今回の金融危機対策として打ち出した、70兆円の救済資金の使途に関して大きな変更を行い、金融・証券の抱える毀損資産(troubled assets)の買い上げから、金融機関への直接資本注入に切り替えることを発表しました。

その際の、Paulson財務長官のCNBCとの会見での談話は重要で、米国政府の対応が年初来後手に回っているだけでなく、迷走していることを自ら裏付けました。

「議会に承認をもらったときにはすでに、前提とした状況がもっと悪化していることは明らかになっていたのです。手元には限定された資金しかないし、もちろん70兆円というのは巨額ではあるのですが、これをどう使うか、すなわち最大限の効果(impact)を出すにはどうするか、それを考えたら銀行への資本注入しかないわけです」

多少しどろもどろになった後にこの「国辱発言」が出ました。「いろいろな意味で、われわれは国家として、こんな事態に立ち至って、恥をかいた」(humiliated ourselves as a nation)と付け加えたのです。

この自虐発言は、週末からのG20金融緊急サミットでの米国の立場をきわめて弱いものにしたことは否定できません。

オバマ政権経済顧問団 There is no “silver bullet”

2008-11-09 | 米国・EU動向
2008-11 No.008

オバマ政権発足に向けて、経済問題について諮問を受け助言を行う顧問17名の名前が明らかになるとともに、その第一回の会合が,失業率が1994年以来の6.5%になったことが発表されたその日に行われました。

この17名のなかには二人のクリントン政権時代の財務長官が含まれています。Lawrence Summers氏 とRobert Rubin氏のふたりです。他の閣僚経験者としては商務長官であったWilliam Daley氏、労働長官であったRobert Reich氏が含まれています。

連邦銀行幹部経験者としては、もとFED議長のPaul Volker氏が新政権でも重要な地位を占めるものと予測されます。また、もとSEC議長William Donaldsonも注目されます。

一方経済人としては、稀代の投資家として勇名を馳せるWarren Buffet氏に加え、Eric Schmidt氏(Google CEO)、Anne Mulcahy氏(Xerox CEO)、Robert Parsons氏(Time Warner 会長)などが注目されます。

関心を集めているのは、誰が財務長官に誰が就任するかでありますが、現段階ではまだ決定していません。有力候補とされるSummers氏もその点には触れず、経済の現況を極めて厳しいものと認識した上で、『新政権にも「特効薬はない」(There is no silver bullet.)、このような事態になったのは長い時間がかかったのだから、解決にも時間が必要だ』とコメントしています。

なお17名の顧問団のうち、女性は3名です。共和党系は2名です。diversityとbi-partisanship(超党派)を推進しようした割には割合は少ないですが、閣僚がすべて決まってからこの問題は論じたほうがよさそうです。

オバマ颯爽たる門出 Obama to hit the ground running

2008-11-07 | 米国・EU動向
2008-11 No.006

ブッシュ大統領は、オバマ氏が後継者と決まってからホワイトハウス前で演説し、後継者としての同氏の当選を快挙と祝福しました。その演説の中で使われた米語慣用表現“hit the ground running”を英国を代表するFTがトップの見出しに使いました。

この見出し“Obama to hit ground running”は、「(大統領職に就いたら、もしくはその引継ぎ時点から)精力的にうまく仕事を始めてこなしていくだろう」という意味がこめられています。

そして脇見出しは3つ:
①記録的得票率:50%超はカーター大統領以来のこと
②ロシア噛みつく:メドベージェフ大統領が米国のミサイル配備計画に挑戦
③共和党員入閣:超党派的運営のため重要閣僚ポスト二つを用意

この脇見出し三つこそは過不足なく新政権の将来と問題点を表しています。

民主党は、大統領選挙そのもので、圧倒的な得票と選挙人の獲得した大勝利のみならず、同時に行われた上下両院議員選挙でも地すべり的勝利を収めました。この状況に対する共和党の反応を報じている記事の見出しは、
”Republicans begin the soul-searching losing control of all arms of government”
で、敗北を認め共和党は大統領・上下両院の支配を失い自己反省soul-searchingに入ったとしています。

オバマ氏はこうした状況に対して、長らく米国政治が忘れてきた経済・外交の分野における重要政策に関する超党派的協力関係(bi-partisan)の復活を意識しており、目指すのは「若く、そして多様な(diverse)な政府」だとしています。

ここでいうdiverseには人種・性差はもちろんのこと、政党のことも含まれているのでしょう。具体的には経済・外交・安全保障などの重要ポジションには共和党の有力者が指名される可能性を暗示しています。FTはその数を二つと予測しているわけです。

一方ロシアは、この機会に一気に外交的な攻勢に出てきました。米国が対イラン抑止政策の一環として打ち出したポーランド・チェコへの中距離ミサイルの配備への牽制、グルジア問題への介入への抗議、NATOの拡大抑止などが意図されています。もちろん崩壊している株式市場が象徴するロシア経済の問題からロシア国民の目をそらせるという効果も狙っていることでしょう。

いずれにせよオバマ氏にとって、一極支配構造終焉後の世界のバランス再構築が、経済立て直しとともに重要課題であることに間違いはありません。



ペーリン候補の独り立ち Playing for her own future

2008-10-27 | 米国・EU動向
2008-10 No.026

米国大統領選挙戦も終盤に入り、オバマ候補が世論調査では圧倒的にマケイン候補を引き離していて、このままの勢いが維持できれば勝利が間違いないところまで来ているというのが現状です。

TVのニュース報道で、選挙演説を聴いていても、マケイン候補は「負けないぞ」、「あきらめないぞ」というニュアンスが強く出ていて明らかに守勢ですし、未曾有の金融危機が実体経済を崩壊の方向におし出している事態に対して、米国民を納得させ、引っ張ることのできる政策を提示できていません。

さらに、敗色の見えた軍隊の中によく見られる、内部抗争が表面化してきています。ペーリン候補は当初のメディアへの露出規制を打ち破って好きなことを好きなところでいうという、共和党内部の反ペーリン派に言わせると「放言」に近いものとなっています。FTは、「ペーリンは党内も国論も二分(Palin splits nation and party)、緊張高まる」との見出しで報じています。

そして彼女が選挙費用を使って、デザイナーブランドのドレスを買った額がすでに、1,500万円を超えておりあまりの贅沢は目に余るとの非難ごうごうという状況になっています。マケイン氏はこれに対して、「彼女は貧しい家の出の人でつましい生活をしてきたのだ。このことは選挙戦での必要に迫られた結果に過ぎない(thrust into this)」とかばっています。彼女との意見の相違を質された同氏は、「わたしも彼女もはぐれ馬(maverick: 政党内の一匹狼的行動を取る人を指す)だから。しかしワシントンを変えようという根っこは同じ」と釈明しています。

共和党選挙参謀の作り上げた「人形の家」を飛び出したノラならぬペーリン女史は、ソックリさんと一緒にパロディーに出て「おバカ」を演じて大活躍中です。そして、若さとバカさだけで「おもちゃ」扱いをされることを断固拒否して、いまや「次期選挙で大統領を狙う」ペーリンとなった彼女に歯軋りをしている人が共和党に増えつつあります。

EU内騒然 Sarkozy angered Euopean counterparts

2008-10-25 | 米国・EU動向
2008-10 No.024

北京で開催中のASEM首脳会議において、ドイツのメルケル首相同席の公式の場で、サルコジ大統領は金融危機を乗り越えるための連帯を呼びかける演説を行いましたが、その途中で、ドイツとの「意見の不一致」があることを認めました。

FTは、フランス国内で、サルコジ大統領は自分に似せて作ったブードゥー人形の発売禁止を求める訴えを起したと報じている中で、「その人形にわたしが最初にピンを打ってやりたい」と思っている欧州首脳はさぞ多いことだろうからきっとよく売れるだろうに、と揶揄しています。

このところサルコジ大統領は精力的に活動し、発言していますが(2008-10 No.22参照)それらはいちいち欧州の首脳の気分を害し、怒らせ、警戒心を募らせさせてきました。こうしたサルコジ大統領の動きには欧州の秩序を破壊した上で、フランスに都合のよいように改変してやろうとの野心が見え隠れします。

今週、「欧州財務省」構想を突然ブチ挙げましたが、これはいわばEU経済政府(economic government for the EU)のような不可思議なしかも一方的提案であります。そしてサルコジ大統領が永続的にその議長を続けるということまでもが想定されていて、喜んでいるのはフランス国民以外にはないという代物であります。

このように同大統領は、先般ユーロ通貨15カ国の会議を招集・主導して公的資金の注入をきめるなどの成果を挙げた余勢を駆って、ユーロ諸国をないがしろにする発言が多く大きい反発を受け始めています。

特にドイツの反発はEU経済政府をフランスが仕切るというのは、フランクフルトにある欧州中央銀行の存在に関わる問題であるのでなおさらであります。しかも今回事前相談を受けなかったことでメルケル首相の怒りは相当のものがあるようで、それが冒頭のサルコジ発言の伏線となっています。。

さらにサルコジ大統領は、EUの国富ファンド(sovereign wealth fund)を創設して、域外の国富ファンドによる産業資本への「侵略」を防止しようという提案を行っていますが、これは国家資本主義(state-run capitalism)や保護主義(protectionism)への回帰として強い反発を受けています。

しかしサルコジ大統領の意気は軒昂です。「わたしに、拙速に過ぎる(You moved too fast)という人がいる。そうでしょうとも。行動したくない人にとっては」と反論しています。

サルコジ:「G20はわたしが」 “I proposed it a month ago”

2008-10-23 | 米国・EU動向
2008-10 No.022

米国は、金融危機対策のための首脳会議を11月15日にワシントンで開催することを発表しました。この会議には、G8諸国のみならず、中国、ブラジル、インドなど新興国や、アルゼンチン・インドネシア・韓国・メキシコ・南アフリカ・トルコ・サウジアラビアなど20の国と地域の首脳が招待されることになります。

こうした会議に関しては「わが国の経験を生かしてもらいたい」として開催の意欲を示した日本の挙手には一顧だにせず、先週サルコジ大統領とブッシュ大統領がキャンプデービッドで開催を決めたのです。そしてサルコジ大統領は「この開催についてわたしは一ヶ月も前から提案していたのだ」と自己顕示を堂々としています。

米国政府の発表した会議目的は極めて重要なので詳しく書きましょう:

①現在の危機的状況の分析(to address the crisis)
②原因に関する共通理解の深化(to advance a common understanding)
③問題の再発防止のために、世界の金融界の規制機関と制度改革を行うための基本原則の確認(to agree on a common set of principles)

洞爺湖サミットの首脳宣言を読み返せばほぼこんなことが書いてあります。あの時に危惧された金融システムの崩壊が現実化し、その救済や後遺症対策に忙しいいま、20もの参加国の立場は前回以上にバラエティーに富んでいます。そのように多数にして多様な国々の間で一体どんな合意ができるのかが興味深深です。

そして米国大統領選の11日後であるというタイミングで、当選者はブッシュ大統領と一緒に出てくるとしたらどんな立場から発言が可能なのでしょう? また日本の総理はどんな日本国内の政治状況下で出席されるのでしょうか?

新ニュー・ディールの導入 The new New Deal

2008-10-16 | 米国・EU動向
2008-10 No.016

本日のFTは一面を割いて、米国における大きなパラダイム変化を分析しています。

共和党政権による金融危機に対する緊急対策は、市場経済を宗とするAmerican capitalismの終焉であり、「大きな政府」(the return of big government)の時代への回帰、すなわち大恐慌のときにルーズベルト大統領が導入したニュー・ディールの再来ではないか? 

金融機関に対する公的資金の注入決定に際してのポールソン財務長官の言葉―objectionable but necessary(いやだけれどやらなければいけない)が、「小さな政府」を標榜してきた共和党の苦渋をみごとに表しています。
 
大統領選の中でも、マケイン共和党候補ですら「ウオール・ストリートの貪欲」を攻撃することにかけてはオバマ候補に引けを取らないのが現実です。また世論の動向を見ると、「規制撤廃」(deregulation)はもはや金融危機の原因として非難の対象でしかなくなり、何らかの規制強化による金融界の規律回復はもはや常識と化した感があります。

オバマ政権が誕生すれば、政府の財政出動による公共工事などの推進を行い、需要創出による所得の再分配を行うニュー・ディール政策が導入されるかどうかを別にしても、健康保険を国民皆保険とする改革が行われことはまず間違いないと予測されます。

アメリカ人をアメリカ人たらしめている「自由と自己責任」、「市場原理主義」から決別し、「新しい社会契約」の時代に入るのかの分岐点にあるのが現在の米国の状況だということです。

ペイリン候補健闘 No Major Gaffes by Hockey Mom

2008-10-03 | 米国・EU動向
2008-10 No.003

注目の副大統領候補同士の一騎打ち対決は、ABC Newsの放送を見る限り、共和党副大統領候補ペイリン女史が大方の予想に反して大健闘でありました。なんと言っても彼女の若さとみずみずしさが遺憾なく発揮され、核戦争に関する質問で多少言いよどみはあったものの、重要問題での立ち往生はなく「すらすらと」脚本とおり,大失言(gaffe)もなくうまくかわしていきました。

特に彼女の言葉使いは口語表現を多用したくだけたものであり例の「サッカー・ママ」“soccer mom”としての自分の庶民性を強く打ち出しました。さらにここぞというところで4-5度にわたってウィンクを聴衆とカメラに向かってしたのは驚きでありました。中産階級の主流(Main Street)と心を通い合わせる(connecting with them)という作戦に出たわけです。

一方バイデン民主党副大統領候補は、事前トレーニングの要諦をきちんと守り、饒舌さ(verbosity)を抑え、ペイリン氏のいい間違えの揚げ足をとるという田舎モノっぽい(boorish)対応をあえてとらず、「女性蔑視と取られかねない、見下した(condescending)」態度は一切取らなかったのは好印象でした。

同氏は議論になると、ペイリン氏を真正面から捕らえず、マケイン大統領候補の考え方と実績に対して攻撃を加える戦法に出たのが非常に強い印象を与えました。そしてマケイン氏が「ブッシュ大統領とは違う」といいながら、未曾有の金融危機下における経済政策や、イラク・アフガニスタン・イランにおける外交政策で具体的にどこがどう違うのかを説明できていないことを執拗に追及しました。マケイン氏はこの点を今後明確にできないと失地回復はできないというところに追い込まれたも同然です。

両者とも大きな失点もなく両党の選挙参謀たちは胸をなでおろしているわけですが、ペイリン氏の「健闘」にもかかわらず、CBSのGeorge Stephanopoulos記者の通信簿は、「バイデン氏の勝ち」と判定しています。同氏の採点票では、戦略(strategy)では上記の理由によってバイデン氏の辛勝、見栄え(style)ではペイリン氏辛勝、議論の正確度では両者とも△印、そして総合点ではバイデン氏の勝ちというものです。いずれにせよペイリン氏の健闘もオバマ氏の優勢の状況は変える役目(Circuit Breaker)は果たせなかったということです。

さらに新しいニュースとして、マケイン陣営は大票田の重要選挙区であるミシガン州での陣営を撤収しました。これは選挙終盤の動きとしては、オバマ優勢を勢いつかせるものになることでしょう。TVコマーシャルや運動員の手当ては莫大な金額になるため、万一の敗戦の時には膨大な借金としてのこるので、ムダ弾は撃てないという判断を優先したのかもしれません。

参考:2008-9 No.04,No11,2008-10 No.01

ペイリンは無知の多言が、バイデンは無用な失言が心配

2008-10-01 | 米国・EU動向
2008-10 No.01

米国副大統領候補同士の一対一対決討論会はいよいよ明晩、セントポールで行われます。米国民主制度の一つの極致がこの討論に象徴されています。特に未曾有の金融危機に際して、下院が共和党議員の反逆で政府の救済策を却下するという異常事態の中で行われることで、この討論会はいやが上にも注意を集めています。

FTは大きな特集を組んで両候補の現況と討論の見所を評論しています。まずアラスカ州知事ペイリン候補についての記事の見出しは”Abuse plays into Palin’s hands ahead of big test”です。討論会という試練を前に、同女史に対する数々のからかいや中傷が逆にペイリンの強みになったというのです。

一方政界の巧者バイデン候補にたいするものは、”Biden in training to avoid gaffes, verbosity and condescension”となっています。バイデン氏は、失言、無用の饒舌そしてペイリンを見下した態度を取って自滅の危険性があるので、ミシガン州知事(女性)を相手に特訓を行っているということです。

CBSのアンカーKatie Couricによるインタビューが二人に別々に行われたのですが、ペイリンは知識不足が歴然としており無用な言葉の繰り返し(verbiage)に終始してみるに耐えなかったという論評が紹介されています。一方バイデン氏はニューディール政策を引き合いに出した中で、歴史事実を誤って語るなど言わずもがなの饒舌(verbosity)で失点していたとのことです。また同氏は民主党やオバマ氏の政策に関して反対のことを言って何度か注意を受けた経緯があり、これが万一討論会で出ると大変であると民主党幹部は真剣に心配しているらしいのです。

一方、ペイリン候補の「無知」はもはや公認の状態で、多少のいい間違いや的外れは大目に見てもらえるのではないかというところまで人気が出ていることが強みとなっています。いわゆる判官びいき(sympathy factor)という現象です。
そして、最も重要なのはcondescension(見下した態度)で、もしバイデン氏がこうした態度を万一にも取った場合、選挙民は大きくペイリン氏すなわち共和党になびく可能性があります。

ブッシュ大統領も選挙戦中の討論会で言いよどんで無知をさらけだしたときに、相手が見下したため息をついたことで大きく世論を味方につける結果となったのです。ペイリン氏は「彼のほうが一枚上だし、もう勝ったつもりのようですし」と演説で予防線を張って「判官びいき」を引き出そうという作戦を取っています。

関連記事:2008-9 No.11, 10, 6

悲憤する共和党議員 A Huge Cow Patty for Angry Republicans

2008-09-30 | 米国・EU動向
2008-9 No.025

70兆円超の米国政府の金融界救済パッケージが下院で否決された大事件は、日本の朝刊や欧州の新聞の締め切り後に起こりました。週末以来政府案と各党幹部議員の調整は難航を極めていることはうかがい知ることはできましたが、最も強い反対は、共和党の中の自由経済を信奉する議員からのものであったのです。(No.024参照)

投票は議員自身の判断に任されています。ですからオバマ候補がマケイン候補の「ブッシュ一辺倒の履歴」を攻撃する際に「政府提案の議案の80%に賛成してきたこと」を上げるというのはそういう背景があります。ここでは「100%」 ではなく「80%」も賛成したことが問われているわけです。

評決の結果は、民主党の賛成140反対96、共和党の賛成65反対133という予想をまったく覆す大差であり共和党議員の「怒り」は幹部同士の合意を圧倒的大差で粉砕するものでありました。特にブッシュ大統領のお膝元であるテキサス州選出の共和党議員19名のうち15名が反対票を投じたことは注目に値します。地元選挙民からの激しい電話による抗議が相次いだことも報道されており、今回賛成に回ることは、次回の選挙での落選してしまうのではとの恐怖に議員が捕らえられたのも間違いがありません。一方ギャラップ世論調査では、政府案賛成28%、反対68%となっており投票結果を説明するに十分な「民意」が背後にあったといわねばなりません。

投票前のジョージア州選出の共和党下院議員のコメントをFTが報道しています:
「この法案は、ポールソン財務長官が、お友達のために作成した法案だよ」。すなわちポールソン長官はゴールドマンサックスの元CEOだから、所詮ウォールストリートの仲間を助けるものでしかないとの強烈な皮肉です。そして「この救済策は巨大な牛糞(cow patty)だ。真ん中にマシュマロを一個くっつけてあるけど」と付け加えました。所詮「噴飯もの」だと「悲憤」していたわけです。


アメリカ精神の終焉 The End of America’s Big Idea

2008-09-29 | 米国・EU動向
2008-9 No.024

先週金曜日ミシシッピ州で行われた、両大統領候補による討論会(debate)はABC放送のweb siteでも見られました。全選挙民を聴衆としてliveで行うこの討論会は米国型民主主義の一つの形として価値をもっています。オバマ候補が論理的な話し方で、終始マケイン候補をリードしていたのですが、内容的には二人とも明日の米国像を語るという視点はまったく欠落していて結局引き分けといったところで終りました。

未曾有の金融危機に対して、政府の救済パッケージを両党幹部が週末の裏舞台で取引中という状況で、両候補とも論点がはっきりしない物言いに終始したのは、自分の影響力を誇示しても、距離を置いてもいずれにしても、選挙への影響が読みきれなかったからでしょう。

その70兆円超パッケージは週末に両党の合意が成立し、東京市場の開く前にプレス発表が行われました。共和党右派からの『大きい政府』に対する攻撃をかわし、選挙民特に大多数を占める中産階級(Main Street)からの反発を避けるために当初案から妥協が随所に行われましたが、それは次の4点に集約されます。
1) 使途の監督(Oversight)
2) 住宅ローン借り手の保護(Help for Homeowners)
3) 救済を受ける金融機関幹部の報酬制限(Executive Pay)
4) 投入資金回収の方策(Taxpayer Protection)

マケイン候補が最も気にしたのは共和党内部の“「大きい政府」の介入は社会主義同然だ”という非難で、この対処のために討論会の延期を言い出してワシントンに戻ったというあわてぶりは支持率を下げた一つの理由かもしれません。FTのコメンテーターChrystia Freelandの本日のコラムの見出しは、「神の啓示は、苦悩に満ちてアメリカ精神の終末を告げる」(Painful epiphany signals end of America's big idea)であります。そして今回の米国政府の救済策はまさに、「最も純粋な形で長く続いてきた神の手に導かれた自由主義の資本制度の終焉」を告げており、「強い政府の介入と、規制への回帰の時代」を先導するものであると結論つけています。

この「アメリカ精神の終焉」の影響は米国内だけにとどまりません。ちょうどNYでは国連総会が開催されていますが、各国首脳の演説の中でもベネズエラ・ボリビア・イランなどの国々はいっせいに反米コールを繰り広げています。そしてその議場には、80年代から90年代にかけてネオリベラリズムとワシントン・コンセンサスの権化と化したIMF.、世銀、米国財務省の連合軍に「財務政策の規律による収支均衡や、市場原理による経済運営」を強制された国々の代表も座っているのは皮肉なことであります。






「紙の上だけなら簡単なこと」 Simple on Paper

2008-09-22 | 米国・EU動向
2008-9 No.018

米国財務長官Hank Paulson氏の「70兆円緊急パッケージ」に対して「日本の失敗の教訓を生かして極めて迅速に思い切った対策を行ったのはさすが」と賞賛する論調が日本では主流ですが、欧米は「これからが問題」という論調が主流です。FTの「Simple on paper」という見出しがこれらの意見を凝縮しています。ポールソン長官は今週議会の承認を得られると、不良債権のみならず、必要とあらば他の債権も買い取ることができるという絶大な権限が与えられることになります。

しかし、どの不良債権を、どんな価格で買い取るか、買い取った債権をどう処分するのかなどの細目はまったく白紙であり今後その作業は困難を極めることが予想されます。総額1200兆円と目される住宅ローンから製造された多岐にして巨額の「証券化商品」の値踏みと買い取りを、透明性をもって進めるのは容易ではありません。しかし、とりあえず金融市場の「心理的な正常化・安定化」を図るこの強力なカンフル剤に対して, FTのコラムは“Hanks a lot”とポールソン長官の名前をもじって、市場の「感謝」(Thanks)を駄洒落で揶揄して見せています。

いずれにしても、持続的な経済成長のもとで規制緩和と低利調達の環境を最大限満喫して大きく利益をあげた時代は終わり、「大きな政府」が乗り出し規制の網を張り巡らし監視の目を光らせるサイクルに向かって舞台は大きく暗転しました。英国のブラウン首相は「だからあれほど言ったじゃないか。わたしの言ったとおりにしないからこんなことになったんだ」と言い始めました。ドイツのメルケル首相も「国際的な金融秩序・規制論者」です。今週の国連総会や、来月初めの世銀・IMF総会の場での各国首脳の演説は極めて注目に値しますし、国際的な規制枠組みが初めてまじめに論じられることでしょう。



米国金融危機用伝家の宝刀 Mr. Paulson’s Bazooka 

2008-09-21 | 米国・EU動向
2008-9 No.017


米国ポールソン財務長官がどのような信念で、リーマンは救済せず、AIGは救済し、さらには数千億ドル規模の不良債権買取機構の設立を決定するに至ったのかの裏話が、Newsweekの取材記事に現われました。(17日の2008-9 No.14参照)

まずポールソン氏とはどんな人でしょうか? 同氏は、ゴールドマン・サックスのCEOから、2006年にブッシュ政権の財務長官に就任したのですが、当然のことながら政府の規制には反対する「自由主義市場経済の信奉者」(free-market thinker)です。現在62歳。TVや写真から分かりますが、大学時代はフットボールのスタープレーヤーであったと聞けばうなずける偉丈夫です。普段は物静かなクリスチャンですが、話せば力強いなかにもその朴訥さがにじみ出ます。ハーバードのMBAを卒業していて、シカゴのゴールドマンに就職したのが1974年、1982年には同社のパートナーに選ばれています。

とくにアジア市場開拓に専従した時期の中国出張の回数は75回を数えます。1994年の経営危機に際して、コスト削減策の推進で業績回復を果たしたことから頭角を現し、1998年から2006年までCEOの地位にありました。2002年には、エンロンなどのスキャンダル続発に対して、「企業倫理」を財界に呼びかける先鋒にたっています。ちなみにゴールドマン退職の際までに累積していた同氏の持分を現金化した結果5億ドルになったそうです。

さらに、同氏が長官に就任してから、FRBとSECとの協調をとることによって金融政策に関する主導権をウォール・ストリートから完全にワシントンに取り戻したといわれています。これまでずっと規制撤廃や投資減税などではウォール・ストリートが常に先手を取ってきたのですから大変な様変わりです。そうした状況下、先週の展開に関して同氏は、「わたしにとって大変不愉快な選択であった。しかしそうしなかったときのことを考えるとずっとよい選択であったはず」、そして「一体こんなことにしたのは誰かなどという議論は延々とできるけれど、どんなことがあっても夜明けまでに答えを出さなければならない状況に追い込まれていた」とNewsweekに語っています。

就任間もないとき、ブッシュ大統領に、「2009年までになんらかの大きな問題が起こらなければそれこそ驚きだ。大きな問題は6年、8年、10年おきに起こるものです」とご進講したそうですが、そのときはそれがなにかについての見当はついていなかったそうです。その予言とおりに2007年中半からサブプライム・ローンの債務不履行が多発しはじめ、その結果ドミノ効果で政府系の住宅金融関係2社Fannie MaeとFreddie Macの危機が始まりました。

そうした中、2008年3月には、ベア・スターンズ証券の危機が起こり、同氏の主導で、JPモルガン・チェイスへの売却で落着しましたが、この救済は破綻の際の悪影響の大きさを理由にした「例外」とされました。ポールソン氏はこの措置への積極的関与により、一刻も早く脱出しなければならない「危機モード」という袋小路に入ってしまいました。

議会はこうした緊迫した状況のなか、さる7月にはFannie MaeとFreddie Macの救済に関する権限を同長官に付与したのです。ポールソン氏は「バズーカ砲をくれたよ。これでみんなわたしがバズーカを持っていることが分かっただろうから、脅しの効果で取り出して使う必要はたぶん無いだろう」とこの権限を「使う必要の無い伝家の宝刀」にたとえたのでした。しかし、外国政府に発行・売却した両社の巨額の債券が問題となるに及んで、破綻の影響が全世界に及ぶことをおそれ、9月7日に、両社の「国有化」という『バズーカ』を使わざるを得なくなったのです。

さらに、9月第2週になって、リーマンが危機に瀕した際、ポールソン氏は、同社CEOのファルド氏に対して「第三者の救済を受けるよう」に助言しましたが受け入れられませんでした。安易な救済は金融界にモラルハザードを起すという懸念とリーマン破綻の悪影響はベア・スターンズほどの規模の問題とならないという理由からポールソン氏は救済に乗り出さず、ついにリーマンは見捨てられ破産申請をしました。

政府のこの固い意思表示は、メリル・リンチにバンカメへの身売りを決心させる効果を持ちました。一方続くAIGの危機には、金融界全体を揺るがすものとの判断から、議会に救済へ乗り出すと通告してから、『バズーカ』を取り出して発射して実質「国有化」したのです。

しかしこのあとも金融界の動揺はおさまらず、銀行間の疑心暗鬼から相互の貸借は停止状態に陥り、またMMFに対する国民の不安も大きくなりました。ポールソン氏は、7000億ドル(70兆円超)の巨大不良債権買取機構の設立とMMFに対する支払い保証をするという、『超特大のバズーカ』を取り出し、これによって株式市場の信認は木曜日にいたって回復しました。

米国副大統領候補口頭試問 The Bush Doctrine?

2008-09-13 | 米国・EU動向
2008-9 No.11


サラ・ペイリン米国共和党副大統領候補の最初の試練となる、ABCテレビの有名キャスター、チャールズ・ギブソン氏との対談は、911の当日アラスカ州フェアバンクスで行われました。共和党はこの対談の重要性に鑑みて、彼女の外交・軍事政策に関する未経験を不用意にメディアに露出させぬように直前まで、メディアの同氏への接触を巧妙に遮断してきました。

対談の二人の席は、対向して置かれておりしかも脚が接触するくらいに二人の距離は接近させてありました。こうした心理的圧力を感じさせながら、チャールズ・ギブソンの質問も予想通り、彼女の国家安全保障に関する経験と能力が副大統領職に耐えるものであるかどうかについて、鋭く集中していきました。彼女は全体的には堂々たる受け答えをしていましたが、共和党の選挙対策戦略家たちが事前に吹き込んだ「模範解答」を必死で言っているという感は免れないのは当然でありました。

国家安全保障問題の経験に関しては、「国家安全保障の基礎はエネルギー政策。自分はアラスカ州知事として同州の石油・ガス資源政策に関わったことで準備十分」であるとし、「アラスカはロシアと隣接している州だから対露外交への準備も十分」との趣旨で対抗しました。

しかしブッシュ政権のイラク侵攻の原点でもあり米国の軍事・外交政策の基軸的思想であるBush Doctrine(米国の安全が脅かされたと米国が判断した場合、それを阻止するために予防戦争として先制攻撃をすることは許される)について聞かれて、同氏は明らかにそれを知らないことを露呈しました。ギブソンが内容を説明したことにあわせて回答を続けましたが動揺の跡がみられ、事前の脚本を繰り返す感が否めませんでした。

特に、「イランの核攻撃にイスラエルが先制攻撃を加えること」は肯定すべきなのかという議論では、”US cannot second-guess what Israel must do to defend itself”’(イスラエルの自衛行動に米国は余計なくちばしを入れられない)と、second-guessという言葉を3回も繰り返しました。second-guessとは、「審判でもない人間があやふやな判断でプレヤーにあれこれという」という意味の米語です。すなわちイスラエルの行動の無条件承認をすると言い切ったのです。

また同氏は、今回のロシアの一方的軍事介入から始まったグルジア侵攻を、根拠の無い一方的なもの(unprovoked)と表現し、ギブソンに”unprovoked?”と無知を鋭く指摘されました。また「アルカイダ追討のためパキスタンに無許可で越境攻撃をすること」に関する是非を問われて、「米国側の諜報が十分であれば、脅威の除去の権利がある」という極めて重要な回答を引き出しました。外交経験知識レベルでは、ご近所のおばさん”Hockey Mom”並であること、しかしそのタカ派思想は”Barracuda Sarah”ということがはっきりしたわけです。(2008-9 No.4,No6))

民主党内では、世論調査の結果、ペイリン効果によって軒並みオバマ候補がマケイン候補に圧倒的な差がつけられたことに危機感がみなぎっているとのことで、一部の当選一期目の議員には浮き足立つものがいると報道されています。こうした状況下、このTV討論でペイリン氏の弱点がはっきりとし、同氏の政治疑惑(Troopergate)と出張費の過剰請求問題などもメディアが取り上げ始めている状況を最大限捉えた反撃を行い、10月上旬のペイリン-バイデン副大統領候補討論につないでいくことということになるでしょう。




「豚に口紅」騒動 Lipstick on a pig

2008-09-11 | 米国・EU動向
2008-9 No.10

9月11日はさすがに慰霊のために、民主・共和両党ともに口汚くののしるようなTVコマーシャルは全米で控えて、悪口舌戦はお休みにするようです。そのため10日は共和党が「オバマ候補の一言」を捕らえて徹底的な攻撃を行い、一定の効果を挙げたことがABC放送のNews番組から伝わってきました。

それはサラ・ペイリン共和党副大統領候補の人気急上昇に乗ってマケイン氏への支持率がオバマ氏へのそれを凌駕したとの世論調査が相次いでいることに、民主党陣営が多少あせりを見せていることと無関係ではありません。共和党がペイリン氏の選挙民に対する「清新さ」を利用して突然「変革」(change)をいい始めたことに対して民主党が反撃を始め、オバマ候補が早速噛み付いたのです。

「マケイン氏はあらゆる政策でこれまでブッシュ大統領を支持してきたではないか。共和党が言い出した変革は偽物である。マケイン-ペイリン候補の主張のどこがブッシュの政策と違うというのか」という趣旨の演説をした直後にその「一言」が出ました。’You can put lipstick on a pig, it’s still a pig’
です。これは米語辞典にも出ている「お化粧しても、事の本質は変わらない」という意味の慣用句です。この慣用句は、女の人に対する差別発言ととれなくも無いところが問題の発端です。

そしてこの言葉を聞いたとき米国人のほとんどは、共和党大会でのペイリン女史の副大統領候補受諾演説の中での勝ち誇ったような一言’The only difference between hockey moms and pit bull dogs is lipstick’を連想したでしょう。彼女は「わたしはいわずと知れたホッケーママ(2008-9 No.4参照)だけど、闘犬でもあるのよ。違うのは口紅をつけているところだけよ」といったのです。共和党はこのオバマ氏の「一言」をペイリン氏への侮辱だ、女性差別主義者だと徹底攻撃を仕掛けているわけです。

オバマ氏は、その一言の後で、きちんと「古くなった魚を紙にくるんで「変革」と呼んでみても、8年も立った後では腐って臭い匂いがするのは目に見えている。もうたくさんだ」と主張の趣旨を説明しているのです。しかも笑うべきは、マケイン候補はヒラリー・クリントン氏の社会福祉政策に対してまったく同じ「一言」で攻撃を3回も行っているのです。(ABCTVはその3回を編集して流していました) この一件は米国大統領選挙の中傷合戦の「やり方」の教科書的典型例として今後語り継がれるでしょう。もしも万一オバマ候補が敗れた場合には「致命傷」として。